英国商標出願の基本とBrexit後の重要戦略

英国商標出願の基本とBrexit後の重要戦略

「魅力的な英国市場で自社商品を販売したい!」 「ファッションやウイスキーの国、イギリスでライセンス事業を展開したい」

海外展開の夢が膨らむ一方で、言葉の壁や見知らぬ法律への不安を感じている個人事業主や中小企業経営者の方は多いのではないでしょうか。特に、ビジネスの命である「ブランド名(商標)」を現地でどう守るかは、成功のカギを握る重要な問題です。

なお、この記事では、一般的に親しまれている「イギリス」と、正式名称(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)に由来する「英国(UK)」を、同一の国を指す言葉として併記して解説します。

ここで最も重要な事実をお伝えします。「日本で商標登録しているから、イギリスでも安心」というのは大きな誤解です。商標権は国ごとに独立しています(属地主義)。

さらに、英国は欧州連合(EU)を離脱(Brexit)したため、制度が以前よりも複雑になっています。この記事では、英国での商標登録を検討している初心者の方に向けて、Brexit後の最新制度事情、出願方法、そしてトラブルを未然に防ぐための戦略についてわかりやすく解説します。

「日本で登録しているから安心」は誤解?イギリス(英国)で商標登録が必要な理由

なぜ、日本で登録した商標が英国で使えないのでしょうか。それは、商標法が「国ごとの法律」であり、その効力は登録した国の領土内でしか及ばないという「属地主義(ぞくちしゅぎ)」という原則があるからです。

英国市場や越境ECを通じて、英国の消費者に向けて商品を販売したり、サービスを提供したりする際、現地の法律に基づいて商標登録をしておかないと、以下のような重大なリスクに直面します。

  • 他社にブランド名を真似され、偽物が出回る。
  • 先に同じような商標を登録した現地企業から、商標権侵害として訴えられる。
  • せっかく作った看板やパッケージ、Webサイトの変更を余儀なくされ、ビジネスが一時中断する。

魅力的な英国市場で安心してビジネスを拡大・継続するためには、英国での商標権確保が不可欠です。

日本と英国(UK)の商標制度 比較表

項目日本(JPO)英国(UKIPO)
管轄庁日本特許庁英国知的財産庁(UKIPO)
権利の発生先願主義(早く出願した人が勝ち)先願主義(原則)
登録までの期間約6ヶ月〜1年(目安)約3ヶ月〜4ヶ月(異議がなければ比較的早い)

ここが違う!英国(イギリス)商標制度の特徴と「相対的拒絶理由」の仕組み

英国の商標制度を管轄しているのは、英国知的財産庁(UKIPO)です。

日本と同様に、基本的には「早く出願した人に権利を与える(先願主義)」ですが、審査の実務においては大きな違いがあります。初心者が最も誤解しやすいポイントですので、正確に理解しておきましょう。

相対的拒絶理由と異議申し立て重視の制度

日本の特許庁では、審査官が自ら先行する類似商標を調査し、似た商標があれば審査官の権限で拒絶(不合格)にします。

一方、英国IPOの審査官も類似商標の調査は行いますが、「相対的拒絶理由(他人の先行類似商標が存在すること)」を理由として、審査官が自ら出願を拒絶することは原則としてありません。

英国IPOは、審査段階で発見された先行商標の権利者に対して、新しい出願があったことを通知します。そして、もし先行商標の権利者が「うちの商標と似ているから登録させたくない」と考える場合は、自ら「異議申し立て」を行う必要があります。

つまり、英国の制度は、商標の類否(似ているかどうかの判断)を、UKIPOという行政機関が一方的に決めるのではなく、当事者(先行商標の権利者と出願人)間の交渉や異議申立手続きに委ねる、「異議申し立て重視」の制度なのです。

異議申し立てがなければ、たとえ類似商標が存在していても登録されますが、登録後に他社から「商標権侵害」を指摘されたり、「登録取り消し」を求められたりするリスクは依然として残ります。したがって、英国では日本以上に、出願前の精密な商標調査が重要になります。

