結論:「〇〇US」であっても、全体が一体の造語として認識され、無理なく一連に称呼できるなら、「〇〇」と非類似と判断されることがあります。もっとも、「US」が独立して認識される場合には、結論が変わる余地があります。
今回の「NautoUS」事件では、本件商標「NautoUS」と引用商標「NAUTO」について、外観・称呼・観念を総合すると相紛れるおそれはないとして、非類似と判断されました。
ポイントは、「NautoUS」のうち「Nauto」部分だけを取り出すのではなく、「NautoUS」全体を一体不可分の造語として把握したことにあります。
目次
事案の概要
本件商標は「
」(登録第6887856号)です。
引用商標は「NAUTO」(登録第5963447号)で、異議2025-900072において、商標法4条1項11号及び同項15号の該当性が争われました。
申立人は、AI搭載型ドライブレコーダーや安全運行管理プラットフォームを提供する企業であり、「Nauto」又は「ナウト」の使用実績を主張しました。
しかし審決では、引用商標「NAUTO」が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されていたとは認められないと判断されています。
そのうえで、本件商標「NautoUS」と引用商標「NAUTO」は非類似とされました。
理由1 「NautoUS」全体が一体の造語と見られた
審決は、本件商標「NautoUS」について、語頭の「N」と末尾の「US」が大文字、中間の「auto」が小文字で表されているものの、文字間隔が狭く、全体としてまとまりよく一体的に構成されていると認定しました。
また、「NautoUS」は一般の辞書等に載録のない語であり、特定の意味合いを想起させない一種の造語とされています。
つまり、審決は「Nauto」と「US」を分けて見るのではなく、全体として一つの造語的表示と理解しました。
この点が、今回の非類似判断の出発点になっています。
理由2 「US」部分だけを捨象する事情がないとされた
本件で重要なのは、「US」が末尾に付いているにもかかわらず、審決がこれを直ちに弱い部分とは見なさなかったことです。
審決は、「Nauto」部分が取引者・需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える事情はないとしました。
また、「US」部分についても、本件商標の指定商品との関係で、直ちに商品の品質や種別等を表すものとして識別力を欠く事情は見いだせないとしています。
そのため、需要者は「US」を捨象して「Nauto」だけに着目するのではなく、むしろ「NautoUS」全体を一体不可分の造語として認識すると判断されました。
理由3 「ナウトアス」「ナウトウス」と一連に称呼できるとされた
審決は、「NautoUS」から生じる称呼について、「ナウトアス」又は「ナウトウス」と認定しました。
そして、これらの称呼は格別冗長ではなく、無理なく一連に称呼し得るとしています。
一方、引用商標「NAUTO」からは「ナウト」の称呼が生じるとされました。
その結果、
- 本件商標:「ナウトアス」又は「ナウトウス」
- 引用商標:「ナウト」
となり、語尾の「アス」又は「ウス」の有無が、比較的短い音構成の中では全体の語調・語感に大きく影響すると判断されました。
つまり、「ナウト」を含んでいても、全体としては聞き誤るおそれがないとされたわけです。
理由4 外観でも明確に区別できるとされた
外観についても、審決は両商標を明確に区別できると判断しています。
たしかに、両者は「NAUTO」又は「Nauto」のつづりを共通にしています。
しかし、本件商標は7文字、引用商標は5文字であり、末尾の「US」の有無があります。
さらに、本件商標では「NautoUS」と、大文字・小文字が混在しているのに対し、引用商標は「NAUTO」とすべて大文字です。
このような差異から、両者は外観上も相紛れるおそれはないとされました。
条件1 「〇〇US」が非類似になりやすい場合
この事件からすると、「〇〇」と「〇〇US」が非類似と判断されやすいのは、次のような場合です。
全体が一体の造語として見える場合
「〇〇」と「US」が分かれて見えるのではなく、全体で一つの新しい語のように見える場合です。
文字間隔、書体、全体のまとまりが重要になります。
「US」が品質・産地・種別表示と直ちに理解されない場合
指定商品との関係で、「US」が米国や仕様などを示す説明語として理解されにくい場合には、「US」部分にも一定の識別上の意味が残ります。
「〇〇」部分が著名又は強く支配的でない場合
引用商標「NAUTO」が周知著名であれば、「NautoUS」を見た需要者が「NAUTO」部分に強く反応する可能性があります。
しかし本件では、引用商標の周知性が認められなかったため、「Nauto」部分だけを要部とする方向には進みませんでした。
全体称呼が無理なく一連に読める場合
「ナウトアス」「ナウトウス」のように、全体を一連に称呼できると、前半だけを切り出して比較する必要性は弱まります。
条件2 逆に類似とされる可能性がある場合
もっとも、「〇〇US」が常に「〇〇」と非類似になるわけではありません。
