文字のデザイン化次第で、「識別力なし」は覆る?――「HAMAMATSU」「SR」「SS」3つの審決に見る境界線

文字のデザイン化次第で、「識別力なし」は覆る?――「HAMAMATSU」「SR」「SS」3つの審決に見る境界線

商標実務では、地名や短いアルファベット2文字のように、それ自体では識別力が弱いとされやすい文字があります。
そのため、文字を少しデザイン化した程度では、なお「普通に用いられる方法」や「極めて簡単でありふれた標章」の域を出ないとして、登録が認められないことがあります。

ただ、最近の審決を見ると、ここは一律ではありません。
文字のデザイン化のされ方次第では、審査段階での「識別力なし」という判断が、審判で覆ることがあるのです。

今回は、そうした傾向を考えるうえで参考になる3件、すなわち「HAMAMATSU」事件、「SR」事件、「SS」事件をまとめて見てみます。

「HAMAMATSU」はデザイン化しても足りないとされた

まず「」(商願2023-34140号、不服2024-8745)です。
この事案では、商標法3条1項3号該当性、つまり地名等を普通に用いられる方法で表示する標章にすぎないかが問題となりました。

審査・審判段階では、本願商標の欧文字の書体はDruk書体に近いものであり、近似した書体も一般に用いられているという評価がされ、その結果、本願商標は一般に用いられる書体の一類型にとどまり、「普通に用いられる方法で表示するもの」と判断されています。

つまり、「HAMAMATSU」という文字を多少デザイン化しても、そのデザイン自体に独自性が強いとは見てもらえず、なお地名表示の域を出ないとされたわけです。

この事例は、デザイン化されていることそれ自体では足りず、そのデザインが一般的書体の延長にすぎないとみられると、識別力の補強にはなりにくいことを示しています。

「SR」は審判で評価が逆転した

次に「」(国際登録第1544425号、不服2023-650089)です。
これは商標法3条1項5号、すなわち「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に当たるかどうかが争点になった事案です。

審査段階では、近年は各種のレタリング文字が商品や役務、包装等に広く使われていることから、本願商標も全体として格別特殊な態様とはいえず、なお「普通に用いられる方法の域を脱しない」と判断されていました。

ところが、審判では見方が変わります。
審判では、本願商標には一種独特の特徴あるデザインが施されているとされ、さらに職権調査でも、そのような構成態様が商品・役務の品番や型番などとして取引上類型的に広く用いられている事実は発見できないと判断されました。

その結果、「SR」は3条1項5号には該当しないとされ、審査段階の判断が覆りました。

ここで重要なのは、単に2文字だから簡単というのではなく、実際のデザインが取引上ありふれた態様かどうかまで見られているという点です。

「SS」でも同じく審判で覆った

」(商願2023-58218号、不服2024-14389)も、同じく商標法3条1項5号が問題になった事案です。

審査段階では、近年は各種のレタリング文字が広く使用され、様々なデザイン化が行われている実情があることから、本願商標もそのデザインによって強く印象付けられるほどではなく、記号・符号として使用されるものと別異の際立った特徴を備えているとはいえないと判断されました。

しかし審判では、評価が変わりました。
本願商標は、全体として力強く勢いのあるイメージを持たせた一種独特の特徴あるデザインによって表現されたものとされ、さらに、指定商品についてこのようなデザインが施された文字が品番・型番として一般に広く使われている事実は見いだせないとされました。

このため、「SS」も3条1項5号には該当しないと判断されています。

「SR」と同様に、短い2文字でも、デザインに独自性があり、取引上ありふれた表示態様とはいえないなら、識別力なしとは言い切れないという流れが見て取れます。

3件を並べると何が見えるか

この3件を並べてみると、ポイントはかなりはっきりしています。

「HAMAMATSU」では、書体が一般的書体の近似形にとどまり、近い表現も一般に使われているとして、デザイン化の効果は弱く評価されました。
一方、「SR」「SS」では、デザインが一種独特の特徴を備えていることに加え、そのような態様が品番・型番などとして類型的に広く使われているとは認められないことが重視され、識別力が肯定されました。

つまり、境目は単純に「デザイン化しているかどうか」ではありません。
実務的には、少なくとも次の2点が大きいように見えます。

一つは、そのデザインが一般的な書体やありふれたレタリングの延長にすぎないのか、それとも一目で独特といえるのかという点です。
もう一つは、そのような態様が取引の現場で、品番・型番や地名表示などとして広く使われているかどうかです。

「識別力なし」は文字自体だけで決まらない

この点は実務上かなり大事です。
たとえば、地名や2文字商標は、文字情報だけを見れば識別力が弱いとされやすい類型です。けれども、最終的な判断は、その文字がどのような態様で表されているかによって動くことがあります。

逆に言えば、単にフォントを少し変えた程度では足りないこともあります。
「HAMAMATSU」のように、一般的書体のバリエーションの範囲だと見られれば、文字自体の弱さを補えません。
その一方で、「SR」「SS」のように、全体として独特の印象を与えるデザインであり、しかも同様の態様が取引上ありふれていないといえれば、登録可能性は出てきます。

実務的にどう考えるべきか

この3件から学べるのは、識別力が弱い文字を出願するときは、文字そのものの意味や短さだけでなく、デザインの質と市場でのありふれ具合をセットで考えるべきということです。

「少し崩した」「少し太くした」程度では、審査ではなお一般的なレタリングの一種と見られる可能性があります。
他方で、線のつながり方、角の処理、全体の重心や勢いなど、全体として独特の印象を作れている場合には、単なる文字表示を超えたものとして見てもらえる余地があります。

加えて、審判で重視されているのは、そのようなデザインが実際に品番・型番等として広く使われているかどうかです。
ここは、出願時や応答時にどこまで説得的に整理できるかで、結果が変わり得るところだと思います。

まとめ

「HAMAMATSU」事件、「SR」事件、「SS」事件は、いずれも文字のデザイン化が識別力判断にどう影響するかを考えるうえで示唆の大きい事例です。

「HAMAMATSU」では、一般的書体の延長とみられたため、デザイン化してもなお識別力は否定されました。
これに対し、「SR」「SS」では、一種独特の特徴あるデザインであり、そのような態様が取引上ありふれているともいえないとして、審判で「識別力なし」の判断が覆りました。

結局のところ、文字のデザイン化は万能ではありません。
ただし、デザインの独自性が十分にあり、取引上もありふれた態様とはいえないなら、登録可能性を押し上げることはあり得る。
この3件は、そのことをかなり分かりやすく示していると思います。

サムライツ知財事務所では、識別力が弱い文字商標のデザイン化や、ロゴとして出願すべきか文字商標として出願すべきかといった点も含めてご相談いただけます。気になる名称やロゴがある場合は、早めに検討しておくと安心です。