「FALCON」と「FALCONs」は類似?末尾の「s」だけでは差別化にならないことも(「FALCONs」事件)

「FALCON」と「FALCONs」は類似?末尾の「s」だけでは差別化にならないことも(「FALCONs」事件)

結論:「FALCON」と「FALCONs」は、末尾の「s」の有無にとどまる差であれば、外観・称呼・観念のいずれにおいても近く、類似商標と判断されることがあります。

今回の「FALCONs」事件では、本願商標「FALCONs」と引用商標「FALCON」が類似すると判断されました。
さらに、両商標の指定役務についても、ソフトウェアの内容や用途は異なるものの、いずれもコンピュータソフトウェア・プログラムの提供であるとして、類似する役務と判断されています。

この事例は、単数形と複数形の違いだけでは、商標の類似を回避しにくいことを示すものです。

事案の概要

本願商標は「FALCONs」(商願2025-2207)です。
指定役務は、第42類の「船体汚損状態、船体推進性能、船体汚損管理計画、船体洗浄計画に関するコンピュータソフトウェアの提供」です。

引用商標は「FALCON」(登録第5028569号)です。
指定商品・役務には、「詐欺の監視・追跡・検出・防止のためのコンピュータプログラムや、その提供」が含まれていました。

拒絶査定不服審判は、不服2026-1973です。

審決では、本願商標と引用商標は類似し、指定役務も類似するとして、商標法4条1項11号に該当すると判断されました。

理由1 外観は「FALCON」のつづりを共通にする

本願商標「FALCONs」と引用商標「FALCON」は、いずれも「FALCON」のつづりを共通にしています。

相違点は、本願商標の末尾に小文字の「s」が付いている点です。

審決は、この「s」の有無という差異はあるものの、構成の大半又は全てを占める「FALCON」のつづりを同じくするため、両商標は外観上近似した印象を与えると判断しました。

つまり、末尾に小文字の「s」を加えたとしても、需要者の目に残る中心的な文字列は「FALCON」であり、外観上の差別化としては十分ではないと見られたわけです。

理由2 称呼も「ファルコン」を共通にする

本願商標「FALCONs」からは、「ファルコンズ」の称呼が生じるとされました。
一方、引用商標「FALCON」からは、「ファルコン」の称呼が生じます。

両者を比較すると、語頭から第4音までの「ファルコン」を共通にし、異なるのは語尾の「ズ」の有無だけです。

審決は、称呼において識別上重要な語頭部分から主要な音が一致していることを重視しました。
そして、語尾の「ズ」の有無だけでは、両称呼を一連に称呼した場合、語調・語感が近似し、聞き誤るおそれがあると判断しています。

理由3 観念も「ハヤブサ」で共通する

本願商標「FALCONs」は、「FALCON」の複数形であり、「複数のハヤブサ」の観念を生じるとされました。
引用商標「FALCON」は、「ハヤブサ」の観念を生じます。

単数形と複数形の違いはありますが、いずれも「ハヤブサ」を想起させる点で共通しています。

そのため、審決は、両商標は観念においても明確に区別し難く、相紛らわしいと判断しました。

この点も重要です。
英語商標では、語尾に「s」を付けて複数形にしても、基本的な意味が同じであれば、観念上の差異としては弱く見られることがあります。

理由4 ソフトウェアの内容が違っても役務は類似するとされた

本件では、商標の類似だけでなく、指定役務の類否も問題になりました。

本願商標の指定役務は、「船体汚損状態や船体推進性能の監視、船体汚損管理計画や船体洗浄計画の提案に関するソフトウェアの提供」です。

一方、引用商標の指定役務は、「信用詐欺、クレジットカード詐欺、銀行詐欺などの監視・追跡・検出・防止のためのコンピュータプログラムの提供」です。

用途だけを見れば、かなり違うように見えます。
船体管理と詐欺検出では、対象分野も目的も異なるからです。

しかし審決は、いずれも電気通信回線を通じて、所定のコンピュータソフトウェア・コンピュータプログラムを利用させる役務である点を重視しました。

また、提供事業者についても、一般には情報サービス業者やソフトウェアの設計・開発者などが提供するものであり、需要者も電子機器の利用者などで共通すると判断しています。

理由5 特定用途のソフトウェアでも役務類似は否定されなかった

請求人は、本願商標と引用商標の指定役務は、ソフトウェアの内容や目的、提供事業者が異なり、需要者の共通性も限定的であると主張しました。

しかし審決は、この主張を採用しませんでした。

審決は、コンピュータソフトウェア・プログラムの内容や用途には多種多様なものがあるものの、いずれも、ソフトウェアに精通した事業者が、需要者が利用できるように環境を整える点で共通するとしています。

