類似群コードが一致していても商品は非類似?(「eCB」事件)

類似群コードが一致していても商品は非類似?(「eCB」事件)

結論:類似群コードが一致していても、それだけで商品が類似と判断されるわけではありません。用途・需要者・販売経路などを総合的に見て非類似と判断されることがあります。

今回の「eCB」事件では、本願商標「eCB」と引用商標「ECB」について、審判では商標の類否を判断するまでもなく、指定商品が非類似であるとして拒絶査定が取り消されました。

ポイントは、本願商品の「工業用カーボンブラック」と、引用商品の「家庭用漂白剤・洗濯用蛍光増白剤」が、類似群コード「01A01」で一致していたにもかかわらず、実際の商品内容を検討した結果、非類似と判断された点です。

事案の概要

本願商標は「eCB」(商願2024-136876)です。

指定商品は、

  • 第1類「工業用カーボンブラック」
  • 第2類「カーボンブラック(顔料),カラーインク用顔料,顔料」

です。

引用商標は「ECB」(登録第6376610号)です。

引用商標の指定商品には、第3類「洗濯用蛍光増白剤(家庭用のものに限る。),家庭用漂白剤(脱色用のもの)」などが含まれていました。

審査段階では、本願商品の「工業用カーボンブラック」と引用商品の「洗濯用蛍光増白剤」「家庭用漂白剤」が、類似群コード「01A01」で一致していることから、商品が類似するとして拒絶査定がされていました。

しかし、拒絶査定不服審判(不服2025-17352)では異なる結論となりました。

理由1 類似群コードが一致していても絶対ではない

商標実務では、商品・役務の類否判断において類似群コードが重要な指標として用いられています。

実際、審査段階では類似群コードが一致すると、商品が類似と判断されることが少なくありません。

もっとも、類似群コードはあくまで審査上の判断基準の一つです。

最終的には、

  • 商品の用途
  • 品質
  • 生産部門
  • 販売部門
  • 需要者

などを総合的に検討して判断されます。

本件では、審判がまさにその実質的な検討を行いました。

理由2 用途と品質が大きく異なっていた

本願商品の「工業用カーボンブラック」は、タイヤなどのゴム製品の補強材や顔料、導電材などとして使用される工業材料です。

一方、引用商品の「洗濯用蛍光増白剤」「家庭用漂白剤」は、家庭において洗濯や漂白のために使用される化学製品です。

審判は、

  • 工業製品の材料として使用される商品
  • 家庭で洗濯や漂白に使用される商品

では用途も品質も明らかに異なると判断しました。

同じ化学製品の一種であったとしても、実際の使用目的には大きな隔たりがあります。

理由3 需要者と販売経路も共通しなかった

審判が重視したのは、需要者や販売経路の違いです。

本願商品の需要者は、

  • タイヤメーカー
  • ゴム製品メーカー
  • 工業製品メーカー

などの事業者です。

これに対し、引用商品の需要者は一般消費者です。

また販売経路についても、

本願商品は工業材料として限定的な取引ルートで流通する一方、

引用商品はドラッグストアやホームセンターなどで一般家庭向けに販売されます。

このように、購入者も販売場所も大きく異なっていました。

そのため、同じ商標が使用されたとしても、需要者が同一事業者の商品と誤認する可能性は低いと判断されました。

理由4 生産部門も共通するといえなかった

さらに審判は、生産部門についても検討しています。

工業用カーボンブラックは、工業材料を取り扱うメーカーが製造する商品です。

一方、家庭用漂白剤や蛍光増白剤は、一般家庭向け洗浄製品を製造するメーカーが取り扱う商品です。

もちろん、広い意味では化学メーカーが両方を扱う可能性はあります。

しかし、本件では一般的な取引実情を前提に、生産部門を共通にするとはいい難いと判断されました。

なぜ審判は商標の類否判断をしなかったのか

本件で興味深いのは、審判が商標の類否を検討していない点です。

商標法4条1項11号は、

  • 商標が類似すること
  • 商品・役務が類似すること

の両方を満たして初めて適用されます。

本件では、商品が非類似と判断されたため、その時点で4条1項11号の要件を欠くことになります。

そのため審判は、

「商品が非類似なので、商標の類否を判断するまでもない」

と結論付けました。

類似群コードだけで判断すると危険な場合

この事件からすると、次のようなケースでは類似群コードが一致していても非類似と判断される余地があります。

用途が大きく異なる場合

工業用途と家庭用途のように、商品の使用目的が大きく異なる場合です。

需要者が明確に異なる場合

事業者向け商品と一般消費者向け商品では、混同のおそれが小さいと判断されやすくなります。

販売経路が異なる場合

専門的な取引ルートで流通する商品と、小売店舗で販売される商品では、販売実態が大きく異なります。

生産部門が異なる場合

一般的な取引実情からみて、同じ事業者が取り扱うことが通常想定されない場合です。

逆に類似群コードが重視される場合

もっとも、類似群コードの一致が意味を持たないわけではありません。

実務上は、依然として非常に重要な判断材料です。

例えば、

  • 用途が近い
  • 需要者が共通する
  • 同じ流通経路で販売される
  • 同じメーカーが取り扱うことが多い

といった事情があれば、類似群コードの一致は商品類似を裏付ける強い事情になります。

そのため、類似群コードが一致している場合には、まず類似リスクがあることを前提に検討するのが基本です。

この事件から分かること

この事件が示しているのは、

類似群コードは重要だが、それだけで商品類似が決まるわけではない

ということです。

本件では、

  • 工業用カーボンブラック
  • 家庭用漂白剤・蛍光増白剤

という、用途も需要者も流通経路も異なる商品同士でした。

そのため、類似群コードが一致していても、需要者が同一事業者の商品と誤認するおそれはないと判断されました。

商標実務では、類似群コードが出発点になることは多いですが、最終的には実際の商品内容や取引実情を踏まえた判断が行われることを示した事例といえます。

次の判断に進むために見るべきポイント

商品類似を検討するときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

まず類似群コードを確認する

類似群コードは重要な出発点です。

一致している場合は、まず類似リスクを疑います。

次に用途と需要者を確認する

実際に誰が使う商品なのか、どのような目的で使う商品なのかを検討します。

さらに販売経路と生産部門を見る

同じような販売チャネルで流通しているか、同じ事業者が取り扱うことが一般的かを確認します。

最後に混同のおそれを考える

同じ商標が付されていた場合に、需要者が同一事業者の商品だと考えるかどうかを総合的に判断します。

まとめ

「eCB」事件は、類似群コードが一致していても商品が非類似と判断されることがあることを示した事例です。

本件では、

  • 本願商品は工業用カーボンブラックだった
  • 引用商品は家庭用漂白剤・蛍光増白剤だった
  • 用途と品質が大きく異なった
  • 需要者が事業者と一般消費者で分かれていた
  • 販売経路や生産部門も共通しなかった

ことから、同一又は類似の商標を使用しても出所混同のおそれはないと判断されました。

類似群コードは商標実務上非常に重要ですが、絶対的な基準ではありません。商品や役務の実際の取引実情まで踏み込んで検討することで、拒絶理由を覆せる場合があることを示した事例といえるでしょう。

サムライツ知財事務所では、類似群コード上は抵触しているように見える案件についても、商品・役務の実態や取引事情を踏まえた検討を行っています。
拒絶理由通知を受けた段階はもちろん、出願前のネーミング検討や指定商品・指定役務の整理の段階でも、ご相談いただくことで選択肢が広がる場合があります。