結論:実際に「サイラップ」の使用例が少数でも、指定商品の需要者が「大腿部に巻いて使うサポーター」と認識し得るなら、品質表示として商標登録が認められないことがあります。
今回の「サイラップ」事件では、本願商標「サイラップ」について、商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当すると判断されました。
ポイントは、その言葉が現実に広く使われているかどうかだけではなく、需要者が商品の品質等を表示するものとして認識する可能性があるかです。
審決は、「サイラップ」が実際に多数使用されていなくても、「サイ」が大腿部、「ラップ」が巻くことを意味し、サポーター分野で「〇〇ラップ」という表現が使われている実情を踏まえれば、「大腿部に巻いて使用するサポーター」と理解されると判断しました。
目次
事案の概要
本願商標は「サイラップ」(商願2024-20924)です。
拒絶査定不服審判は、不服2025-749です。
指定商品は、「運動用具,サポーター」などです。
原査定では、本願商標が商品の品質を表示するものとして、商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当すると判断されていました。
審決でもこの判断は維持され、「サイラップ」は登録できないとされました。
理由1 「サイ」は大腿部を意味すると認識されるとされた
審決は、まず「サイ」の意味に着目しています。
「サイ」は、英語の「thigh」の表音を片仮名で表したもので、「大腿部」を意味するとされています。
請求人は、一般的な需要者が「サイ」から直ちに「もも」「大腿部」を想起することはないと主張しました。
しかし審決は、本願指定商品と関連性の深い運動・トレーニング分野や、サポーターの分野では、「サイ」が大腿部の意味で使用されている実情があるとしました。
そのため、「運動用具,サポーター」の需要者は、「サイ」から大腿部の意味を認識することが少なくないと判断されています。
理由2 「ラップ」は巻くことを意味する語として理解される
次に、「ラップ」については、「巻くこと」を意味する語として理解されるとされました。
サポーターやトレーニング用品の分野では、身体の特定部位に巻いて使用する商品について、「〇〇ラップ」という表現が使われています。
審決では、たとえば次のような使用例が挙げられています。
- リストラップ
- ウエストラップ
- アンクルラップ
- ショルダーラップ
- エルボーラップ
- ニーラップ
これらはいずれも、身体の特定部位を示す語と「ラップ」を組み合わせた表現です。
そのため、「サイラップ」も、「サイ」+「ラップ」と自然に理解されると判断されました。
理由3 需要者は「大腿部に巻いて使用するサポーター」と認識するとされた
審決は、「サイ」と「ラップ」の意味だけでなく、取引の実情も踏まえています。
サポーター分野では、身体の部位名と「ラップ」を組み合わせた表現が使われています。
さらに、大腿部に使用するサポーターについて「サイ」の文字が使用されている実情もありました。
これらを総合すると、本願商標「サイラップ」に接した需要者は、これを一体の造語としてではなく、
大腿部に巻いて使用するサポーター
という商品の品質・用途を示すものとして理解するとされました。
そのため、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると判断されています。
理由4 使用例が少なくても3条1項3号に該当し得る
この事件で特に重要なのは、請求人が「サイラップ」の使用例はわずか2つのメーカーに限られており、一般に広く普通に使われているとはいえないと主張した点です。
しかし審決は、この主張を採用しませんでした。
審決は、3条1項3号の適用にあたっては、必ずしも当該商標が現実に多数使用されている必要はないとしています。
重要なのは、審決時点において、その商標が指定商品との関係で、商品を表示記述するものとして取引上必要適切な表示であり、需要者によって、将来を含め、商品の品質等を表示するものと一般に認識されるかどうかです。
つまり、現時点で使用例が多くなくても、将来的に他の事業者も使いたい表示であり、需要者が品質表示として理解し得るなら、特定人に独占させるべきではないという考え方です。
理由5 品質誤認のおそれも認められた
審決は、商標法4条1項16号についても判断しています。
「サイラップ」は、「大腿部に巻いて使用するサポーター」と理解されるため、それ以外の「運動用具,サポーター」に使用すると、商品の品質について誤認を生じるおそれがあるとされました。
つまり、本願商標は、
- 大腿部用サポーターに使えば品質表示