そして、情報サービス業者であれば、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務の双方を提供できない理由は考えにくいと判断しました。

つまり、ソフトウェアの分野では、用途が異なるからといって、直ちに役務非類似になるわけではないということです。

条件1 「〇〇」と「〇〇s」が類似になりやすい場合

この事件からすると、次のような場合には、単数形と複数形の違いだけでは非類似になりにくいです。

末尾の「s」以外が同一の場合

「FALCON」と「FALCONs」のように、構成の大部分が一致している場合です。
特に語頭から主要部分が同じであれば、外観・称呼の印象は近くなります。

称呼の差が語尾だけにとどまる場合

「ファルコン」と「ファルコンズ」のように、違いが最後の「ズ」だけであれば、聞き誤るおそれがあると判断されやすくなります。

観念が同じ対象を指す場合

単数形と複数形の違いがあっても、いずれも同じ概念を想起させる場合には、観念上の差は弱く見られます。

指定商品・役務が近い場合

商標が近いだけでなく、指定商品・役務も類似すると、4条1項11号の拒絶リスクは高くなります。

条件2 逆に非類似の余地がある場合

もっとも、「〇〇」と「〇〇s」が常に類似になるわけではありません。

末尾の「s」によって全体の意味が大きく変わる場合

複数形になることで、別の固有名詞や別の観念が生じる場合には、観念上の差異が評価される余地があります。

表記やデザインに大きな差がある場合

標準文字同士ではなく、ロゴ化されていて全体の印象が明確に異なる場合には、外観差が効く可能性があります。

称呼が明瞭に異なる場合

語尾の差だけでなく、音数、アクセント、リズムが大きく異なる場合には、称呼上区別しやすいと判断されることがあります。

指定商品・役務の関係が遠い場合

商標が近くても、指定商品・役務が非類似であれば、4条1項11号には該当しません。
ただし、ソフトウェア提供のように広く捉えられやすい分野では、用途の違いだけで非類似を主張するのは簡単ではありません。

この事件から分かること

この事件が示しているのは、商標の末尾に「s」を付けただけでは、先行商標との差別化として弱いことが多いということです。

特に英語商標では、単数形と複数形の違いは、外観・称呼・観念のいずれにおいても小さな差異と見られやすくなります。

また、ソフトウェア関連の指定役務では、用途や業界が異なっていても、

  • 電気通信回線を通じて提供される
  • ソフトウェア・プログラムを利用させる
  • 情報サービス業者が提供し得る

という共通点があると、役務類似と判断されることがあります。

そのため、特定用途のソフトウェアであっても、先行商標調査では同じ用途のソフトウェアだけを見るのでは不十分です。

次の判断に進むために見るべきポイント

英語商標やソフトウェア関連サービスを検討するときは、次の順番で見ると判断しやすくなります。

まず、単数形・複数形の違いだけではないかを見る

先行商標と比較して、末尾の「s」だけが違う場合は要注意です。

次に、称呼の差が語尾だけかを確認する

語頭から主要部分が同じであれば、称呼類似と判断されやすくなります。

さらに、観念が同じかを見る

単数形・複数形の違いがあっても、同じ対象を想起するなら、観念上の差は弱くなります。

最後に、ソフトウェアの用途だけで役務非類似といえるかを検討する

ソフトウェア提供では、目的や業界が異なっていても、提供手段や提供事業者が共通すると、役務類似と判断されることがあります。

まとめ

「FALCON」と「FALCONs」のように、末尾の「s」の有無だけが違う商標は、外観・称呼・観念のいずれにおいても近く、類似と判断される可能性が高いです。

「FALCONs」事件では、

  • 両商標は「FALCON」のつづりを共通にする
  • 称呼も「ファルコン」と「ファルコンズ」で、差は語尾の「ズ」の有無にとどまる
  • 観念も「ハヤブサ」と「複数のハヤブサ」で相紛らわしい
  • 指定役務は、用途が異なっても、いずれもソフトウェア・プログラムの提供である
  • 提供手段、需要者、提供事業者が共通すると判断された

ことから、商標法4条1項11号に該当するとされました。

この事例は、英語商標では単数形・複数形の違いだけでは十分な差別化になりにくいこと、またソフトウェア関連役務では用途の違いだけで役務非類似を主張するのが難しいことを示しています。

サムライツ知財事務所では、英語商標の単数形・複数形の類否や、ソフトウェア・SaaS関連サービスの指定役務の整理についてもご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願や補正方針を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。