結論:「Emma ‐ The Sleep Company」のように、複数の語から構成される商標であっても、全体がまとまりよく表され、無理なく一連に称呼できる場合には、一体不可分の商標と認識されることがあります。
今回の「Emma ‐ The Sleep Company」事件では、本願商標「Emma ‐ The Sleep Company」と引用商標「ザ・スリープ カンパニー」が非類似と判断されました。
ポイントは、本願商標の後半に含まれる「The Sleep Company」部分だけを切り離して比較することはできないと判断された点です。
審決は、本願商標全体が一体不可分の商標として認識されるとし、「The Sleep Company」のみを抽出した原査定の判断を取り消しました。
目次
事案の概要
本願商標は「Emma ‐ The Sleep Company」(国際登録第1716202号)です。
引用商標は「ザ・スリープ カンパニー」(登録第6668835号)です。
拒絶査定不服審判は、不服2025-650098です。
原査定では、本願商標のうち「The Sleep Company」の部分に着目し、引用商標「ザ・スリープ カンパニー」と類似すると判断されました。
しかし審決はこれを覆し、本願商標は構成全体で把握されるべきであるとして登録を認めました。
理由1 商標全体がまとまりよく構成されていた
本願商標は、
Emma – The Sleep Company
の文字からなります。
審決は、
- Emma
- ハイフン(-)
- The Sleep Company
が同じ書体で表されていること
さらに、
- 文字の大きさもほぼ同じであること
を重視しました。
その結果、需要者は全体を一つの商標として自然に認識すると判断されています。
商標実務では、文字の大きさや配置に大きな差がある場合には一部分が要部として抽出されることがあります。
しかし本件では、そのような事情は見当たりませんでした。
理由2 「エマザスリープカンパニー」は無理なく称呼できる
審決は称呼についても検討しています。
本願商標からは、
「エマザスリープカンパニー」
という称呼が生じます。
確かに短い称呼ではありません。
しかし、
- 不自然な区切りがない
- 発音しにくい構成でもない
ことから、無理なく一連に称呼できると判断されました。
商標実務では、称呼が多少長くても、
自然に一息で読めるのであれば一体不可分と評価されることが少なくありません。
本件もその典型例といえます。
理由3 「The Sleep Company」だけが強く支配的とはいえなかった
原査定は、「The Sleep Company」の部分を取り出して引用商標と比較しました。
しかし審決は、この考え方を採用しませんでした。
その理由は、後半の「The Sleep Company」が、
前半の「Emma」と比べて特別に強い識別力を持つとはいえなかったためです。
もし、
- 後半だけが著名である
- 前半が極めて弱い語である
- 後半が需要者の注意を強く引く
といった事情があれば、要部抽出が認められる余地があります。
しかし本件では、そのような事情は認められませんでした。
したがって、需要者が「The Sleep Company」のみを記憶して取引するとまではいえないと判断されています。
理由4 要部抽出には相応の根拠が必要
本件は、要部抽出が常に認められるわけではないことを示しています。
商標実務では、
- 長い商標
- 複数語からなる商標
だからといって、自動的に一部分だけを比較するわけではありません。
要部抽出が認められるためには、
- 一部が著名である
- 一部だけが強い識別力を持つ
- 他の部分が説明的である
などの事情が必要になります。
本件では、「Emma」も「The Sleep Company」も同程度の位置付けで認識されるため、一部分だけを抜き出して比較することは適切ではないと判断されました。
一体不可分と判断されやすい場合
この事件からすると、次のような場合には商標全体が一体不可分と判断されやすくなります。
全体が同じ書体・大きさで表されている場合
構成要素の間に視覚上の強弱がない場合は、一体的に認識されやすくなります。
称呼が自然に一連で読める場合
多少長くても、無理なく発音できる場合には一体不可分と評価されやすくなります。
一部分だけが強く目立たない場合
需要者が特定部分のみに着目する事情がない場合です。
各部分の識別力に大きな差がない場合
どちらか一方だけが強い識別力を持つわけではない場合、一体的把握が認められやすくなります。
逆に要部抽出されやすい場合
一方で、次のような場合には一部分だけが比較対象となることがあります。
一部分が著名商標である場合
著名なブランド名が含まれている場合です。
他の部分が説明的な語である場合
品質や用途を表す語は要部になりにくくなります。
文字の大きさに大きな差がある場合
目立つ部分だけが需要者の記憶に残ることがあります。
一部分が支配的印象を与える場合
需要者がその部分によって出所を認識すると考えられる場合です。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、商標が長いことと、一部分だけが要部になることは別問題であるということです。
本願商標は、
Emma ‐ The Sleep Company
という比較的長い商標でした。
しかし、
- 全体が統一的に表されていた
- 無理なく一連に称呼できた
- 「The Sleep Company」だけが特別に強い識別力を持っていたわけではなかった
という事情から、構成全体が一体不可分の商標と認識されました。
近年の審決でも、単に後半部分が引用商標と共通するだけでは足りず、
なぜその部分だけを取り出して比較できるのか
が厳しく検討される傾向があります。
次の判断に進むために見るべきポイント
ブランド名やシリーズ名を検討するときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
まず、全体が一体的に見えるか確認する
書体や配置に不自然な区切りがないかを確認します。
次に、称呼が自然につながるか確認する
多少長くても、一連に読めるかが重要です。
さらに、一部分だけが著名・説明的になっていないか確認する
要部抽出の可能性を左右するポイントになります。
最後に、共通部分だけでなく全体で比較する
引用商標と重なる部分があっても、全体として別異の印象を与える場合があります。
まとめ
「Emma ‐ The Sleep Company」のように、複数の語から構成される商標であっても、全体がまとまりよく表され、無理なく一連に称呼できる場合には、一体不可分の商標と認識されることがあります。
「Emma ‐ The Sleep Company」事件では、
- 全体が同じ書体・大きさで構成されていた
- 「エマザスリープカンパニー」と自然に称呼できた
- 「The Sleep Company」だけが支配的とはいえなかった
- 要部抽出を認める事情が見当たらなかった
ことから、商標全体が一体不可分と判断されました。
この事例は、長い商標であっても直ちに一部分だけが比較対象になるわけではなく、全体としてどのように認識されるかが重要であることを示しています。
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共通する語が見つかった段階でも、全体としてどのように評価されるのかを整理しておくことで、出願可否や名称変更の判断をしやすくなります。
