結論:上下二段書きの商標でも、下段が上段の読み仮名と直ちに理解できない場合には、上下をまとめて一連一体の造語として把握されることがあります。
今回の「絆結」事件では、本願商標「絆結」と、引用商標「絆結/HANYU」について、非類似と判断されました。
一見すると、両商標はいずれも「絆結」の文字を含んでいます。
そのため、共通部分がある以上、類似と見てもよさそうです。
しかし審決は、引用商標について、下段の「HANYU」が上段の「絆結」の読み仮名を特定したものとはいえないとし、引用商標全体を一連一体の造語として把握しました。
その結果、本願商標「絆結」と引用商標「絆結/HANYU」は、外観・称呼において明確に区別できるとして、非類似と判断されています。
目次
事案の概要
本願商標は「絆結」(商願2024-45568)です。
引用商標は「
」(登録第5764037号)で、拒絶査定不服審判は不服2025-4617です。
争点は、商標法4条1項11号、つまり本願商標が引用商標と類似するかどうかでした。
審決では、本願商標と引用商標は非類似であり、本願商標の指定商品と引用商標の指定役務の類否について検討するまでもなく、4条1項11号には該当しないと判断されています。
理由1 本願商標「絆結」は造語とされた
まず、本願商標「絆結」について、審決は辞書類に載録された既成語ではないとしました。
そのため、「絆結」は特定の語義を有しない一種の造語として理解されるとされています。
称呼については、各漢字の慣れ親しまれた訓読みに基づき、
- キズナユイ
- キズナムスビ
ほどの称呼が生じると判断されました。
一方で、特定の観念は生じないとされています。
理由2 引用商標の「HANYU」は読み仮名とは見られなかった
本件で最も重要なのは、引用商標「絆結/HANYU」の下段「HANYU」の評価です。
通常、漢字と欧文字又は片仮名が上下二段に書かれている場合、下段が上段の読みを示していると理解されることがあります。
しかし本件では、審決はそう見ませんでした。
理由は、上段の「絆結」から自然に生じる称呼は「キズナユイ」又は「キズナムスビ」ほどであり、下段の「HANYU」は、その読み仮名を特定したものとは必ずしも理解できないからです。
つまり、「HANYU」は「絆結」の読みをそのままローマ字で表したものとはいえず、上段と下段が読み仮名関係にあるとは判断されませんでした。
理由3 引用商標は全体で一連一体の造語と把握された
審決はさらに、引用商標について、上段と下段のどちらか一方が、取引者・需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないとしました。
また、一方から出所識別標識としての称呼・観念が生じないともいえないとされています。
そのため、引用商標は、
「絆結」と「HANYU」を合わせた全体で、一連一体の造語を表したもの
として理解されると判断されました。
その結果、引用商標からは、
- キズナユイハンユウ
- キズナユイハニュー
- キズナムスビハンユウ
- キズナムスビハニュー
ほどの称呼が生じるとされています。
理由4 本願商標と引用商標は外観・称呼で区別できるとされた
本願商標は「絆結」のみです。
引用商標は「絆結」と「HANYU」の上下二段構成です。
そのため、外観上は、引用商標に「HANYU」がある点で明確に区別できるとされました。
称呼についても、本願商標からは「キズナユイ」又は「キズナムスビ」が生じるのに対し、引用商標からは「キズナユイハンユウ」等の長い称呼が生じるとされました。
つまり、音数が異なり、語調・語感も異なるため、十分に聴別できると判断されています。
観念については、いずれも特定の観念を生じないため比較できないとされましたが、外観と称呼で明確に区別できるため、総合的に非類似とされました。
条件1 上下二段書き商標が一体と見られやすい場合
この事件からすると、上下二段書きの商標が一体的に把握されやすいのは、次のような場合です。
下段が上段の読み仮名と直ちに分からない場合
上段の漢字から自然に生じる読みと、下段の欧文字や片仮名が一致しない場合です。
この場合、下段は単なる読み仮名ではなく、別の構成要素として見られやすくなります。
上段と下段が同じような大きさ・書体でまとまっている場合
どちらか一方が極端に目立つのではなく、全体としてまとまりよく配置されていると、一体的に把握されやすくなります。
どちらか一方だけが強く支配的とはいえない場合
上段だけ、又は下段だけがブランドの中心として強く印象に残る事情がなければ、全体で一つの商標と見られる可能性があります。
条件2 逆に、分離して把握される可能性がある場合
もっとも、上下二段書きだから常に一体不可分になるわけではありません。
下段が明らかに上段の読みを示している場合