- それ以外の商品に使えば品質誤認のおそれ
という形で、3条1項3号と4条1項16号の両方に該当すると判断されたわけです。
条件1 実際の使用例が少なくても登録NGになりやすい場合
この事件からすると、次のような場合には、現実の使用例が少なくても、品質表示として拒絶されやすくなります。
構成語の意味が指定商品との関係で明確な場合
「サイ」が大腿部、「ラップ」が巻くことを意味するように、構成語の意味が商品との関係で自然に理解される場合です。
業界で類似の表現パターンがある場合
「リストラップ」「ニーラップ」などのように、身体部位+ラップという命名パターンが使われている場合には、同じ構造の語も品質表示と見られやすくなります。
需要者が専門的又は関連分野の用語に慣れている場合
一般消費者全体にはなじみが薄くても、指定商品の需要者がその分野の用語として理解するなら、品質表示性が認められることがあります。
将来的に他人も使う必要がある表示といえる場合
3条1項3号は、現に広く使われている表示だけでなく、取引上必要適切な表示を特定人に独占させない趣旨もあります。
そのため、将来を含めた認識可能性が重要になります。
条件2 逆に登録可能性が残る場合
一方で、次のような事情があれば、品質表示とはいえない方向に働く可能性があります。
構成語の意味が需要者に直ちに伝わらない場合
語の意味が一般的でなく、指定商品の需要者にも理解されにくい場合には、造語として認識される余地があります。
業界に類似の命名パターンがない場合
「〇〇ラップ」のような表現がその分野で一般的に使われていなければ、品質表示とまではいえない可能性があります。
全体として別の独自の語感を持つ場合
構成語を分解すれば意味があるとしても、全体として一つのブランド名のように強く印象付けられる場合には、識別力が認められる余地があります。
指定商品との関係が遠い場合
同じ言葉でも、指定商品との関係で品質や用途を具体的に示さない場合には、3条1項3号には該当しにくくなります。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、「まだ広く使われていないから登録できる」とは限らないということです。
商標法3条1項3号では、現実の使用例の多さだけでなく、
- その言葉が何を意味するか
- 指定商品との関係でどう理解されるか
- 業界に似た表現パターンがあるか
- 将来的に品質表示として認識される可能性があるか
が重視されます。
本件では、「サイラップ」の使用例が少数であるとしても、「サイ」+「ラップ」という構成から、「大腿部に巻いて使用するサポーター」という意味合いが需要者に認識されると判断されました。
次の判断に進むために見るべきポイント
この種の名称を検討するときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
まず、構成語を分解したときの意味を確認する
一見造語に見えても、業界の需要者にとって意味が明確な語の組み合わせであれば、品質表示と見られる可能性があります。
次に、指定商品との関係を見る
その意味が、商品の用途、部位、機能、品質を具体的に示すかどうかを確認します。
さらに、業界で似た表現が使われているかを見る
同じ語そのものの使用例が少なくても、同じ構造の表現が多ければ、品質表示と判断されやすくなります。
最後に、将来の独占適否を考える
他の事業者も、その商品を説明するために使いたくなる表示かどうかを考えることが重要です。
まとめ
実際に「サイラップ」の使用例が広く一般に存在しなくても、需要者が「大腿部に巻いて使用するサポーター」と認識し得るなら、品質表示として商標登録は認められません。
「サイラップ」事件では、
- 「サイ」は大腿部を意味すると認識される
- 「ラップ」は巻くことを意味する
- サポーター分野では「リストラップ」「ニーラップ」など身体部位+ラップの表現がある
- 需要者は「サイラップ」を大腿部に巻くサポーターと理解する
- 実際の使用例が少数でも、品質表示として認識される可能性があれば足りる
という理由から、商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当すると判断されました。
この事例は、説明的な商標かどうかを判断する際に、実際の使用例の数だけでなく、需要者の認識可能性と業界の表現パターンを見ることの重要性を示しています。
サムライツ知財事務所では、こうしたスポーツ用品・ヘルスケア用品のネーミングについて、識別力や品質表示該当性の検討もご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。
