特許庁が公表する「特許行政年次報告書」には、日本国内だけでなく、海外を含めた知的財産をめぐる動向がまとめられています。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2026/index.html
今回は「特許行政年次報告書2026年版」のうち、商標に関するデータを中心に見ていきます。
目次
日本の商標出願は2025年に増加へ
まず注目したいのは、日本国特許庁(JPO)への商標登録出願件数です。
近年は減少傾向が続いていましたが、2025年には増加へ転じ、出願件数は168,114件となりました。このうち、国際商標登録出願は16,570件です。
商標出願が再び増加に転じたことは、企業や個人事業主などによるブランド保護の動きが引き続き活発であることを示す一つの材料といえます。
新しい商品やサービスを始める際、商品名やサービス名を決めるだけでなく、それを商標として保護するところまで考えることが、以前にも増して重要になっています。
1出願あたりの区分数は約2区分
商標は、商品・サービスの内容に応じて45の「区分」に分かれています。
1件の出願で複数の区分を指定することも可能です。
国際出願を除く国内出願では、1出願あたりの平均区分数は1.95区分前後、国際出願を含めると1.97区分程度で推移しています。
つまり、平均すると1件の商標出願で約2区分が指定されていることになります。
実務上も、一つの事業が一つの区分だけで完結するとは限りません。
例えば、アプリを提供する事業であれば、ダウンロード可能なアプリだけでなく、オンラインで提供するサービスなど、事業内容によって複数の区分を検討する必要があります。
商標出願では、「名前を登録する」という発想だけではなく、「その名前をどの商品・サービスについて守るのか」という視点が重要です。
商標審査はかなり早くなっている
商標出願を検討している事業者にとって、もう一つ注目したいのが審査期間です。
2025年度平均では、出願から一次審査通知までのFA期間が6.6か月、権利化までの期間が7.5か月となっています。
以前と比較すると、商標の審査期間は大きく短縮されています。
もちろん、拒絶理由通知への対応が必要になった場合などは、これより時間がかかることがあります。
それでも、新しいブランドやサービスを立ち上げる企業にとって、比較的短期間で商標登録の結果が見えてくることは大きなメリットです。
一方で、審査が早いということは、他社に先に出願された場合、その商標が早期に登録される可能性もあるということです。
使用開始後に出願を考えるのではなく、名称を決めた段階で先行商標を調査し、必要であれば早めに出願することが重要です。
登録査定率は87.5%
2025年の商標登録査定率は87.5%となっています。
数字だけを見ると、「商標はかなり高い確率で登録される」と感じるかもしれません。
ただし、これは「どのような商標でも87.5%の確率で登録できる」という意味ではありません。
識別力のない名称や、他人の先行商標と類似する名称などは、当然ながら拒絶される可能性があります。
また、出願前に調査を行い、登録可能性の低い商標を避けているケースも含まれています。
そのため、登録査定率が高いからといって、事前調査をせずに出願してよいということではありません。
むしろ、出願前に登録可能性を確認し、適切な商品・役務を指定することが、スムーズな権利化につながります。
日本への外国出願では中国の存在感が大きい
外国人による日本への商標出願を見ると、中国からの出願が20,435件で、約42.1%を占めています。
次いで、米国が16.4%、欧州が13.1%、韓国が9.7%となっています。
外国から日本への商標出願の中で、中国の存在感が非常に大きくなっていることが分かります。
日本企業にとっても無関係ではありません。
日本国内で新しいブランドを立ち上げる場合であっても、先行商標の調査では国内企業だけを意識すればよいわけではありません。
海外企業が日本で商標権を取得しているケースも多いためです。
世界では中国が圧倒的な出願規模
海外に目を向けると、中国の商標出願規模は依然として突出しています。
2024年の中国国家知識産権局(CNIPA)への出願区分数は約697万区分です。
近年は緩やかな減少傾向が見られるものの、他国と比較すると非常に大きな市場であることに変わりありません。