Brexit(EU離脱)で何が変わった?「EU商標(EUTM)」との関係

これまで、欧州ビジネスにおける最大の誤解は、「EU商標(EUTM)を取得していれば、英国でも自動的に保護される」というものでした。

しかし、これはもう過去の話です。読者の方は決して誤解しないでください。

英国の欧州連合離脱(Brexit)の移行期間が終了したため、現在、新しいEU商標は英国をカバーしていません。

英国でブランドを守るためには、EU商標とは別に、英国知的財産庁(UKIPO)へ直接、または国際登録(マドプロ)経由で出願し、英国独自の権利として登録を認めてもらう必要があります。

すでに事業を開始している、あるいはこれから開始する予定がある場合、「EU商標があるから」と油断していると、英国では権利が及ばず、模倣品トラブルや侵害トラブルに巻き込まれる恐れがあります。最新の制度に基づいた正確な対応が求められます。

英国へ商標出願を行う2つのルート:直接出願とマドプロ出願

日本から英国へ商標を出願する方法には、主に以下の2つのルートがあります。自社のビジネス戦略に合わせて選択することが戦略上重要です。

① 直接出願(英国知的財産庁への申請)

現地の特許事務所(弁理士)を通じて、直接UKIPOへ申請する方法です。

  • 特徴:英国一国に集中して展開する場合や、英国独自の審査実務(指定商品・役務の記載など)に細かく対応したい場合に適しています。審査期間が比較的短く、一国のみなら費用も抑えられる場合があります。

② 国際登録出願(マドプロ出願)

日本の特許庁に書類を提出し、スイスにある国際事務局(WIPO)を経由して、英国を指定して申請する方法です。

  • 特徴:日本ですでにベースとなる商標出願(または登録)を持っている場合に利用できます。英国だけでなく、将来的にEUや米国、中国、韓国など、複数の国へ同時に、または段階的に展開する予定がある場合、手続きが一本化でき、管理コストを大幅に削減できるため強力な選択肢となります。

英国商標・EU商標・マドプロ出願の比較表

項目英国商標(直接)EU商標(EUTM)マドプロ出願(UK指定)
保護範囲英国(UK)のみEU加盟国(UK除く指定した加盟国
Brexit影響独立した制度英国は対象外英国指定が必要
管轄UKIPO(英国)EUIPO(欧州)WIPO(国際事務局)
メリット英国のみなら迅速、安価な場合ありEU多国を一括保護多国展開時の手続き一本化、管理容易
デメリット多国展開には手間と費用がかかる英国は守られない日本の登録がベースになる(5年間の従属性)

出願から登録までの流れ・期間・費用の目安

英国商標登録(直接出願)の一般的な流れは以下の通りです。異議申し立てがなければ、日本よりも比較的スピーディーに登録されます。

  1. 商標調査(重要):類似商標がないか調査。
  2. 出願:UKIPOへ申請。
  3. 審査:UKIPOによる審査(方式審査、公序良俗など)。相対的拒絶理由があれば、審査官は先行商標権者に通知。
  4. 公告・異議申立期間(2ヶ月):UKIPOが指定した商標公報に掲載。他社からの異議申し立てを待つ。
  5. 登録:異議がなければ、登録証が発行される。
  • 期間:出願から登録まで、異議申し立てがなければ約3ヶ月〜4ヶ月程度が目安です(※審査状況により前後します)。
  • 費用:UKIPOへの官庁費用(登録料含む)と、現地特許事務所(弁理士)への手数料などがかかります。指定する商品・サービスのカテゴリー(区分)の数によって費用は変動します。