たとえば、上段が漢字、下段がその読みを片仮名やローマ字で表していることが明らかな場合です。
この場合、実質的には同じ語を二通りに表しているだけと理解されやすくなります。
上段が強く識別力を持つ場合
上段の漢字が造語で、しかも印象に残りやすい場合には、上段だけが要部と見られる可能性があります。
今回も、本願商標・引用商標の上段「絆結」は既成語ではなく、造語として一定の識別力があるようにも見えます。
そのため、上段部分だけが共通することをもう少し重く見てもよいのではないか、という疑問は残ります。
実際の取引で上段だけで呼ばれやすい場合
需要者が引用商標を見たときに、長い全体称呼ではなく、上段の「絆結」部分だけで呼ぶ実情があるなら、上段部分が要部として把握される可能性があります。
商品・役務の分野が近く、混同のおそれが現実的な場合
たとえば、同じ分野で「絆結」と「絆結/HANYU」が使われた場合、需要者が同じ系列の商品・役務だと受け取る可能性は否定しきれません。
この審決に残る疑問
今回の審決では、引用商標から「キズナユイハンユウ」等の全体称呼が生じるとされました。
ただ、実際の需要者が、上下二段書きの異なる文字種からなる商標に接したときに、常に上段と下段を続けて一連に称呼するとは限らないようにも思います。
むしろ、
- 上段だけを読む
- 下段だけを読む
- 下段を補助的な表示として見る
- 上段と下段を別々の要素として把握する
といった受け取り方もあり得ます。
また、仮に「HANYU」が「絆結」の読み仮名ではないとしても、それだけで上段と下段を必ず一連に称呼することになるのかは、少し議論の余地があります。
つまり、下段が読み仮名ではないという点は、一体性を支える事情にはなりますが、上段・下段それぞれから独立した称呼が生じる可能性まで否定するものではないように思います。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、上下二段書き商標では、下段が読み仮名なのか、それとも別個の構成要素なのかが、類否判断に大きく影響するということです。
下段が読み仮名と見られれば、上段の文字部分との対応関係が強くなり、上段の語を中心に把握される可能性があります。
一方で、下段が読み仮名と見られない場合には、上下を合わせた全体で一つの造語的表示と把握され、単独の上段商標とは非類似とされることがあります。
ただし、この判断はかなり事案依存です。
特に、上段が造語で識別力が高い場合や、同じ分野で使われる場合には、混同のおそれをどう見るかについて慎重な検討が必要です。
次の判断に進むために見るべきポイント
上下二段書きの商標を検討するときは、次の順番で見ると判断しやすくなります。
まず、下段が上段の読み仮名かを確認する
下段が上段の自然な読みを表しているかどうか。
ここが、全体一体で見るか、上段を中心に見るかの分かれ目になります。
次に、上段・下段のどちらが強く印象に残るかを見る
文字サイズ、書体、配置、意味、識別力によって、どちらか一方が要部とされる可能性があります。
さらに、需要者がどう呼びそうかを考える
実際の取引で、全体を続けて呼ぶのか、上段だけで呼ぶのか、下段だけで呼ぶのかを想定する必要があります。
最後に、商品・役務の近さを確認する
商品・役務が近いほど、共通部分による混同のおそれは問題になりやすくなります。
まとめ
上下二段書きの商標でも、下段が上段の読み仮名と直ちに理解できない場合には、全体で一連一体の造語として把握され、単独の上段商標とは非類似と判断されることがあります。
「絆結」事件では、
- 「絆結」は既成語ではなく造語とされた
- 「HANYU」は「絆結」の読み仮名を特定するものとはいえないとされた
- 引用商標は「絆結/HANYU」全体で一連一体の造語と把握された
- 本願商標「絆結」と引用商標「絆結/HANYU」は、外観・称呼で明確に区別できるとされた
ことから、非類似と判断されました。
もっとも、上下二段書き商標に接した需要者が常に全体を一連に称呼するとは限りません。
下段が読み仮名ではないとしても、上段・下段それぞれの称呼が生じる余地はあり、特に上段が識別力の高い造語である場合には、上段部分だけが取引上強く印象に残ることもあります。
この事例は、上下二段書き商標の類否判断において、読み仮名関係の有無と、一体的把握の程度をどう見るかが重要であることを示しています。
サムライツ知財事務所では、こうした二段書き商標や、漢字・ローマ字を組み合わせた商標の類否判断についてもご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願や拒絶対応を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。