一方、2024年には米国、欧州、韓国などで商標出願が回復・増加する動きも見られます。
米国は約59万区分、EUIPOは約18万件、韓国は約25.5万件となっています。
商標出願は企業活動や新規事業、ブランド展開とも関係するため、こうした数字から各市場におけるブランド活動の一端を見ることができます。
日本企業の海外出願は中国と米国が中心
日本人による海外への商標出願を見ると、中国と米国が主要な出願先となっています。
中国は約1.88万区分、米国は約7,559区分です。
海外で商品を販売したり、ECサイトを通じて海外の消費者に販売したりする場合、日本で取得した商標権だけでは十分ではありません。
商標権は、原則として登録された国・地域で効力を持つ権利だからです。
特に中国などでは、日本で使用しているブランドが第三者によって先に商標出願される問題も以前からあります。
海外展開を予定しているのであれば、「進出してから商標を取る」のではなく、進出前の段階から商標出願を検討することが重要です。
新興国では商標出願が拡大
ブラジルやインドでは、自国企業などによる商標出願が大きく増えています。
外国からの出願比率は、ブラジルで約6.2%、インドで約4.8%と低く、国内からの出願が市場全体を押し上げています。
ロシアでも内国人による出願が増加する一方、外国人出願比率は13.0%まで低下しています。
これらの数字を見ると、新興国では外国企業による出願だけではなく、現地企業によるブランド形成が活発になっていることが分かります。
市場が成長すれば、それだけ商標の重複や類似が生じる可能性も高くなります。
将来的な進出候補国については、実際に販売を始める前から商標の状況を確認しておくことも有効です。
ASEANでは国ごとに特徴が異なる
ASEAN諸国でも商標出願は活発です。
インドネシア、タイ、ベトナムでは、内国人による出願増加に伴って全体の出願数が拡大する傾向があります。
一方、シンガポール、マレーシア、香港では外国からの出願比率が比較的高く、シンガポールは約71.9%、マレーシアは約52.6%、香港は約59.6%となっています。
国際的なビジネス拠点として利用されている地域では、外国企業によるブランド保護の動きも活発ということでしょう。
さらに、ASEAN諸国や香港では、中国からの商標出願がトップとなっている国・地域や、出願が増加しているケースも見られます。
中国企業が中国国内だけでなく、東南アジア市場を意識して商標権を確保していることがうかがえます。
このデータから考えておきたいこと
今回のデータからまず分かるのは、商標出願が企業規模を問わず、事業活動の基本的な取り組みになっているということです。
日本では審査期間が短縮され、商標を比較的早く権利化できる環境になっています。
その一方で、国内外から多くの商標が出願され続けています。
良い商品名やサービス名を思いついても、先に他人が類似する商標を登録していれば、自由に使用できない場合があります。
そのため、新規事業では、
・名称を決める
・先行商標を調べる
・使用する商品・サービスを整理する
・必要な区分を検討する
・商標を出願する
という流れを、事業開始前に行っておくことをおすすめします。
また、海外展開を考えている企業の場合は、日本での商標出願だけで終わらせず、将来進出する可能性のある国についても早い段階で検討しておくことが重要です。
まとめ
「特許行政年次報告書2026年版」からは、日本の商標出願が2025年に増加へ転じたことや、商標審査が比較的短期間で行われていることが分かります。
また、中国をはじめ、インドやブラジル、ASEANなどでも商標出願が活発に行われています。
商標は、問題が起きてから取得しようとしても間に合わないことがあります。
特に、新しい会社名、商品名、サービス名、ブランド名を決めたときは、「使える名前か」だけではなく、「商標として確保できる名前か」という視点を持っておくことが大切です。
国内だけでなく海外への事業展開を考えている場合には、どの国で、どのタイミングで商標を取得するかという出願戦略も必要になります。
サムライツ知財事務所では、商標の先行調査から出願、指定商品・指定役務の検討、海外での商標出願まで、事業内容に応じた商標戦略をサポートしています。
新しい商品・サービスの名称を商標登録したい方や、国内外を含めてどの範囲まで商標を取得すべきか迷っている方は、お気軽にサムライツ知財事務所までご相談ください。
