「空調服」は登録商標――炎上事例から考える「商標は登録して終わりではない」という話

「空調服」は登録商標――炎上事例から考える「商標は登録して終わりではない」という話

「空調服」という言葉を聞いて、どのような商品を思い浮かべるでしょうか。

服にファンが付いていて、暑い現場などで涼しく過ごすためのウェア――そんな商品カテゴリーそのものを思い浮かべる方も多いかもしれません。

しかし、「空調服」は株式会社空調服の登録商標です(登録第6425243号他)。

今回、株式会社空調服がSNS上で「『空調服』は弊社の登録商標です」と発信したところ、その投稿が物議を醸し、同社が謝罪する事態となりました。

このニュースは、中小企業や個人事業主にとっても非常に興味深い事例です。

なぜなら、商標には「登録する」だけではなく、登録した後にブランドをどう守り、育てるかという問題があるからです。

「空調服は登録商標です」という投稿が物議

報道によると、株式会社空調服は、一部の飲食店がSNS上で「お店の中では空調服の電源を切ってほしい」といった趣旨の投稿をしていることを受け、
「『空調服』は弊社の登録商標でございます」
と説明。

一般名称である「ファン付きウェア」「ファン付き作業服」を使ってほしいと呼びかけ、「#空調服は登録商標です」というハッシュタグも添えました。

ところが、この発信に対して批判が集まります。

そもそもの話題は、ファン付きウェアを飲食店などで使用する際の「マナー」の問題です。

そこに自社の商標についての案内を持ち込んだことで、「今それを言うのか」という印象を与えてしまったのでしょう。

その後、同社は、
「マナー問題とは切り離して、弊社商標のご案内をしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
として、配慮が足りなかったことを謝罪しました。

確かに、ブランドコミュニケーションという観点では、発信するタイミングや文脈には慎重さが必要だったと思います。

ただ、商標を専門とする弁理士として見ると、「空調服」を登録商標として守ろうとすること自体には、十分な理由があります。

有名になりすぎることが商標のリスクになる?

商標というと、
「有名になればなるほど価値が上がる」
と思われるかもしれません。

もちろん、多くの人にブランド名を覚えてもらうことは大切です。

ところが、その名称があまりにも広く使われるようになり、特定企業の商品を示すブランド名ではなく、商品そのものを表す一般的な名称として認識されるようになると、話が変わってきます。

いわゆる「普通名称化」の問題です。

たとえば、本来は、
「空調服=株式会社空調服の商品」
という認識だったものが、
「空調服=ファンが付いているウェア全般」
という認識になってしまったらどうでしょうか。

ブランド名と一般名称の境界が曖昧になります。

商標の重要な役割の一つは、
「この商品・サービスは、誰から提供されているものなのか」
を示すことです。

その機能が失われてしまえば、せっかく長い時間をかけて育てたブランドの価値にも影響しかねません。

だからこそ、企業側が「これは一般名称ではなく、当社のブランドです」と継続的に伝えていくことには意味があります。

もう一つ怖いのが「他社製品のトラブル」

そして、私が今回のニュースでもう一つ重要だと感じたのが、風評被害のリスクです。

仮に世の中で、ファン付きウェア全般が「空調服」と呼ばれているとします。

その状態で、あるメーカーの商品に事故や品質上の問題が発生したらどうでしょうか。

SNSでは、
「空調服で事故が起きた」
「空調服は危ない」
などと投稿されるかもしれません。

しかし、その製品が株式会社空調服の商品とは限りません。

他社の商品で発生した問題なのに、「空調服」という名称がカテゴリー名として使われていることで、本来のブランド企業まで問題を起こしたかのような印象を持たれてしまう可能性があります。

ブランド名が有名になったからこそ生じる、難しい問題です。

商標は「登録したら終わり」ではない

中小企業や個人事業主の方から商標についてご相談を受けていると、
「登録できれば安心ですよね」
と言われることがあります。

しかし、私は商標登録はゴールではなく、ブランドを守るためのスタートだと考えています。

商標登録後にも、

  • 自社が適切な形で商標を使用する
  • 社内で商標の使い方を統一する
  • 取引先にも適切な表記をお願いする
  • 他社による無断使用をチェックする
  • 一般名称のような使われ方が広がっていないか確認する

といったブランド管理が重要になります。

特に、商品がヒットしてブランド名が広く知られるようになるほど、この管理は重要になってきます。

「名前が一般名称のように使われるなんて、むしろ成功では?」
と思うかもしれません。

マーケティングだけを考えれば、それほど浸透することは大きな成功でしょう。

しかし、知財の観点では、「有名になること」と「ブランド名として認識され続けること」を両立させる必要があります。

商標を守ることと、ブランドを守ることは少し違う

一方で、今回のニュースからはもう一つ学べることがあります。

それは、
法的に正しいことを伝えれば、ブランドが守られるとは限らない
ということです。

商標権を持っている企業が「これは当社の登録商標です」と伝えること自体は、不自然なことではありません。

しかし、消費者から見れば、法律だけではなく、
「なぜ今それを言うのか」
「企業は自分たちの声をどう受け止めているのか」
という部分もブランド評価につながります。

商標権を守ろうとして、ブランドへの好感度を下げてしまっては本末転倒です。

だからこそ、
「権利を守ること」と「ブランドへの信頼を守ること」の両方を考える必要があります。

これは、商標実務において非常に重要な視点だと思います。

中小企業こそ「登録後」の商標管理を

今回の「空調服」の事例は、有名ブランドだけの話ではありません。

むしろ、中小企業や個人事業主にこそ考えていただきたいテーマです。

商品名やサービス名が口コミやSNSで広がり、いつの間にか業界内で一般名称のように使われることもあります。

そのとき、
「商標登録してあるから大丈夫」
だけでは十分とは限りません。

ブランドをどう表記するのか。

第三者にどのように使ってもらうのか。

不適切な使われ方を見つけたとき、どのように伝えるのか。

こうした運用まで含めて、商標戦略です。

今回のニュースは、まさに「商標は取って終わりではなく、育てながら守っていくもの」だということを考えさせてくれる事例だと思います。

そして、ブランドを守るためには、権利だけを見るのではなく、そのブランドを使うお客様や社会とのコミュニケーションまで含めて考えることが大切です。

商標は会社の信用や想いが積み重なった、大切なブランド資産です。

だからこそ、登録するところから、その後の育て方まで考えていきたいですね。

商標登録・ブランド保護についてお困りの方へ

「この商品名は商標登録した方がいい?」
「すでに登録している商標をどう管理すればいい?」
「自社のブランド名が他社にも使われている」
「ブランド名が一般名称のように使われ始めていて心配」

このようなお悩みがあれば、サムライツ知財事務所までお気軽にご相談ください。

商標の出願・登録だけではなく、その後のブランド保護まで、事業の状況に合わせてサポートいたします。