「かまくら牛」はなぜ登録できなかったのか?(「かまくら牛」事件)

「かまくら牛」はなぜ登録できなかったのか?(「かまくら牛」事件)

地域名+商品名の商標が抱える識別力の壁

知財高裁は、「かまくら牛」(商願2024-043386)について、商標登録を認めなかった特許庁の判断(不服2025-005645)を支持する判決を下しました(令和7年(行ケ)第10117号)。

本件は、「地域名+商品名」という構成の商標がどこまで独占できるのかを考える上で参考になる事例です。

事案の概要

出願された商標は、

「かまくら牛」

という文字商標です。

指定商品には牛肉や牛肉加工品などが含まれていました。

出願人は、

  • 「かまくら」は雪で作る“かまくら”を意味する言葉としても理解される
  • 「かまくら牛」は一体となった造語である
  • 神奈川県鎌倉市を意味するなら通常は「鎌倉」と漢字で表記される

などと主張し、識別力があると訴えました。

しかし、特許庁はこれを認めず、拒絶査定不服審判でも登録は認められませんでした。

そのため、出願人は知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。

裁判所の判断

知財高裁は、特許庁の判断を維持しました。

裁判所はまず、「かまくら」という語について、

  • 雪で作る半球状の建造物
  • 神奈川県鎌倉市

という複数の意味があることを認めています。

しかし、商標の識別力は辞書的な意味だけで判断されるものではありません。

重要なのは、指定商品との関係で取引者や需要者がどのように認識するかです。

裁判所は、次のような取引の実情を重視しました。

地域名を冠した食品が多数存在する

鎌倉地域には、

  • 鎌倉コロッケ
  • 鎌倉せんべい
  • 鎌倉どら焼
  • 鎌倉ビール

など、「鎌倉+商品名」の商品が多数存在していました。

さらに、

  • かまくら梅酒
  • かまくらシラス
  • かまくら野菜

のように、平仮名表記の「かまくら」を使用した商品も相当数存在していました。

つまり、

「かまくら」が平仮名だから地名とは認識されない

とは言えないというわけです。

「○○牛」は地域ブランドとして一般化している

さらに裁判所は、

  • 前沢牛
  • 米沢牛
  • 仙台牛
  • 松阪牛
  • 宮崎牛
  • 葉山牛
  • ちがさき牛

など、地域名と「牛」を組み合わせたブランド名が全国的に広く使われている事実を認定しました。

近年は地域ブランドの構築が活発に行われており、

地域名+牛

という表示は、牛肉の産地を示すものとして一般消費者に広く認識されていると判断されたのです。

「雪のかまくら」を連想する可能性はあっても登録できない

興味深いのは、裁判所も

「かまくら」からは雪で作る半球形の室という観念も生じる

こと自体は認めている点です。

しかし、

  • 牛肉業界における取引実情
  • 地域ブランドの普及状況
  • 「○○牛」の一般的な使用実態

を総合すると、

需要者は「かまくら牛」を見たとき、

「産地を神奈川県鎌倉市とする牛肉」

程度の意味で理解すると判断しました。

つまり、別の意味が存在するからといって直ちに識別力が認められるわけではなく、実際の取引の場面でどの意味が自然に理解されるかが重視されるのです。

この事件から分かること

本件から分かるのは、

「地域名+商品名」の組み合わせは、商標としての識別力が認められにくい

ということです。

特に近年は、

  • ○○牛
  • ○○豚
  • ○○野菜
  • ○○ワイン
  • ○○茶

などの地域ブランドが全国各地で展開されており、需要者もそのような名称に接する機会が増えています。

そのため、

  • 鎌倉牛
  • 横浜牛
  • 湘南牛

といった名称は、事業者を識別する商標というよりも、

「その地域で生産された商品」

を示す表示として理解されやすい傾向があります。

また、本件では、

「かまくら」は平仮名表記であり、漢字の『鎌倉』とは異なる

という主張も認められませんでした。

商標実務では、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字といった表記の違いだけでは、識別力の判断が大きく変わらないことも少なくありません。

特に地域名については、文字種を変更しただけでは識別力を獲得できないケースが多いといえるでしょう。

もっとも、「地域名+商品名」の商標が全て登録できないわけではありません。

地域の事業協同組合や商工会、農業協同組合などが一定の要件を満たして出願する場合には、「地域団体商標」として登録を受けられる可能性があります。

実際に、

などの著名な地域ブランドは、地域団体商標として保護されています。

本件の「かまくら牛」についても、通常の商標としては「鎌倉産の牛肉」を意味する表示と理解されるため識別力が否定されましたが、地域ブランドとして育成・保護していくという観点では、地域団体商標という制度の活用を検討する余地があるかもしれません(ただし、要件を満たす必要があります)。

※参考記事:「地域ブランドや特産品を守り、地域活性化を実現する!「地域団体商標」とは?」
https://samuraitz.com/weblog/trademark/5553/

地域名を含むブランドを採用する場合は、

  • 通常の商標出願を目指すべきか
  • 地域団体商標の活用を検討すべきか
  • そもそも別のブランド名を採用すべきか

を早い段階で検討することが重要です。

まとめ

「かまくら牛」事件は、

  • 「かまくら」には雪で作る「かまくら」という意味もあること
  • 平仮名表記であること
  • 一体の名称として使用されていること

といった事情があったにもかかわらず、

牛肉分野における取引の実情を踏まえ、

「産地を神奈川県鎌倉市とする牛肉」

程度の意味合いで理解されるとして、識別力が否定された事例です。

商標の識別力は、辞書的な意味だけで判断されるものではありません。

その業界において取引者や需要者がどのように認識するかが重要であり、本件はそのことを改めて示した事例といえるでしょう。

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