類似群コードが違っても類似?(「AWG治療」事件)

類似群コードが違っても類似?(「AWG治療」事件)

「医療用機械器具の貸与」と「医療用機械器具」は、類似群コードが異なります。

前者は第44類の役務で、類似群コードは「42X09」です。後者は第10類の商品で、類似群コードは「10D01」です。

そのため、特許庁の類似商品・役務審査基準だけを見ると、両者は非類似のようにも見えます。

しかし、「AWG治療」事件では、実際の取引の状況を踏まえ、「医療用機械器具の貸与」と「医療用機械器具(歩行補助器・松葉づえを除く)」は類似すると判断されました(無効2023-890053)。

類似群コードが違っていても、商品・役務の実質的な関係によっては類似と判断されることを示す事例です。

事案の概要

本件商標は、「AWG治療」の文字を標準文字で表した商標です(登録第6320554号)。

本件商標の指定役務には、第44類「医療用機械器具の貸与」が含まれていました。

これに対して、引用商標も同じく「AWG治療」の文字からなり、第10類「医療用機械器具(歩行補助器・松葉づえを除く)」などを指定商品としていました(登録第6217436号)。

両商標は、文字構成が同一です。

そこで問題となったのは、商標そのものの類否ではなく、
「医療用機械器具の貸与」

「医療用機械器具(歩行補助器・松葉づえを除く)」
が類似する商品・役務といえるかどうかでした。

当初、特許庁は両者を非類似と判断し、無効審判の請求は成り立たないとしました。

しかし、知財高裁は、このうち「医療用機械器具の貸与」に関する部分を取り消しました(令和6年(行ケ)第10028号)。

その後の差戻し審では、知財高裁の判断を踏まえ、本件商標の指定役務中「医療用機械器具の貸与」について、商標法4条1項11号に該当するとして登録が無効とされました(無効2023-890053)。

理由1 製造・販売と貸与を同じ事業者が行う例が多かった

商品と役務が類似するかどうかは、単に分類や類似群コードだけで決まるものではありません。

同一又は類似の商標が使用された場合に、取引者や需要者が、同じ事業者による商品・役務だと誤認するおそれがあるかどうかが問題になります。

本件では、医療機器メーカーや関連会社の中に、医療用機械器具の製造・販売だけでなく、レンタルやリースも行っている事業者が多数存在することが認定されました。

また、製造・販売会社と貸与を行う系列会社が、同じハウスマークを使用している例もありました。

需要者から見れば、同じブランドの下で販売と貸与が行われていれば、法人格が異なっていても、同じ事業主体によるサービスだと受け取ることがあります。

このような取引の実情から、医療用機械器具の製造・販売と貸与は、同一の営業主体によって行われることが少なくないと判断されました。

理由2 用途が共通していた

「医療用機械器具の貸与」は、単に物を一時的に引き渡すだけの役務ではありません。

借りた者が、その医療用機械器具を実際に使用することを当然に予定しています。

したがって、貸与の対象となる機器も、販売される医療用機械器具も、最終的には医療目的で使用されます。

審決は、この点から、商品と役務の用途は共通すると判断しました。

商品と役務という形式上の違いがあっても、対象となる物や使用目的が同じであれば、需要者にとって両者の関係は近いものとなります。

理由3 販売場所と貸与の提供場所も重なっていた

医療用機械器具の販売と貸与は、企業の営業所やウェブサイトを通じて行われることがあります。

実際に、同じ事業者のウェブサイトで、販売とレンタル・リースの両方が案内されている例も確認されました。

そのため、販売場所と貸与サービスの提供場所は、同じになる場合が多いと判断されています。

現在では、商品販売とサービス提供のいずれも、同じウェブサイト上で案内されることが珍しくありません。

このような取引環境では、需要者が商品と役務の提供主体を別々のものとして認識するとは限りません。

理由4 需要者の範囲も実質的に重なっていた

被請求人は、医療用機械器具の貸与を利用するのは、主に高額な機器を必要とする医療機関であり、販売される医療用機械器具の需要者とは異なると主張しました。

しかし、審決は、この主張を採用しませんでした。

医療用機械器具には、医療機関で使用される大型の機器だけでなく、一般家庭で使用される治療器、医療用ベッド、リハビリテーション機器なども含まれます。

また、これらの機器が一般消費者向けにレンタルされている実例もありました。

そのため、販売と貸与では需要者の範囲に多少の違いがあるとしても、医療機関や一般需要者を含む点で実質的に重なっていると判断されました。

類似群コードが違っても結論は決まらない

本件で特に重要なのは、類似群コードが異なっていたことです。

「医療用機械器具の貸与」は「42X09」、「医療用機械器具」は「10D01」に分類されています。

通常の商標調査では、同じ類似群コードが付された商品・役務を中心に先行商標を確認します。

しかし、類似群コードは、商品・役務の類否判断を効率的に行うための目安にすぎません。

異なる類似群コードであっても、

・同じ事業者が取り扱っている
・用途が共通している
・販売場所と提供場所が重なっている
・需要者が共通している

といった事情があれば、類似と判断されることがあります。

※参考記事:「区分が違っても商標権侵害になる!?10の落とし穴」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/4909/

反対に、同じ類似群コードであっても、具体的な取引の実情によっては非類似と判断される余地があります。

※参考記事:「類似群コードが一致していても商品は非類似?(「eCB」事件)」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/6699/

この事件から分かること

本件から分かるのは、商品と役務をまたぐ商標調査では、類似群コードだけを見て判断するのは危険だということです。

特に、ある商品について、

・販売
・修理
・保守
・設置
・貸与
・情報提供

といった関連サービスが同じ事業者によって行われている業界では、商品と役務が類似すると判断される可能性があります。

医療機器のように、メーカーが販売だけでなく、レンタル、リース、保守などを一体的に提供することがある分野では、指定商品と指定役務を横断して先行商標を確認する必要があります。

出願時には、自社が現在行っている事業だけでなく、今後予定している販売方法やサービス内容まで考えて、指定商品・役務を検討することが重要です。

また、先行商標を調査するときも、同じ類似群コードの商標だけでなく、実際の取引上関連が深い商品・役務について確認しておく必要があります。

まとめ

「AWG治療」事件では、第44類「医療用機械器具の貸与」と、第10類「医療用機械器具(歩行補助器・松葉づえを除く)」が類似すると判断されました。

両者は異なる類似群コードに分類されていましたが、

・製造・販売と貸与を同じ事業者が行う例が多いこと
・用途が共通すること
・販売場所と提供場所が重なること
・需要者の範囲が実質的に重なること

が重視されました。

その結果、同一の「AWG治療」という商標が使用されれば、同じ営業主体による商品・役務だと誤認されるおそれがあるとして、「医療用機械器具の貸与」についての登録が無効となりました。

類似群コードは商標調査の重要な手掛かりですが、それだけで商品・役務の類否が決まるわけではありません。

サムライツ知財事務所では、類似群コードを踏まえた商標調査だけでなく、実際の取引の状況を考慮した商品・役務の類否検討、指定商品・指定役務の選定、無効審判や拒絶理由への対応についてご相談を承っています。

商品と関連サービスをどこまで調査・出願すべきか判断に迷う場合は、ご相談ください。