結論:商標権者が長年にわたり相手方の商標使用を認識しながら容認していた事情がある場合には、「黙示の許諾」が認められ、商標権侵害が否定されることがあります。
今回の「ジェットバブル」事件では、登録商標「ジェットバブル」の商標権者が、相手方による「SUPER JET BUBBLE」及び「ジェットバブル」の使用について損害賠償を請求しました。
しかし、裁判所は、約18年間にわたって商標の使用を事実上認めてきた経緯があるとして、黙示の許諾を認定し、商標権侵害を否定しました。
目次
事案の概要
本件商標は「ジェットバブル」(登録第4736592号)です。
被控訴人(一審被告)は、
- 「SUPER JET BUBBLE」
- 「ジェットバブル」
の標章を使用していました。
具体的には、トラックへの表示やウェブサイト上でこれらの標章を使用していました。
これに対し、商標権者である控訴人は、商標権侵害に当たるとして、商標法38条3項及び民法703条に基づく損害賠償等を請求しました。
しかし、一審は黙示の許諾を認めて請求を棄却し(令和6年(ワ)第70579号)、控訴審でもその判断が維持されました(令和7年(ネ)第10072号)。
理由1 約18年間にわたり共同して事業を行っていた
本件で裁判所が最も重視したのは、当事者間の長年の関係です。
判決によれば、控訴人代表者と被控訴人は、平成16年以降、高圧洗浄事業において互いに協力しながら「ジェットバブル工法」を用いた事業を展開していました。
その関係は、令和4年に警告書が送付されるまで約18年間継続していました。
単なる取引関係ではなく、継続的な協力関係の中で事業を進めていたことが、本件判断の重要な前提となっています。
理由2 商標の使用を知らなかったとは考え難いと判断された
被控訴人は、その間、
- トラックへの表示
- ウェブサイトでの表示
などにより、「SUPER JET BUBBLE」や「ジェットバブル」を使用していました。
裁判所は、このような使用状況について、
控訴人代表者が知らなかったとは到底考え難い
と判断しました。
つまり、商標権者は相手方の使用を認識しながら、長期間これを放置していたと評価されたのです。
理由3 黙示の許諾が認められた
商標の使用許諾は、必ずしも契約書などの明示的な合意が必要とは限りません。
当事者の行動や経緯から、
使用を認める意思が客観的に認められる場合
には、「黙示の許諾」が成立することがあります。
本件では、
- 長年の協力関係
- 商標使用を認識していたと考えられる事情
- 約18年間にわたり異議を述べなかった経緯
などを総合して、控訴人は被控訴人による標章使用を黙示に許諾していたと判断されました。
理由4 その結果、商標権侵害は成立しなかった
商標権者の許諾がある以上、その使用は適法です。
本件では黙示の許諾が認められたため、被控訴人による「SUPER JET BUBBLE」及び「ジェットバブル」の使用は商標権侵害に当たらないと判断されました。
その結果、損害賠償請求は認められず、一審に続いて控訴も棄却されています。
黙示の許諾が認められやすい事情
この事件からすると、次のような事情が重なる場合には、黙示の許諾が認定される可能性があります。
相手方の使用を認識していた場合
商標権者が使用事実を知りながら放置していた場合です。
長期間異議を述べなかった場合
数年間ではなく、長年にわたり何ら警告や差止めを求めなかった事情は重要な判断材料になります。
継続的な協力関係があった場合
共同事業や密接な取引関係があると、使用を容認していたとの評価につながりやすくなります。
使用態様が公然としていた場合
ウェブサイトや車両表示など、公に使用されていたにもかかわらず異議が出されなかった事情も考慮されます。
逆に黙示の許諾が認められにくい場合
もっとも、単に警告が遅れたというだけで、必ず黙示の許諾が成立するわけではありません。
使用を知らなかった場合
商標権者が使用事実自体を認識していなかったのであれば、許諾意思を認めることは困難です。
早期に警告していた場合
使用開始後に速やかに警告や差止請求を行っていれば、黙示の許諾が認められる可能性は低くなります。
容認と評価できる事情がない場合
単なる沈黙だけでは足りず、当事者間の関係や経緯から使用を認める意思が推認できる事情が必要になります。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、
商標権を取得しているだけでは十分ではなく、その後の権利行使の態様も重要になる
ということです。
相手方による使用を長期間認識しながら協力関係を維持し、何ら異議を述べない状況が続けば、後になって侵害を主張しても、黙示の許諾が認められる可能性があります。
一方で、利用者側にとっても、「長く使っていたから大丈夫」と直ちにいえるわけではありません。
本件は、長年の協力関係や使用状況など特殊な事情を踏まえた判断であり、事案ごとの具体的事情が重視されます。
次の判断に進むために見るべきポイント
商標の使用をめぐる紛争では、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
まず、使用許諾契約があるか確認する
明示のライセンス契約が存在する場合は、その内容が基本となります。
次に、黙示の許諾を基礎付ける事情があるか検討する
長年の取引関係や共同事業、使用容認の経緯などを確認します。
さらに、商標権者が使用を認識していたか確認する
認識の有無や、認識後の対応は重要な判断要素になります。
最後に、警告や権利行使の時期を整理する
いつから使用され、いつ警告したのか、その間にどのような関係が続いていたのかを時系列で整理することが重要です。
まとめ
「ジェットバブル」事件では、商標権者が約18年間にわたり相手方の商標使用を事実上容認していたとして、黙示の許諾が認められ、商標権侵害は成立しないと判断されました。
本件では、
- 約18年間にわたり協力して事業を行っていた
- 商標権者が標章使用を知らなかったとは考え難かった
- 長期間異議を述べていなかった
- その結果、黙示の許諾が認められた
- 商標権侵害及び損害賠償請求は否定された
という流れで判断されています。
この事例は、商標権の管理において、侵害を認識した場合には適切な時期に対応することの重要性を示す一方で、長年の取引関係や当事者の行動が法的評価に大きく影響することを示した実務上参考になる判例といえるでしょう。
サムライツ知財事務所では、商標権侵害への対応だけでなく、ライセンス関係や共同事業における商標の使用管理についてもご相談を承っています。
長年の取引先との関係で権利行使が難しいケースや、警告すべきか判断に迷うケースでも、事前に状況を整理しておくことで適切な対応方針を検討しやすくなります。