マドプロ出願の場合は、日本特許庁への費用、WIPOへの費用、および英国の官庁費用がかかります。

事業開始前の「商標調査」が成功のカギ!よくある失敗例と対策

英国特許庁は、先行する類似商標があっても審査官が自ら拒絶するのではなく、異議申し立てに委ねる制度をとっているため、初心者の方は特に注意が必要です。

海外展開前に商標調査を行う重要性

「出願できた(方式審査を通過した)」からといって、無事に登録できるとは限りません。公告期間中に、似たような商標を持つ現地企業から異議を唱えられ、登録が認められない、あるいは和解金を支払うことになるといったケースが日本よりも多く発生します。

PREP法で述べると、以下のようになります。

  • Point(結論):英国展開を予定している場合は、事業開始前の精密な商標調査が何より重要です。
  • Reason(理由):UKIPOは相対的拒絶理由で自ら拒絶せず、他社からの異議申し立てを重視する制度をとっているため、事前の調査なしに出願すると、他社の権利と衝突し、異議を申し立てられるリスクが非常に高いからです。
  • Example(具体例):もし調査を怠り、他社の商標を侵害する形で公告されてしまえば、以下のようなトラブルが発生します。
  • Point(結論):だからこそ、自社のネーミングやロゴを決定する前の段階で、プロの目を借りて精密な商標調査を行うことが、トラブルを未然に防ぐカギとなります。

トラブルの具体例:調査不足による和解金交渉

ある日本の小さなアパレルブランドが、英国での越境ECを開始する際、事前の調査をせずに、アルファベットのブランド名をUKIPOへ出願しました。方式審査は通過し、無事に公告されました。

しかし、公告期間中に、英国で古くからある老舗アパレルブランドが、自社の登録商標と似ており、消費者が混同するおそれがあるとして異議を申し立ててきました。

その老舗ブランドは、英国特許庁に類似商標として登録を阻止するだけでなく、「もし今後、英国でその名前を使い続けるなら、商標権侵害として和解金を支払うか、和解に応じなければ訴訟も辞さない」という強い態度で迫ってきました。

結局、日本のブランドは莫大な和解金を支払うか、せっかく立ち上げた英国向けのサイトやパッケージ、看板のネーミングを全て変更して最初からやり直すかという、最悪の二者択一を迫られることになりました。事前の調査さえしていれば、別のネーミングで安全に出願できていたはずです。

英国(イギリス)でのブランド保護、プロと一緒に準備を始めませんか?

Brexit後の複雑な英国商標制度や実務、マドプロ出願の戦略的運用、そして現地企業からの異議申し立てリスクへの対応。これらを初心者が自力で完璧にこなし、安全に権利を確保するのは非常に困難です。

知財分野および海外商標制度に精通したサムライツ知財事務所のようなプロに相談することで、以下のような大きなメリットがあります。

  • 自社のビジネスモデル(越境ECか、現地法人設立かなど)に合わせた、最適な出願ルートの提案。
  • Brexit後の複雑な制度変更を踏まえた、正確なリスク分析と戦略立案。
  • 英国独自の審査実務に基づいた、的確な指定商品・役務の記載(拒絶リスクの低減)。
  • 万が一、異議申し立てがあった場合の現地特許事務所とのスムーズな連携による和解交渉や異議対応。

サムライツ知財事務所では、これから英国をはじめとする世界へ挑戦する個人事業主や中小企業の方の立場に立って、難しい法律用語を一切使わずに、親身になってサポートを行っています。

まとめ

英国(イギリス)でのビジネス成功には、商標権によるブランド保護が不可欠です。

  • 日本での商標登録は英国では通用しない(属地主義)。
  • Brexitにより、EU商標だけでは英国をカバーできない。独立した英国商標が必要。
  • 出願方法は、英国IPOへの「直接出願」と、多国展開に便利な「マドプロ出願」がある。戦略的選択が重要。
  • UKIPOは相対的拒絶理由で自ら拒絶せず、他社からの異議申し立てを重視するため、事前の精密な商標調査が極めて重要。

英国進出という大きなチャンスの舞台で、自社の大切なブランドを模倣トラブルから守り、安心してビジネスに集中するためには、できるだけ早い段階から戦略的な商標戦略を組み立てておくことが成功へのカギとなります。

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