年25万円から始める採用ブランディング——高専ネーミングライツに見る、中小企業の新しい選択肢

年25万円から始める採用ブランディング——高専ネーミングライツに見る、中小企業の新しい選択肢

ネーミングライツ(命名権)といえば、スタジアムやアリーナのように「億単位」の話を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ところが最近、教育機関——特に高等専門学校(高専)で、中小企業でも十分に検討できる価格帯のネーミングライツが広がっています。

※参考記事:「高専で広がる「ネーミングライツ」 久留米は教室の命名権で契約」(au Webポータル(出典元: 毎日新聞))
https://article.auone.jp/1956b0d9-3b97-460a-8c79-d37bb78574dc

これは単なる話題として消費すべきニュースではなく、採用ブランディングに悩む中小企業にとって、なかなか興味深い動きだと感じました。

高専で広がる、企業ネーミングライツ

報道によると、久留米高専は電子材料メーカーの昭栄化学工業と、教室のネーミングライツ契約(3年間)を締結。約200席の広い教室が「SHOEI D4 ROOM」の愛称になり、教室入り口などにサインが設置されました。

高専施設のネーミングライツは2023年12月の明石高専(兵庫県)から始まり、その後、有明高専(福岡県大牟田市)などにも広がっています。合同講義室、実習工場、製図室、体育館、物理実験室といった施設が対象で、公募時の希望額は年間25万〜80万円ほど。

年間25万円というのは、月あたりに直せば約2万円です。中小企業にとっても、現実的に検討できる価格帯といえます。

中小企業にとっての本当の意味——「接点をどう作るか」

多くの中小企業経営者の方が抱えている採用の悩みが、「良い人材と出会えない」というより手前の、「そもそも自社を知ってもらえない」という接点不足の問題です。特に技術系人材を必要とする製造業やIT企業では、大手企業との認知度の差が採用の場で大きな壁になります。

そこで注目したいのが、「日常的に、繰り返し、社名が目に入る場所を持つ」という発想です。

高専生は、将来の技術人材の中核を担う存在です。彼らが日々学ぶ教室や実習室に企業名が冠されていることは、就職活動の”手前”の段階で企業と学生の距離を縮めます。「気づいたら知っている会社」であることは、採用活動の入り口として、想像以上に大きな価値を持ちます。

“ブランドは使われて育つ”——商標の視点から

商標を扱う立場から、この動きにはもう一つ興味深いポイントがあります。

商標は、登録して終わりではなく、”使い続けて育てる”ことで価値が積み上がっていく資産です。

法律的にも、長期間使用されていない登録商標は不使用取消審判(商標法50条)で取り消される可能性があります。実務的にも、市場で継続的に目に触れている商標のほうが、需要者の記憶に定着し、いざ争いの場面になったときにも保護されやすくなる傾向があります。

高専の教室名として社名やブランド名が3年間、多くの学生・教職員の目に触れ続けることは、まさにこの「使って育てる」機会そのものです。採用効果と、ブランド資産としての商標育成が、同じ予算で同時に進む——ここが、中小企業にとってのネーミングライツ活用の面白さだと思います。

高専以外にも広がる可能性

同じ発想は、高専以外にも応用できます。地元の大学、専門学校、公民館、スポーツ施設、公園、駅前広場——地域には、企業名を掲げられる場が意外と数多くあります。

派手さはなくても、自社の求める人材や顧客層と接点のある場所を選び、無理のない予算で長く続けていく。そうした地道な露出こそ、中小企業のブランドを堅実に育てていく方法のひとつだと感じています。

もちろん、「どこに社名を出すか」と「自社ブランドの印象」が噛み合っているかは、慎重に選ぶ必要があります。「うちのブランドは、どこにあると自然か」「どんな人の目に触れると、次の一歩につながるか」——こうした問いを考えることは、そのままブランド戦略そのものです。

まとめ——採用と商標育成、二兎を追える一手

採用予算と広告費を、それぞれ別々に組んでいる中小企業は多いと思います。ネーミングライツは、この2つを同じ予算で同時に育てられる、比較的珍しい選択肢のひとつです。

今回の高専の事例から見えてくるポイントを整理すると、次のようになります。

  • 年25万〜80万円と、中小企業でも現実的な価格帯
  • 未来の技術人材との接点が、日常的に生まれる
  • 商標が”使われる場”を持つことで、ブランド資産としても育つ
  • 高専以外(大学、専門学校、地域施設など)にも応用の余地がある

「ネーミングライツは大企業のもの」と思い込んでいた領域に、中小企業向けの入口が開き始めている——高専の動きは、そう感じさせる新しい兆しではないでしょうか。

自社のブランドをどこで育てていくか。予算の話だけでなく、”どこにいるべきか”という視点で考えてみると、これまで見えていなかった選択肢が見えてくるかもしれません。