結論:「OneClick(ワンクリック)」のように、本来であれば品質表示とみられ得る商標であっても、指定商品の内容を適切に限定し、商標から通常想起されるイメージとの間にギャップを生じさせることで、識別力が認められる場合があります。
今回の「OneClick」事件では、本願商標「OneClick」について、当初は「ワンクリックで操作できる商品」を表示するにすぎないとして拒絶されました。
しかし、審判請求時に指定商品を大幅に限定補正した結果、最終的には登録可能と判断されています。
商標の識別力は、商標そのものだけで決まるわけではありません。
どの商品・役務に使用するのかによって、結論が変わることがあることを示した興味深い事例です。
目次
事案の概要
本願商標は「OneClick」(商願2024-64572号)です。
拒絶査定不服審判は、不服2025-13091号です。
当初、本願は第9類のコンピュータソフトウェア等を指定商品として出願されましたが、審査段階で、
「OneClick」は「ワンクリック」を意味し、
「ワンクリックで操作できる商品」の品質を表示するものにすぎない
として、商標法3条1項3号(品質等表示)を理由に拒絶査定を受けました。
これに対し、出願人は審判請求時に指定商品を補正し、例えば、
- 複雑な操作を必要とする歯科用の保険金請求管理用コンピュータソフトウェア
- 複雑な操作を必要とする医療機器としてのソフトウェア(SaMD)
- 複雑な操作を必要とする電子カルテ作成用コンピュータソフトウェア
など、「複雑な操作を必要とする」という限定を付した商品へと補正しました。
その結果、原査定は取り消され、本願商標は登録可能と判断されています。
理由1 「OneClick」は本来、品質表示になり得る言葉だった
「OneClick」は、「ワンクリック」を意味する英語表記です。
一般には、
- ワンクリックで購入できる
- ワンクリックで操作できる
- ワンクリックで設定できる
といった形で、商品の機能や利便性を表す言葉として広く使われています。
そのため、コンピュータソフトウェアとの関係では、
「ワンクリックで操作できるソフトウェア」
という品質を表示するものと理解される余地があります。
実際、原査定もそのように判断していました。
理由2 指定商品を「複雑な操作を必要とする」ものに限定した
しかし、本件では審判請求時に指定商品が大きく補正されました。
すべての商品について、
「複雑な操作を必要とする」
という限定が付されたのです。
すると、「OneClick」という言葉から通常想起される、
ワンクリックで簡単に操作できる商品
というイメージと、指定商品の内容との間にズレが生じます。
少なくとも、需要者が直ちに、
「ワンクリックで操作できるソフトウェアだ」
と理解するとはいえなくなります。
この点を踏まえ、審決は、
「その指定商品との関係においては、それが直ちに商品の具体的な品質を表示したものと認識、理解させるとはいい難い」
と判断しました。
ここが本件のポイントです。
理由3 品質表示としての使用実態も確認できなかった
さらに審決は、職権調査も行っています。
しかし、
- 「OneClick」
- 「ワンクリック」
という言葉が、本願指定商品の分野において、品質等を表すものとして一般に使用されている事実は発見できなかったとしています。
つまり、
- 商標の意味
- 指定商品の内容
- 実際の取引の状況
を総合的に考慮した結果、
本願商標は自他商品識別標識として機能し得ると判断されたのです。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、識別力の有無は、商標の言葉だけで決まるわけではないということです。
商標から通常想起される商品のイメージと、指定商品の内容との関係が重要になります。
本件では、「OneClick」からは通常、
「ワンクリックで簡単に操作できるソフトウェア」
というイメージが生じます。
しかし、補正後の指定商品は、いずれも
「複雑な操作を必要とするソフトウェア」
に限定されていました。
その結果、商標から通常想起されるイメージと指定商品の内容との間にギャップが生じ、需要者が直ちに商品の品質を表示したものとは認識しないと判断されたものと考えられます。
つまり、指定商品の限定補正は、単に指定商品を狭めるための手続ではなく、商標と指定商品との関係性そのものを変えることで、識別力の判断に影響を与える場合があるということです。
指定商品の補正が有効なケース
特に次のようなケースでは、指定商品の補正が有効に機能することがあります。
商標が商品の特徴を直接示すように見える場合
例えば、
- OneClick
- Smart
- Easy
- Quick
などは、指定商品によっては品質表示と判断されることがあります。
指定商品の範囲が広すぎる場合
広い指定商品では、品質表示に該当する商品が含まれてしまうことがあります。
その場合、指定商品を絞り込むことで拒絶理由が解消する場合があります。
実際のビジネスが限定的な場合
事業内容に合わせて指定商品を限定しても問題がないのであれば、無理に広い権利範囲を維持する必要がないこともあります。
逆に注意したいポイント
もっとも、補正によって常に識別力が認められるわけではありません。
例えば、
- 商品の内容を限定しても品質表示の意味が残る場合
- 業界で品質表示として広く使われている場合
- 指定商品を限定しても需要者の認識が変わらない場合
には、補正だけでは拒絶理由を解消できないこともあります。
そのため、
どのように指定商品を補正すれば識別力の問題を解消できるのか
については、実務的な検討が重要になります。
まとめ
「OneClick」事件は、指定商品の限定補正によって識別力が認められた、非常に参考になる事例です。
本件では、
- 「OneClick」が本来は品質表示になり得る言葉であったこと
- 指定商品を「複雑な操作を必要とする」ソフトウェア等へ限定したこと
- 品質表示としての使用実態も確認できなかったこと
から、商標法3条1項3号には該当しないと判断されました。
商標の識別力に問題がある場合でも、すぐに諦める必要はありません。
指定商品の記載を見直すことで、登録への道が開けることもあります。
サムライツ知財事務所では、識別力を理由とする拒絶理由への対応や、指定商品・指定役務の補正方針の検討、拒絶査定不服審判のご相談も承っています。
「この商標は本当に登録できないのか」「指定商品の補正で対応できないか」といった段階でも、お気軽にご相談ください。
