テレビCMの最後に流れる「ピヨピヨ」という音と、ひよこが羽ばたく短いアニメーション。
映像を見れば「あ、エステーだ」と思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
エステー株式会社は、テレビCMなどで長年使用してきた「ひよこ」のサウンドロゴとアニメーションについて、防護標章として登録されたことを発表しました。
※参考記事:「テレビCMでおなじみ、エステー「ひよこ」の “音””動き”が周知・著名商標に認定 ~防護標章として新たに登録、ブランド保護を強化~」(エステーグループ公式HP)
https://www.st-c.co.jp/news/newsrelease/2026/20260514_002296.html
特に注目したいのは、「動き」に関する防護標章登録は日本初だという点です。
商標というと、会社名や商品名、ロゴマークを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし今回の事例を見ると、ブランドを構成するものは「名前」や「ロゴ」だけではないことがよく分かります。
中小企業や個人事業主にとっても、これからのブランドづくりを考えるうえで興味深い事例です。
目次
「ピヨピヨ、エステー」までブランドになる
今回、防護標章として登録されたものには、大きく「音」と「動き」があります。
音については、ひよこの「ピヨピヨ」という鳴き声に「エステー」という声が重なるサウンドロゴ。
そして動きについては、ひよこが画面上を移動しながら羽ばたき、「エステー」の文字や企業スローガン「空気をかえよう」が現れ、最後にひよこが文字の横に並ぶ約1.5秒間のアニメーションです。

(登録第5804313/01号、画像はJ-PlatPatの登録情報から引用して作成)
わずか1.5秒。
それでも、長年テレビCMを見てきた人にとっては、その音や動きを見聞きしただけで「エステー」を連想できる。
これは企業にとって、とても大きなブランド資産です。
今回、その「音」と「動き」が防護標章として登録されたことは、こうした表現がエステーを示すものとして広く認識されていることが認められ、通常の商標登録よりも一歩踏み込んだ保護を受けることになったということです。
そもそも「防護標章」とは?
少し専門的になりますが、「防護標章」という制度について説明します。
通常、商標権の効力は、登録した商標と、その商標を使用する商品・サービスとの関係で決まります。
たとえば、ある商品について商標登録したからといって、世の中のあらゆる商品・サービスについて同じ名称の使用を禁止できるわけではありません。
ところが、ブランドが非常に有名になると事情が変わります。
まったく違う商品やサービスであっても、同じ商標が使われれば、
「この会社の商品なのかな?」
「系列会社なのかな?」
「何か提携しているのかな?」
と消費者が誤解する可能性が出てきます。
そこで、著名な登録商標について、一定の要件を満たした場合に、非類似の商品・サービスにまで保護を広げられるのが「防護標章登録制度」です。
※参考記事:「著名な商標をより手厚く保護するための「防護標章登録」とは?」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/5559/
つまり、防護標章登録は、単純に「商標を登録しました」という話とは少し違います。
長年育ててきたブランドだからこそ必要になる、より広い保護の仕組みなのです。
ブランドは「名前」だけではない
今回のニュースで私が特に興味深いと感じるのは、「音」と「動き」がブランド資産として保護されている点です。
商標という言葉から、
会社名、商品名、サービス名、ロゴマーク
などを思い浮かべる方は多いでしょう。
もちろん、これらは非常に重要です。
しかし、消費者が企業を認識するきっかけは、それだけではありません。
たとえば、
- CMでいつも流れる短いメロディ
- 商品を見た瞬間に分かる特徴的な色やデザイン
- 店舗で繰り返し使われる印象的な演出
- キャラクターの特徴的な動き
- 商品を開けるときの体験
こうした要素も積み重なれば、その企業を思い出す「ブランドの記憶」になっていきます。
※参考記事:
「音商標とは?商標専門弁理士がわかりやすく解説」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/5049/「動き商標とは?商標専門弁理士がわかりやすく解説」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/5075/
エステーのひよこも、まさにそうでしょう。
ひよこのイラストだけではなく、「ピヨピヨ」という音、画面に登場する動き、そして「エステー」という社名。
それらがセットになって何十年も繰り返されることで、
「これを見たらエステー」
という記憶が消費者の中に形成されてきたのだと思います。
ブランド資産は「積み重ね」でつくられる
エステーでは、創業当初から「ひよこ」をコーポレートロゴのモチーフとして採用してきたといいます。
さらに、「エステー」や静止画の「ヒヨコマーク」、「消臭力」、「ムシューダ」といった重要なブランドについても、防護標章登録を進めてきました。
ここから分かるのは、ブランドは突然生まれるものではないということです。
同じ名前、同じマーク、同じ世界観、同じメッセージ。
そうしたものを長い時間をかけて繰り返し届けることで、「その会社らしさ」が人々の記憶に蓄積されていきます。
ブランドづくりというと、新しいロゴを作ったり、キャッチコピーを考えたりすることに目が向きがちです。
しかし、それ以上に大切なのは、
「何を自社らしさとして、継続して育てていくのか」
を決めることなのかもしれません。
中小企業でも「自社らしさ」を知財として考えてみる
もちろん、すべての中小企業が音商標や動き商標を登録したり、防護標章登録を目指したりする必要があるわけではありません。
防護標章は著名な登録商標を前提とした制度ですから、まず中小企業や個人事業主が考えたいのは、もっと基本的なところです。
自社にとって、お客様から覚えてもらいたいものは何でしょうか。
会社名でしょうか。
商品名でしょうか。
サービス名でしょうか。
ロゴやキャラクターでしょうか。
それとも、特徴的なフレーズや音でしょうか。
まずは、「自社のブランド資産は何なのか」を棚卸しすることが重要です。
そして、その中でも長期的に使い続けたいものについては、商標などによって守る必要がないか検討してみる。
小さな会社ほど、社名や商品名に信用や評判が集中することがあります。
だからこそ、「ブランド資産を特定して、育てながら守る」という視点は、大企業だけのものではありません。
「覚えてもらえるもの」は会社の資産になる
エステーの今回の事例は、商標の可能性をとても分かりやすく示していると思います。
わずか1.5秒の音と動きでも、何十年と積み重なれば、企業を象徴する大切なブランド資産になる。
これは、中小企業や個人事業主にとっても参考になる話です。
「うちにはブランドなんてない」
と思っていても、お客様が会社を覚えてくれている「何か」があるかもしれません。
- いつも使っている商品名。
- 特徴的なロゴ。
- 長年親しまれているキャラクター。
- 繰り返し使っているキャッチフレーズ。
それらは単なるデザインや言葉ではなく、会社への信用や記憶が積み重なった無形の資産になっていきます。
ブランドは、作って終わりではありません。
使い続け、覚えてもらい、信用を積み重ね、そして必要なものは知的財産として守っていく。
エステーの「ひよこ」は、その積み重ねが大きなブランド資産になることを象徴する事例ではないでしょうか。
自社のブランド、きちんと守れていますか?
- 「会社名や商品名を商標登録した方がいいか分からない」
- 「ロゴやキャラクターも商標として守れる?」
- 「長年使っているブランドがあるけれど、何も対策していない」
- 「自社のブランド資産を一度整理してみたい」
そんなお悩みがありましたら、サムライツ知財事務所までお気軽にご相談ください。
商標・ブランドを専門とする弁理士として、単に「商標を取る」だけではなく、何をブランド資産として育て、どのように守っていくかという視点から、一緒に考えさせていただきます。
※サムネ画像はJ-PlatPatの登録第5804313/01号の商標登録情報から引用して作成
