今回取り上げるのは、こちらの記事。
・「なぜ象印は「象」をマークに選んだのか タイガーとの競争とブランド戦略」(ITmedia ビジネスオンライン)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2607/20/news001.html
目次
中小企業・個人事業主が学びたい、名前とマークのブランド戦略
「象印マホービン」という名前を聞くと、どこか懐かしく、温かい家庭の食卓を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
炊飯ジャーや電気ポットなどで広く知られる象印マホービンですが、その始まりは1918年、大阪市で創業した「市川兄弟商会」でした。
創業者は、市川銀三郎氏と金三郎氏の兄弟です。
金三郎氏が電球加工の技術を生かして魔法瓶の中びんを製造し、銀三郎氏が営業を担う形で事業を広げていったそうです。
そして創業から数年後、自社商品を示すマークとして選ばれたのが「象」でした。
なぜ、象だったのでしょうか。
そこには、単なる思いつきではない、競争と市場を意識したブランド戦略がありました。
ライバルが「虎」なら、自社は「象」
当時、魔法瓶業界には、同じく大阪で創業した「タイガー」という有力な競合がありました。
タイガーは、東南アジアで神聖な動物として親しまれていた「虎」をマークに採用。
それに対抗する形で、象印が選んだとされるのが「象」です。
象には、次のようなイメージがあります。
- 家族愛が強い
- 知性的である
- 力強い
- 親しみやすい
- アジアで神聖な存在とされている
さらに、長い鼻からお湯を注ぐ姿は、魔法瓶やポットの形とも自然に重なります。
つまり象印の「象」は、単に覚えやすい動物を選んだのではありません。
競合との差別化、商品の特徴、輸出先の文化、将来育てたいブランドイメージを一つのマークに重ねた結果だったと考えられます。
名前やロゴは、見た目以上に多くを語る
中小企業や個人事業主の方から、屋号やサービス名についてご相談を受けることがあります。
その際によくあるのが、次のような決め方です。
- なんとなく響きがよかった
- 自分の好きな言葉を使った
- 流行している言葉を入れた
- デザイナーに任せた
- 他社と似ているが、少し変えれば大丈夫だと思った
もちろん、親しみやすさや感覚も大切。
しかし、ブランド名やロゴは、事業の印象を左右する重要な経営資産です。
一度広く使い始めると、簡単には変更できません。
看板、名刺、Webサイト、SNS、商品パッケージ、広告、契約書など、さまざまな場所にその名前が積み重なっていくからです。
そのため、名前やロゴを決める際には、見た目や響きだけではなく、事業戦略とのつながりを考える必要があります。
ブランド名を考えるときの3つの視点
1. 誰に届けたいのか
象のマークは、当時の主要な輸出先であったアジア地域でも親しまれやすい存在でした。
これは、顧客となる地域や文化を意識した選択です。
自社でも、まずは次の点を考える必要があります。
- 主な顧客は誰か
- どの年代に届けたいか
- 国内中心か、海外展開も視野に入れるか
- 高級感、安心感、親しみやすさのどれを伝えたいか
自分が好きな名前と、顧客に伝わる名前は、必ずしも同じではありません。
ブランドは、自分の想いだけでなく、相手にどう受け取られるかまで考えて設計することが大切です。
2. 競合と何が違うのか
象印が「象」を選んだ背景には、タイガーという競合の存在がありました。
競合との差を明確にすることは、ブランドづくりの基本です。
例えば、同じ業界で次のような名前が多いとします。
- 安心
- 未来
- サポート
- スマイル
- つながり
親しみやすい一方で、似た名前が多ければ、お客様の記憶に残りにくくなります。
また、他社の登録商標と似ていれば、後から名称変更を求められる可能性もあります。
ブランド名を決める前には、競合の名称やロゴを調べることが欠かせません。
3. どんな価値を連想してほしいのか
象印の「象」には、家族、温かさ、力強さ、信頼といった意味が重なっています。
ブランド名やロゴは、商品やサービスの特徴を説明するだけでなく、感情や価値観を伝える役割も持っています。
自社の名前を見たときに、お客様にどのような印象を持ってもらいたいでしょうか。
- 誠実
- 専門的
- 革新的
- やさしい
- 頼りになる
- 高品質
- 地域に根差している
こうした言葉を整理したうえで名前やロゴを考えると、ブランド全体に一貫性が生まれます。
海外展開を考えるなら、意味や発音にも注意する
象印の創業当時、魔法瓶の多くは中国、東南アジア、インドなどへ輸出されていました。
象というモチーフは、それらの地域でも好意的に受け止められやすかったと考えられます。
現在は、中小企業や個人事業主であっても、ECサイトやSNSを通じて海外の顧客とつながることができます。
