結論:「明治の源泉」のように、構成全体が一体不可分の商標と認識される場合には、「明治」の部分だけを取り出して先行商標と比較することはできず、「明治」「meiji」とは非類似と判断されることがあります。
今回の「明治の源泉」事件では、登録商標「明治の源泉」に対し、「明治」「meiji」を保有する明治グループが異議申立てを行いました。
しかし特許庁は、「明治の源泉」は全体として一体不可分の商標であり、「明治」部分のみが要部になるとはいえないとして、引用商標とは非類似であると判断しました。
目次
事案の概要
本件商標は「明治の源泉」(登録第6957150号)です。
引用商標は、
です。
異議申立事件は、異議2025-900218です。
申立人は、「明治」「meiji」が周知著名であることや、「明治」の部分が需要者に強い印象を与えることから、「明治の源泉」は引用商標と類似し、混同を生じるおそれがあると主張しました。
しかし、特許庁はこれを認めず、登録を維持しました。
理由1 「明治の源泉」は全体としてまとまりよく構成されていた
本件商標は、「明治の源泉」の文字を標準文字で表したものです。
各文字は同じ書体、大きさ、間隔で表示されており、視覚上まとまりよく一体的に構成されています。
また、「メイジノゲンセン」の称呼も特に冗長ではなく、無理なく一連に称呼できます。
そのため、需要者は商標全体を一つの名称として認識すると判断されました。
結合商標では、構成全体が自然に把握されるのであれば、原則として全体観察が行われます。
本件でも、この原則が重視されました。
理由2 「明治」だけが要部とは認められなかった
申立人は、「明治」の部分が著名ブランドであり、需要者はそこに着目すると主張しました。
しかし、特許庁は、本件指定商品との関係では「明治」が申立人の商品表示として広く認識されているとは認められないと判断しました。
また、「明治」は企業ブランドである以前に、日本人に広く知られた年号でもあります。
そのため、本件商標に接した需要者が直ちに申立人のブランドを想起するとはいえないとされました。
さらに、「源泉」の文字についても、指定商品との関係で品質表示や説明表示として一般的に使用されている事情は認められませんでした。
つまり、
- 「明治」が支配的部分とはいえない
- 「源泉」が識別力を欠くわけでもない
以上から、「明治」だけを取り出して比較することは相当ではないと判断されたのです。
理由3 商標全体から特定の観念は生じないと判断された
「明治」は年号を意味し、「源泉」は「みなもと」を意味する語です。
両者を「の」で結合した「明治の源泉」は、「明治時代の源泉」ほどの意味合いを想起させる余地はあるものの、その内容は漠然としており、特定の観念を生じるものではないと判断されました。
一方、引用商標「明治」「meiji」からは、「年号としての明治」の観念が生じます。
そのため、
- 本件商標は特定の観念を生じない
- 引用商標は「年号としての明治」の観念を生じる
として、観念面でも相紛れるおそれはないとされました。
理由4 外観・称呼・観念のいずれでも区別できると判断された
特許庁は、商標全体を比較した結果、
外観
「明治の源泉」と「明治」「meiji」では、構成文字も文字数も大きく異なります。
称呼
「メイジノゲンセン」と「メイジ」は音数が大きく異なり、明瞭に聞き分けられます。
観念
本件商標は特定の観念を生じない一方、引用商標は「年号としての明治」の観念を生じます。
これらを総合すると、両商標は互いに紛れるおそれのない非類似商標であると判断されました。
条件1 「〇〇の△△」が一体不可分になりやすい場合
この事件からすると、次のような場合には、「〇〇」の部分だけが要部と認定されず、商標全体が一体不可分と判断されやすくなります。
全体が自然な一連の語句として把握される場合
文字の配置や構成がまとまりよく、一連に称呼できる場合には、需要者は全体を一つの商標として認識しやすくなります。
後半部分にも識別力がある場合
後半部分が商品の品質や役務内容を説明する語ではなく、独立して識別機能を果たし得る場合には、要部抽出はされにくくなります。
前半部分が著名でも支配的とはいえない場合
前半部分が有名な語であっても、本件指定商品との関係で著名性が限定的であれば、その部分だけが強い印象を与えるとは評価されません。
条件2 逆に要部抽出されやすい場合
一方で、次のようなケースでは、前半部分だけが要部として取り出される可能性があります。
後半部分が品質表示や説明表示にすぎない場合
「GYM」「24H」「CAFE」「STORE」など、商品や役務の内容を説明する語は識別力が弱いと判断されやすくなります。
前半部分が独立して強い識別力を有する場合
前半部分だけでブランドとして認識されるような場合には、その部分が要部となる可能性があります。
全体が一体の名称として理解されない場合
語の結び付きが弱く、需要者が自然に分離して認識すると考えられる場合には、部分観察が許されることがあります。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、著名な語を含んでいるだけでは、その部分だけが要部になるとは限らないということです。
「明治」は非常に知名度の高い言葉ですが、本件では、
- 指定商品との関係でブランドとしての周知性が限定的だったこと
- 「源泉」にも識別力が認められたこと
- 商標全体が自然に一体として認識される構成だったこと
などから、「明治」部分のみを取り出して比較することは否定されました。
結合商標の類否判断では、要部抽出が行われるケースもありますが、常に認められるわけではなく、構成全体や取引の実情を踏まえて判断されることが改めて示された事例といえます。
次の判断に進むために見るべきポイント
結合商標を検討するときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
まず、商標全体が自然に一体として認識されるか確認する
まとまりのある構成で、一連に称呼できる場合は、全体観察が基本になります。
次に、後半部分が説明的な語ではないか確認する
後半部分にも識別力があれば、一体不可分と判断されやすくなります。
さらに、前半部分だけが強い出所識別力を持つか検討する
著名であっても、指定商品との関係や取引の実情によっては、支配的部分とは認められないことがあります。
最後に、外観・称呼・観念を全体として比較する
部分だけではなく、需要者が受ける全体的な印象を総合的に確認することが重要です。
まとめ
「明治の源泉」のように、構成全体が一体不可分の商標と認識される場合には、「明治」の部分だけを取り出して先行商標と比較することはできず、「明治」「meiji」とは非類似と判断されることがあります。
本件では、
- 商標全体がまとまりよく構成されていた
- 「明治」だけが支配的部分とは認められなかった
- 「源泉」にも識別力が認められた
- 「メイジノゲンセン」と「メイジ」は称呼が異なった
- 観念も共通しなかった
ことから、商標法4条1項11号には該当せず、登録は維持されました。
この事例は、結合商標の類否判断では、著名な語を含む場合でも安易に要部抽出が行われるわけではなく、商標全体が一体として把握されるかどうかが重要であることを示しています。
サムライツ知財事務所では、結合商標の要部認定や類否判断を踏まえた商標調査・出願戦略についてご相談を承っています。
商標の一部が他人の登録商標と共通している場合でも、全体として登録可能性があるのか検討したい段階から、お気軽にご相談ください。
