商標の類否判断では、昔から「外観」「称呼」「観念」の3つが基本要素とされてきました。
その中でも、実務上は称呼の共通が比較的強く意識されやすく、「読み方が同じなら危ない」と理解される場面も少なくありません。
ただ、最近の審決を見ていると、外観の差異がこれまで以上に丁寧に評価され、場合によっては称呼の共通があっても非類似とされる事例が目立ってきたように感じます。
今回は、その傾向を考えるうえで興味深い2件、「Restar」事件と「Reels」事件を取り上げます。
目次
「Restar」vs「ЯESTAR」事件
最初の事例は、不服2025-10787です。
本願商標は「Restar」(商願2024-128492号)、
引用商標は「
」(登録第6559013号)でした。
この事件で特徴的なのは、引用商標の冒頭部分の評価です。
審決では、引用商標の左側の「ЯE」に見える部分について、文字ではなく、モノグラムの一種と思しき図形と認定しました。
その結果、引用商標からは「スター」の称呼が生じるのが相当であると判断されています。
その上で審決は、両商標について次のように整理しました。
まず外観については、文字種の相違に加え、図形要素の有無や構成態様が著しく異なることから、印象が大きく異なるとされました。
次に称呼については、本願商標の「レスター」と引用商標の「スター」は、一部に「スター」を共有するとしても、冒頭音と音数が明確に異なるため、明瞭に聴別できるとされています。
観念については、いずれも特定の観念を生じないため、比較不能とされました。
その結果、両商標は非類似と判断されています。
もっとも、この認定には見方が分かれそうです。
専門家の中には、引用商標の左側部分は「RE」と比較的容易に認識されるのではないか、という声もあります。
もしそう見るなら、引用商標から「レスター」に近い称呼が生じ得る余地もあり、結論の見え方は少し変わってきます。
ただ、少なくとも今回の審決は、冒頭部分を図形として把握し、その外観上の差異をかなり強く評価した点に特色があります。
「Reels」vs「ReelZ」事件
次の事例は、不服2025-9214です。
本願商標は「
」(商願2024-52862号)、
引用商標は「
」(登録第6577855号)でした。
この事件では、本願商標の冒頭文字がかなり図案化されていた点が問題になっています。
審決は、本願商標の冒頭部分について、図案化が顕著であって直ちに「R」と認識させるとはいえないとしつつも、「reel」の欧文字が「リール」を意味する成語として親しまれていることから、本願商標は「Reels」の文字を基に図案化したものと看取することも可能であると認定しました。
つまり、本願商標は完全に読めない図形ではなく、一定程度は「Reels」と読まれる余地があるものとして理解されたわけです。
その上で審決は、引用商標「ReelZ」との比較に進みます。
引用商標については、冒頭文字は容易に「R」と認識でき、末尾文字は「Z」であるとされました。
そして、5文字という短い文字数の中では、こうした差異の与える影響は大きいとして、両商標の外観の印象は大きく異なり、判然と区別し得ると判断しました。
一方で、称呼については、本願商標と引用商標はともに「リールズ」の称呼を共通にするとされています。
つまり、読み方は同じとみたわけです。
それでもなお非類似とされたのは、観念と外観の差異が重視されたためです。
審決は、本願商標からは「リール」の観念が生じるのに対し、引用商標からは特定の観念が生じないとしました。
その上で、外観上は明確に区別でき、観念上も相紛れるおそれがないとして、最終的に非類似と判断しています。
この事例は特に興味深いです。
称呼が共通しているにもかかわらず、外観差と観念差によって非類似とされたからです。
この2件から見えてくること
この2件を並べてみると、最近の審決では、外観の差異が従来以上に積極的に評価されているように見えます。
「Restar」事件では、引用商標の冒頭部分を図形とみることで、外観上の印象差を強く打ち出しました。
「Reels」事件では、称呼が共通していても、短い文字数の中での視覚的な差異は影響が大きいとして、外観上の区別可能性が強調されています。
もちろん、これだけで「今後は外観が称呼より常に重視される」とまでは言えません。
商標の類否判断はあくまで個別具体的であり、構成、語の意味、取引の実情、デザインの程度などによって結論は変わります。
ただ、少なくとも、以前よりも
- 図案化の程度
- 構成文字の読み取りやすさ
- 短い文字列の中での差異の位置
- 語が既成語か造語か
といった事情が、外観面からかなり細かく見られている印象はあります。
称呼が同じでも安心できないし、外観が違っても油断できない
この2件から受ける実務的な印象は、少し複雑です。
一方では、「Reels」事件のように、称呼が共通していても外観差や観念差があれば非類似とされることがある。
他方では、「Restar」事件のように、そもそもどこまで文字として読まれるかの評価次第で、称呼自体の取り方が変わることもある。
つまり、類否判断は単に「読みが同じか違うか」だけではなく、どのような見た目で、どのような語として把握されるかまで含めて立体的に見られているということです。
このことは、出願実務にもかなり影響します。
特に、ロゴっぽい商標を作る場合、「文字商標として守りたいのか」「デザインを含めたロゴとして守りたいのか」を曖昧にしたまま進めると、後で思わぬ評価を受ける可能性があります。
ロゴ出願と標準文字出願をどう考えるか
ご指摘のとおり、この2件の審決を踏まえると、自社の商標を適切に保護するためには、
- 文字のデザイン化の程度
- 構成される語が既成語か造語か
- 需要者にどのように読まれそうか
- 外観差がどの程度印象に残るか
といった点を踏まえて、ロゴによる出願と標準文字による出願の双方を行うべきかを慎重に検討する必要があると思います。
たとえば、ロゴとしての独自性が強く、視覚的印象にかなり依存する商標であれば、ロゴ商標としての保護は重要です。
一方で、実際の取引では文字情報として呼ばれることも多いのであれば、標準文字でも押さえておかないと、保護範囲が不安定になることがあります。
逆に、ロゴでしか登録できないような場合もあります。
標準文字にすると先行商標との類似が強く出るが、ロゴ化すれば外観差が効く、という場面です。
このあたりは、まさに今回の2件が示唆しているところだと思います。
まとめ
「Restar」事件と「Reels」事件は、いずれも、外観の違いが商標の類否判断に与える影響を改めて考えさせる事例です。
「Restar」事件では、引用商標の冒頭部分が図形要素として把握され、外観差と称呼差が重視されて非類似とされました。
「Reels」事件では、称呼が共通していても、外観差と観念差が強く評価され、やはり非類似と判断されています。
この2件を見ると、最近の審決では、外観の差異が以前よりも丁寧に評価される傾向があるように思われます。
だからこそ、出願の段階で「文字として守るのか」「ロゴとして守るのか」「両方押さえるのか」を戦略的に考えることが、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。
サムライツ知財事務所では、こうしたロゴ商標と文字商標の使い分けや、先行商標との類否判断を踏まえた出願戦略についてもご相談いただけます。
気になる名称やロゴがある場合は、早めに検討しておくと安心です。