そのため、将来海外展開を考えるのであれば、名称を決める際に次の点も確認しておきたいところです。
- 外国語で不適切な意味にならないか
- 発音しにくくないか
- 現地で似たブランドが存在しないか
- ドメイン名やSNSアカウントを取得できるか
- 海外で商標登録できる可能性があるか
国内では問題のない名称でも、海外では別の意味に受け取られることがあります。
事業が大きくなってから変更するよりも、最初の段階で将来の展開を考えておく方が負担を抑えられます。
良い名前でも、商標登録できるとは限らない
ブランド名やロゴを決める際に、もう一つ重要なのが商標です。
自分で考えた名前であっても、先に他社が同一または類似の商標を登録している場合、自由に使えるとは限りません。
また、使い始めた後に問題が判明すると、次のような対応が必要になることがあります。
- 商品名やサービス名の変更
- 看板やパッケージの作り直し
- WebサイトやSNSの修正
- 取引先や顧客への説明
- ドメイン名の変更
- 広告や販促物の廃棄
名称変更は、費用だけでなく、これまで積み重ねてきた信用にも影響します。
だからこそ、ブランド名は「決めてから相談する」のではなく、候補を絞る段階で商標調査を行うことが大切です。
ロゴを作れば、商標登録は不要なのか
「文字の名前ではなく、ロゴを作ったから大丈夫」と考える方もいます。
しかし、ロゴを作っただけで独占的な権利が自動的に得られるわけではありません。
また、文字商標とロゴ商標では、守れる範囲が異なります。
例えば、屋号やサービス名をさまざまな書体で使う予定がある場合は、文字そのものを商標登録することが重要です。
一方で、特徴的な図形やデザインも大切にしたい場合は、ロゴについての商標登録も検討できます。
事業の使い方によっては、次のような組み合わせが考えられます。
- ブランド名を文字商標として登録する
- ロゴを図形商標として登録する
- ブランド名とロゴを組み合わせて登録する
- 主力商品名やサービス名も個別に登録する
何をどこまで守るべきかは、事業内容や予算によって異なります。
重要なのは、申請件数を増やすことではなく、自社にとって価値のあるブランドを優先して守ることです。
ブランドは「つけるもの」ではなく「育てるもの」
象印のマークは、創業当時から現在まで同じ姿ではありません。
初期は写実的な象のデザインでしたが、時代とともに、より親しみやすい表現へと変化してきました。
ブランドは、最初に名前やロゴを決めたら完成するものではありません。
商品、接客、広告、SNS、顧客対応など、日々の積み重ねによって意味が加わっていきます。
「象印」という名前から家庭の温かさを感じるのも、長年にわたり商品やコミュニケーションを通じて、そのイメージが積み重ねられてきたからです。
中小企業や個人事業主にとっても同じです。
小さなブランドであっても、お客様との約束を守り続けることで、名前に信用が蓄積されていきます。
その信用こそが、商標で守るべき本当の価値です。
まとめ:名前とロゴは、事業の未来を示す経営資産
象印が「象」を選んだ背景には、競合との差別化、輸出先での親しみやすさ、商品の特徴、家族の温かさといった複数の意味がありました。
この事例から学べるのは、ブランド名やロゴは、単なる飾りではないということです。
名前やロゴを考える際には、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
- 誰に商品やサービスを届けたいのか
- 競合と何が違うのか
- どのような価値を伝えたいのか
- 将来どこまで事業を広げたいのか
- 商標として安全に使用できるのか
- どの範囲まで権利として守るべきか
良いブランドは、偶然生まれるものではありません。
事業の想いと市場の視点を重ね、時間をかけて育てていくものです。
そして、そのブランドが大切な存在になったとき、商標は名前を守るだけでなく、積み重ねてきた信用を未来へつなぐ役割を果たします。
ブランド名やロゴの決め方でお悩みの方へ
こんなお悩みはありませんか?
- 新しいサービス名を考えたが、このまま使っても問題ないか確認したい
- 屋号やロゴを商標登録すべきか迷っている
- 競合と差別化できるブランドを作りたい
- 長く安心して使えるブランドを育てたい
ブランド名は、一度使い始めると簡単には変更できません。
だからこそ、事業をスタートする前や新商品・新サービスを発表する前に、商標の観点から確認しておくことをおすすめします。
サムライツ知財事務所では、中小企業・個人事業主の皆さまを対象に、商標調査、商標登録、ブランド戦略に関するご相談を承っています。
単に商標を出願するだけではなく、事業の方向性や将来の展開も踏まえ、「何を優先して守るべきか」を一緒に考えます。
ブランドづくりの第一歩として、ぜひお気軽にサムライツ知財事務所へご相談ください。
※サムネ画像は象印マホービン株式会社の商標登録第6580308号公報より引用
