海外では安く売られている自社製品が、日本に持ち込まれて販売されている。
商標権を持っている会社からすると、「それは勝手に輸入されているのだから、当然に侵害ではないか」と感じるかもしれません。
実際、形式的に見れば、商標権者の許諾なく登録商標の付いた商品を輸入し販売する行為は、商標権侵害にあたりそうです。
ただ、商標の世界では、ここで話は終わりません。
いわゆる「真正商品の並行輸入」にあたる場合には、たとえ商標権者の許諾がなくても、商標権侵害にはならないと考えられています。
今回は、商標権と並行輸入の関係について、実務上の基本を整理してみます。
目次
そもそも並行輸入とは何か
並行輸入とは、ざっくり言えば、海外で正規に流通している商品を、現地の正規ルートから仕入れて、日本に輸入し販売することです。
ポイントは、「偽物」ではないということです。
問題になっているのは、あくまで本物の商品です。
たとえば、日本と中国の双方で同じ会社が同じマークを付けた商品を販売しているとします。そのとき、中国で安く売られている商品を第三者が仕入れ、日本に持ち込んで販売する。これが典型的な並行輸入の場面です。
形式的には侵害に見える
商標権者は、日本で登録された商標について、指定商品に使用する権利を専有しています。
そのため、商標権者の許諾なく、登録商標の付された商品を輸入し販売する行為は、形式的には侵害に見えます。
昔は、そのように理解されることも多くありました。
ただし、現在の実務では、そこを機械的には処理しません。
なぜなら、商標の本来の役割が害されていないのであれば、商標権侵害とまで言う必要はない、という考え方が確立しているからです。
「真正商品の並行輸入」なら侵害にならない
現在は、真正商品の並行輸入にあたる場合には、商標権侵害にはならないとされています。
ここでいう「真正商品」とは、単に見た目が本物っぽい商品という意味ではありません。
商標が適法に付された、本物の商品であることが前提です。
そして、一般に次の3つの要件が満たされると、真正商品の並行輸入として、商標権侵害にはならないと考えられています(「フレッドペリー事件」平成14年(受)1100号・最高裁判所第一小法廷平成15年2月27日判決)。
1. 商標が海外で適法に付されていること
まず、並行輸入された商品に付されている商標が、輸入元の国で商標権者、またはその許諾を受けた者によって、適法に付されたものでなければなりません。
要するに、海外で正規に販売された商品であることが必要です。
勝手にマークを付した商品や、そもそも偽物である商品は、当然この枠には入りません。
2. 日本の商標権者と海外の商標権者が実質的に同じであること
次に、日本の商標権者と、輸入元の国でその商標を使っている者とが、同一人、または法律的・経済的に同一人とみられる関係にあることが必要です。
これは、商標が持つ出所表示機能に関わる話です。
つまり、日本でその商標を見た需要者が、「この商品はあの会社のものだ」と理解する機能が損なわれていないかどうかが問われています。
海外の商品であっても、結局は同じ企業グループや同じ権利主体の管理下にある商品であれば、出所の混乱は起きにくいと考えられます。
3. 日本向け商品と品質に実質的な差異がないこと
ここが実務ではかなり重要です。
並行輸入された商品と、日本で商標権者がその商標を付して販売している商品との間に、品質上の実質的な差異がないことが必要とされます。
これは、商標の品質保証機能に関わります。
商標は単に「誰の商品か」を示すだけではありません。そのマークが付いていれば、一定の品質が期待できるという役割もあります。
そのため、海外品と日本向け商品で品質に実質的な違いがあると、商標が本来果たしている品質保証機能が損なわれることになります。
今回のケースではどう考えるか
今回の事例のケースでは、中国で自社が販売した真正商品が、日本と同じ商標を付したまま輸入されているという前提です。
そうであれば、
- 商標は海外で適法に付されている
- 日本と中国の商標権者は同じ会社である
- 商品が本物で、品質も実質的に同じである
という事情が認められやすいので、通常は真正商品の並行輸入にあたり、輸入業者による日本への輸入や国内販売は、商標権侵害にあたらないと考えられます。
輸入業者が貴社とは無関係であること自体は、この結論を直ちに変えるものではありません。
では、どんな場合に侵害になるのか
もっとも、並行輸入であれば何でも自由というわけではありません。
たとえば、中国向けの商品が、日本向けの商品とは成分、仕様、耐久性、使用方法、保証内容などの点で実質的に異なる場合には、品質保証機能が害される可能性があります。
その場合、真正商品の並行輸入とはいえず、商標権侵害となる余地があります。
また、輸入後に包装の取替えや詰め替え、ラベルの貼り替えなどが行われ、それによって品質が害されるおそれがある場合も同様です。
つまり、ポイントは「本物かどうか」だけではありません。
日本でその商標が期待させる出所と品質が、実際にも維持されているかが重要なのです。
税関でも基本的な考え方は同じ
税関実務でも、商標権の侵害とならない並行輸入品については、知的財産侵害物品には当たらないものとして扱われています。
ここでもやはり、単純に「権利者の許可があるかないか」だけではなく、真正商品であるか、商標の機能が害されていないかという観点が重視されています。
まとめ
並行輸入は、形式的に見ると商標権侵害に見える場面があります。
しかし、海外で適法に商標が付された真正商品であり、日本の商標権者との関係でも出所表示機能が保たれ、さらに日本向け商品との間に品質上の実質的差異がないのであれば、真正商品の並行輸入として、商標権侵害にはあたらないと考えられています。
逆に言えば、品質差や再包装などによって商標の機能が損なわれる場合には、並行輸入であっても侵害になり得ます。
並行輸入の問題は、「許可を得ているかどうか」だけで決まるものではなく、商標が本来果たすべき機能が維持されているかどうかで判断されるところに、実務上の面白さがあります。
並行輸入は、本物の商品でも商標権侵害が問題になることがあります。海外向け商品と日本向け商品の違いや、再包装・表示変更のリスクが気になる場合は、サムライツ知財事務所に相談してみてください。商標の出所表示機能や品質保証機能の観点から、実務に即して整理できます。
