結論:「〇〇AI」のように、AIの内容や機能を説明する語と「AI」を組み合わせた商標は、商品の品質や役務の質を表示するものと理解され、識別力がないとして登録を受けられないことがあります。
今回の「エキスパートAI」事件では、本願商標「エキスパートAI」が商標法3条1項3号に該当すると判断され、登録は認められませんでした。
ポイントは、「エキスパート」と「AI」の組み合わせから、「専門知識を有する人工知能」という意味が容易に理解されるため、需要者はブランド名ではなく、商品やサービスの内容を説明した表示として受け取ると判断された点です。
目次
事案の概要
本願商標は「エキスパートAI」(商願2024-85434号)です。
拒絶査定不服審判は、不服2025-16137です。
指定商品・指定役務には、第9類のソフトウェアや電子計算機用プログラム、第42類のSaaS、AIに関する研究、AIに関する助言、プログラムの提供などが含まれていました。
審決では、「エキスパートAI」は商品の品質や役務の質を表示する標章にすぎないとして、商標法3条1項3号に該当すると判断されています。
理由1 「エキスパートAI」は品質・内容を表す語と理解された
本願商標は、「エキスパートAI」の文字からなります。
このうち、「エキスパート」は、
ある分野で高度な知識や技能を持つ専門家
を意味する一般的な語です。
また、「AI」は人工知能を意味する語として広く普及しています。
さらに、AI関連の商品・サービス分野では、「エキスパートAI」や「専門家AI」という表現が、「専門知識を有する人工知能」を意味する言葉として実際に多数使用されている実情が認定されました。
そのため、本願商標全体からは、
専門知識を有する人工知能
という意味合いが容易に理解されると判断されています。
理由2 ブランド名ではなく商品・役務の内容を示す表示と判断された
商標法3条1項3号は、商品の品質や役務の質を普通に表示する標章について、特定の事業者による独占を認めない趣旨の規定です。
審決では、「エキスパートAI」をソフトウェアやAI関連サービスに使用した場合、需要者は、
専門知識を有する人工知能に関する商品・サービス
であることを示していると理解するにすぎないと判断しました。
つまり、自他商品・役務を区別するブランド名ではなく、内容や機能を説明する表示として認識されるというわけです。
理由3 意味が抽象的でも識別力が認められるとは限らない
請求人は、「専門家のAI」というだけでは具体的な用途や機能が明確ではなく、品質表示とはいえないと主張しました。
しかし、審決はこの主張を採用しませんでした。
商標法3条1項3号では、商品や役務の内容を細部まで具体的に表現している必要はありません。
取引者や需要者が、
商品の品質や役務の質を表示しているものと一般に理解する
のであれば足りると判断されています。
そのため、「専門知識を有する人工知能」という程度の意味が理解できれば、識別力は認められないとされました。
理由4 過去の登録例があっても結論は変わらない
請求人は、「〇〇AI」という構成で登録されている商標例を挙げ、本願商標も登録されるべきだと主張しました。
しかし、審決はこれも採用しませんでした。
商標の識別力は、
- 商標の構成
- 指定商品・指定役務
- 審決時点の取引実情
を踏まえて個別に判断されます。
そのため、過去に似た登録例が存在していても、本件の判断が左右されるものではないとされています。
条件1 「〇〇AI」が登録されにくい場合
この事件からすると、次のような場合には、「〇〇AI」は識別力がないと判断されやすくなります。
「〇〇」がAIの内容や機能を表す場合
「エキスパート」「コンサル」「不動産探索」など、AIが何をするのかを説明する語は、品質表示と評価されやすくなります。
AI関連分野で一般的な表現として使われている場合
業界内で「〇〇AI」が商品やサービスの内容を示す表現として広く使用されている場合には、識別力が否定されやすくなります。
指定商品・指定役務がAI関連である場合
AIソフトウェア、SaaS、プログラム提供、AIコンサルティングなどでは、「〇〇AI」は商品の内容を直接示すものと理解されやすくなります。
需要者がブランド名より内容説明と受け取る場合
需要者が出所識別標識ではなく、「こういうAIサービスなのだ」と理解する場合には、商標登録は難しくなります。
条件2 逆に登録の余地がある場合
もっとも、「〇〇AI」が常に登録できないわけではありません。
「〇〇」が造語である場合
独自に創作された語であれば、全体としてブランド名として認識される可能性があります。
全体が一体のブランド名として理解される場合
単なる説明の組み合わせではなく、独自の語感や観念を持つ名称であれば、識別力が認められる余地があります。
指定商品・指定役務との関係で説明的でない場合
AIとは無関係の商品や役務について使用する場合には、品質表示とは評価されにくいケースもあります。
使用実績によって識別力を獲得した場合
長年の使用により需要者が特定事業者の商品・サービスとして認識するようになれば、使用による識別力が認められる可能性もあります。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、「AI」という言葉が一般化した現在では、「〇〇AI」というネーミングが説明的表示と評価されやすくなっているということです。
AI関連サービスでは、需要者はブランド名よりも機能や特徴を示す表示として理解する傾向があります。
そのため、「エキスパートAI」のような名称は、独占すべき商標ではなく、業界全体で自由に使われるべき表現と判断されました。
近年は生成AIの普及に伴い、「〇〇AI」を含む商標出願が急増していますが、それに伴って識別力が否定される事例も増えています。
例えば、
- 「インテントAI」(商願2025-004073号)
- 「EmotionAI」(商願2025-005147号)
- 「PROMO.AI」(商願2024-133376号)
- 「VisionAI」(商願2024-131317号)
- 「感性評価AI」(商願2024-109115号)
- 「テレアポAI」(商願2024-086503号)
- 「不動産探索AI」(商願2024-082551号)
- 「コンサルAI」(商願2024-081457号)
といった商標が同様の理由で拒絶されています。
次の判断に進むために見るべきポイント
AI関連サービスの名称を検討するときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
まず、「〇〇」の部分が機能や内容を説明していないか確認する
需要者がサービス内容を直接理解できる語であれば、識別力が弱くなる可能性があります。
次に、業界で同様の表現が一般的に使われていないか調査する
一般的な業界用語になっている場合は、登録が難しくなる傾向があります。
さらに、指定商品・指定役務との関係を確認する
AI関連の商品・サービスでは説明的でも、別分野では識別力が認められることがあります。
最後に、造語化や独自性を持たせられないか検討する
ありふれた語を組み合わせるだけでなく、独自性のあるブランド名にすることで登録可能性が高まる場合があります。
まとめ
「〇〇AI」のように、AIの内容や機能を説明する語と「AI」を組み合わせた商標は、商品の品質や役務の質を表示するものと理解され、識別力がないとして登録を受けられないことがあります。
「エキスパートAI」事件では、
- 「エキスパート」は専門家を意味する一般的な語だった
- 「AI」は人工知能を意味する一般的な語だった
- 全体として「専門知識を有する人工知能」の意味が容易に理解された
- AI分野で同様の表現が多数使用されていた
- 需要者は商品の品質や役務の質を示す表示として認識すると判断された
ことから、商標法3条1項3号に該当すると判断されました。
この事例は、AI関連サービスのネーミングでは、「AI」を付けるだけで独占できるブランドになるわけではなく、説明的な表現と評価されるリスクがあることを示しています。
サムライツ知財事務所では、AIサービスやSaaSの名称について、識別力や登録可能性を踏まえた先行商標調査や出願戦略のご相談も承っています。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで名称変更や出願方針を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。
