商標の類否判断では、構成中の一部だけを取り出して比較できるかどうかが、しばしば重要な争点になります。
特に、文字と図形が組み合わさった商標では、「この文字部分だけが要部ではないか」と考えたくなる場面があります。ですが、実務では、文字が含まれているからといって、いつもその部分だけを切り出して見てもらえるわけではありません。
本願商標が引用商標に類似するかどうかが争われた、今回の拒絶査定不服審判(不服2025-010634)は、その点をよく示しています。
| 本願商標 (商願2024-56129) | 引用商標 (登録第5623388号) |
本願商標は、上方にデザイン化された書体の「DOUTOR」があり、下方に、マグカップのような図形の中に「CAFE」「TIME」の欧文字と時計の長針・短針のような図形を組み合わせた構成からなるものでした。
一見すると、下方部分の「CAFE」「TIME」の文字だけを取り出して見たくなります。ところが審決は、そこを分離抽出せず、下方部分全体をまとまりのある一つの図形として認識すると判断しています。
目次
どこが問題になったのか
この事案でポイントになったのは、下方部分に含まれる「CAFE」「TIME」の文字が、それぞれ独立した要部として把握されるのか、それとも図形全体の一部として一体的に把握されるのかという点です。
審決は、下方部分について、マグカップのような図形の内部に「CAFE」と「TIME」の文字が、時計の長針と短針のような図形を取り囲むように、円弧状に上下にバランスよく配置されていることを重視しました。
つまり、単に文字が図形の中に入っているというだけではなく、文字と図形の配置関係そのものが、全体として一つのまとまりを作っていると見たわけです。
審決が示した考え方
審決は、下方部分について、外観上、構成全体がまとまりよく一体に表された図形との印象を与えるとしています。
さらに、観念面でも、
- 「CAFE」はマグカップのような図形と
- 「TIME」は時計の長針・短針のような図形と
それぞれつながりを有すると述べています。
つまり、見た目だけでなく、意味の上でも各文字が周囲の図形要素と結び付いていると評価したわけです。
その結果、審決は、これらが外観上も観念上も分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると判断しました。
そして、取引者・需要者は「CAFE」「TIME」の文字のみに着目するというよりも、むしろ下方部分の構成全体をもって、まとまりのある一つの図形として認識し、把握するとしています。
「分離抽出されない」とはどういうことか
ここで大事なのは、審決が言っているのは主として要部認定の問題だということです。
つまり、
- 「CAFE」だけ
- 「TIME」だけ
を抜き出して、それを商標全体の支配的部分として比較するのは相当ではない、という判断です。
この考え方自体には、それなりの説得力があります。実際、マグカップと「CAFE」、時計針様図形と「TIME」は、それぞれ意味のつながりがかなり自然です。しかも配置も整っているので、下方部分全体が一つのロゴやエンブレムのように見えるという理解は十分あり得ます。
その意味で、今回の審決は、文字を含むから当然に文字部分だけが要部になるわけではないことを示したものといえます。
ただ、文字の情報伝達機能まで消えるわけではないのではないか
もっとも、ここで少し気になる点もあります。
たしかに、下方部分全体が一体的な図形として把握されるとしても、「CAFE」「TIME」の文字自体は、なお容易に看取できるようにも見えます。そうであれば、それらの文字が持つ情報伝達機能まで失われるわけではないはずです。
この点は、分離抽出されないことと、文字部分が識別標識として全く機能しないこととは、同じではないということでもあります。
審決の判断は前者、つまり「CAFE」「TIME」だけを取り出して観察するのは不自然だ」という点にあると読むのが自然です。しかし、だからといって、文字部分が需要者の認識に何の影響も与えないとまでは、直ちにいえないように思われます。
たとえ全体として一つの図形として見られるとしても、構成中の文字が判読できる以上、需要者はそこから「CAFE」「TIME」という語を読み取り、その分だけ商標全体の印象形成に影響を受けるはずです。
一体的把握と文字の識別機能は分けて考えるべき
この事例から考えると、実務上は次のように整理するのが自然です。
まず、下方部分は、マグカップ様図形、時計針様図形、「CAFE」「TIME」の文字が外観上も観念上も強く結び付いているため、全体として一つの図形として把握される。したがって、「CAFE」「TIME」だけを分離抽出して要部とみることはしない。
ただし、それは直ちに「CAFE」「TIME」の文字が識別標識として全く機能しないことを意味しない。文字がなお看取、判読され、その情報伝達機能が維持されているのであれば、これらの文字部分もまた、商標全体の印象形成に一定の役割を果たし得る。
このように考えると、今回の審決のロジックと、文字部分の持つ作用の両方を、無理なく説明できます。
実務上の注意点
この種の案件では、ロゴや図形商標を設計する段階で、「文字を入れておけばその文字でも守れる」と考えてしまうことがあります。
しかし、実際には、文字と図形の結合のされ方によっては、文字部分だけが独立して把握されないことがあります。つまり、ロゴ全体としては保護されても、その中の一語だけを切り出して強く主張できるとは限りません。
一方で、逆に、全体が一体的に見える商標であっても、文字が明瞭に読める以上、その文字情報が需要者の印象に全く影響しないとも言い切れません。
このあたりは、白黒はっきり割り切れる話ではなく、どの程度一体的に見えるかと、文字としてどの程度読まれるかのバランスで決まってくるのだと思います。
まとめ
本願商標の下方部分について審決は、「CAFE」「TIME」の文字がマグカップ様図形や時計針様図形と外観上・観念上強く結び付いており、それらを分離して観察することが取引上不自然であるほど不可分的に結合しているとして、下方部分全体をまとまりのある一つの図形として認識すると判断しました。
この判断は、要部認定の場面では理解しやすいものです。文字を含んでいるからといって、常にその文字部分だけを切り出して比較できるわけではない、という実務上の感覚にも沿っています。
もっとも、たとえ一体的に把握されるとしても、「CAFE」「TIME」の文字がなお容易に看取されるのであれば、その情報伝達機能まで失われるわけではなく、商標全体の印象形成に一定の役割を果たす余地はあるように思われます。
この事例は、図形商標に含まれる文字部分をどう評価するかについて、単純に割り切れない実務上の難しさをよく示しています。
ロゴの中に入れた文字が、どこまで独立して保護や主張の対象になるかは、配置やデザイン次第で変わります。図形商標と文字商標の関係で迷う場面があれば、サムライツ知財事務所に相談してみてください。出願や権利範囲の見え方を、実務に沿って整理できます。
