商標を見ていると、「全体としてはかなり違うのに、なぜ類似と判断されたのだろう?」と思うケースがあります。
今回取り上げるのは、「B Pink Bear」と「Pink Bear」をめぐる登録異議の事例です(異議2022-900463)。
ポイントは、商標全体だけを見るのではなく、その中に独立して出所識別標識として機能する部分があるかという点です。
目次
1.今回の商標
本件商標は「
」(登録第6610507号)。
熊をモチーフにした図形と、その下にロゴ化された「B」と「Pink Bear」の文字が配置された構成です。
一方、引用商標は「
」(登録第6521579号)。
こちらは「Pink Bear」の文字だけからなる商標です。
一見すると、
「Bが付いているのだから、別の商標では?」
とも考えられます。
ところが、特許庁の判断は異なりました。
本件商標の一部について登録が取り消されています。
2.なぜ「B Pink Bear」から「Pink Bear」だけが取り出されたのか
商標の類否判断では、必ずしも商標を「全体」としてしか見るわけではありません。
商標の構成の中に、独立して商品の出所を示すような部分があれば、その部分を取り出して比較することがあります。
今回も、まず本件商標の上部にある熊の図形と、下部の文字部分について検討されました。
特許庁は、この図形部分と文字部分について、視覚的にも分離して認識されること、また、両者を組み合わせたことで特定の意味が生じるような関係にもないことから、それぞれが独立して商品の出所を識別する機能を持つと判断しました。
つまり、
「熊の図形」+「B Pink Bear」
という一体的な商標としてしか見ることができない、とは考えなかったわけです。
3.さらに「B」と「Pink Bear」も分離された
ここが今回の重要なポイントです。
本件商標の文字部分には、
「B」「Pink Bear」
が配置されています。
普通に考えれば、「B Pink Bear」という一続きのブランド名にも見えます。
しかし、特許庁は、この2つについても一体のものとは判断しませんでした。
理由の一つは、「B」と「Pink Bear」で書体が異なっていることです。
「B」は独特にデザインされたロゴ。
一方、「Pink Bear」は斜体で表されています。
さらに、両者の間には一定の間隔があり、意味的にも「B」と「Pink Bear」を組み合わせた特定の意味が生じるわけではありません。
そのため、「Pink Bear」の文字が強く支配的な印象を与えると判断されました。
そして、この「Pink Bear」が、独立して商品の出所を識別する標識として機能すると認定されています。
4.「Pink Bear」から生じる称呼と観念
「Pink Bear」は、「ピンクベア」と称呼されます。
また、「桃色のクマ」という程度の観念も生じます。
一方、引用商標も「Pink Bear」です。
当然こちらも、「ピンクベア」という称呼と、
「桃色のクマ」という観念が生じます。
つまり、
本件商標の要部:「Pink Bear」
引用商標:「Pink Bear」
という関係になります。
こうなると、商標全体の構成が違っていても、両者はかなり近い関係になります。
特許庁も、両商標は外観において近似した印象を与え、称呼と観念が同一であるとして、類似する商標と判断しました。
5.「B」が付いていても安心とは限らない
今回の事例から分かるのは、商標に別の文字や図形を追加すれば、必ず別の商標として扱われるわけではないということです。
たとえば、
「ABC+既存ブランド」
という商標を考えたとします。
「ABC」が付いているから大丈夫、と考えたくなるかもしれません。
しかし、その「ABC」と既存ブランド部分が分離して認識され、後半部分が独立して出所識別標識として機能すると判断されれば、後半部分を要部として引用商標と比較される可能性があります。
今回でいえば、「B」が存在しているにもかかわらず、「Pink Bear」が独立した要部と認定されました。
この点は、商標を出願するときにも注意したいところです。
6.ただし、すべての指定商品が取り消されたわけではない
今回の決定では、本件商標の登録がすべて取り消されたわけではありません。
引用商標の指定商品と同一・類似する商品について、商標法4条1項11号に該当すると判断された部分が取り消されました。
具体的には、化粧品や化粧用具などが対象となっています。
一方、それ以外の指定商品については、登録が維持されました。
ここにも、商標権の実務で重要なポイントがあります。
商標が似ているかどうかだけではなく、その商標をどの商品・役務について使用するのかも、最終的な判断に大きく関係します。
7.今回の事件から学べること
今回の「B Pink Bear」事件で特に参考になるのは、次の3点です。
① 商標は必ずしも全体だけで比較されない
商標の中に、独立して識別力を発揮する部分があれば、その部分が「要部」として取り出されることがあります。
そのため、出願前には商標全体だけでなく、
「この部分だけが独立して認識されないか?」
という視点も必要です。
② 文字の配置や書体も判断材料になる
今回、「B」と「Pink Bear」が分離して認識された背景には、書体の違いや配置、間隔などもありました。
商標では、単に「何という文字が入っているか」だけではなく、どのように組み合わされているかも重要です。
③ 指定商品・役務まで確認する必要がある
商標が近いとしても、指定商品・役務が異なれば、必ずしも4条1項11号の問題になるわけではありません。
逆に、商標が似ていて、商品・役務も同一・類似であれば、登録が難しくなる可能性があります。
まとめ
「B Pink Bear」と「Pink Bear」。
全体を見れば、「B」が付いている分、違う商標にも見えます。
しかし、商標の中で「Pink Bear」が独立した出所識別標識として機能すると判断されたことで、引用商標の「Pink Bear」と比較されました。
その結果、称呼も観念も共通し、外観も近似することから、両商標は類似すると判断されています。
商標を考えるときは、「全体が違うから大丈夫」だけではなく、
「商標の中で、独立してブランドとして認識される部分はどこか」
という視点を持つことが大切です。
新しいブランド名やロゴを作ったときも、全体のデザインだけで安心せず、要部になりそうな文字について先行商標を確認しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
商標について、出願前に一度確認しておきたい方へ
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