次のような事情があれば、結論は変わり得ます。
「US」が独立して認識される場合
「US」は一般に、米国を示す国コードや「ユーエス」として親しまれた文字でもあります。
そのため、表示態様によっては、「Nauto」と「US」に分けて認識される可能性があります。
特に、語頭の「N」が大文字、「auto」が小文字、末尾の「US」が大文字であることを考えると、「Nauto」+「US」という構成に見えるという意見も十分あり得ます。
「ナウトユーエス」の称呼が自然に生じる場合
本件審決では「ナウトアス」「ナウトウス」とされましたが、実際には「US」を「ユーエス」と読む需要者も少なくないと思われます。
その場合、本件商標からは「ナウトユーエス」の称呼も生じ得ることになります。
そうすると、「ナウト」部分がより明確に前半に現れ、引用商標「NAUTO」との距離が近く見える可能性があります。
「〇〇」部分が周知又は強いブランドである場合
もし「NAUTO」が需要者の間で広く知られていれば、「NautoUS」を見たときに、需要者が「NAUTO」の派生ブランド、米国版、関連会社の商品などと理解する可能性があります。
その場合、4条1項11号だけでなく、15号の混同のおそれも問題になりやすくなります。
「US」が地域・仕様・展開国を示すように使われている場合
ビジネス上、「ブランド名+US」は、米国向けサービスや米国法人を示す表記として使われることがあります。
そのような取引実情があれば、「US」は識別力の弱い付加部分と見られ、「〇〇」部分が要部とされる可能性があります。
今回の審決に残る疑問
この審決は、全体一体性を重視した判断として理解できます。
ただし、ご指摘のとおり、少し疑問も残ります。
特に、「US」は我が国でも「ユーエス」と読まれ、米国を示す文字として広く知られています。
また、本件商標の表記も「NautoUS」であり、末尾の「US」だけが大文字です。
この見た目からすると、需要者が「Nauto」と「US」を分けて把握し、国名を表す「US」部分の識別力が弱いと判断される可能性も十分あるように思われます。この場合は、「Nauto」部分のみを分離抽出して類否判断される可能性があり、引用商標に類似するという結果になった可能性もあり得ます。
そう考えると、「ナウトアス」「ナウトウス」と一連に称呼できることを重視して一体不可分とした点は、やや評価が分かれるところです。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、「〇〇US」のような商標でも、常に『〇〇』部分だけが要部になるわけではないということです。
審決は、
- 引用商標の周知性が認められない
- 「Nauto」部分が強く支配的とはいえない
- 「US」部分が直ちに識別力を欠くとはいえない
- 全体として一体の造語と見える
- 「ナウトアス」「ナウトウス」と一連に称呼できる
という事情を重ねて、非類似と判断しました。
一方で、「US」は独立して認識されやすい文字でもあります。
そのため、この審決は「〇〇USなら常に非類似」と読むべきではなく、『US』がどの程度独立して見えるか、そして前半部分がどの程度強いかによって結論が変わる事例として見るのが適切です。
次の判断に進むために見るべきポイント
「〇〇US」のような商標を検討するときは、次の順番で見ると判断しやすくなります。
まず、全体が一語に見えるかを確認する
文字間隔、書体、大文字・小文字の使い方によって、一体の造語に見えるか、「〇〇」+「US」に見えるかが変わります。
次に、「US」が何を意味すると受け取られるかを見る
指定商品・指定役務との関係で、「US」が米国、仕様、地域、サービス区分などを示すと理解されるなら、識別力は弱く評価されやすくなります。
さらに、前半部分のブランド力を確認する
前半の「〇〇」が周知又は先行商標として強い場合には、後ろに「US」を付けても混同リスクは残ります。
最後に、自然な称呼を複数想定する
「ナウトアス」「ナウトウス」だけでなく、「ナウトユーエス」のような読み方が自然に生じるかも検討すべきです。
実務上は、審査官や審判体がどの称呼を採るかで、結論が変わることがあります。
まとめ
「〇〇」と「〇〇US」は、全体が一体の造語として認識され、無理なく一連に称呼できる場合には、非類似と判断されることがあります。
「NautoUS」事件では、
- 引用商標「NAUTO」の周知性が認められなかった
- 「Nauto」部分だけが強く支配的とはいえなかった
- 「US」部分も直ちに識別力を欠くとはいえなかった
- 「NautoUS」全体が一体不可分の造語と把握された
- 「ナウトアス」「ナウトウス」と一連に称呼できるとされた
ことから、引用商標「NAUTO」とは非類似と判断されました。
ただし、「US」は一般に「ユーエス」と読まれ、米国を示す文字としても親しまれているため、常に一体不可分と見られるわけではありません。
表示態様や取引実情によっては、「〇〇」+「US」と把握され、前半部分が要部とされる可能性もあります。
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