著作物を使いたいのに、権利者の利用ルールも連絡先も分からない。そんな場面は、ネット上のコンテンツが増えた今、珍しくありません。こうした課題に対応するため、令和5年の著作権法改正で「未管理著作物裁定制度」が創設され、令和8年4月から運用開始しました。文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、一定の場合に適法利用を可能にする制度です。
※参考:「未管理著作物裁定制度」(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/index.html
目次
どんな制度なのか
この制度は、著作権等管理事業者により管理されておらず、利用可否に関する権利者の意思が確認できない著作物等を対象としています。文化庁はこれを「未管理公表著作物等」と説明しています。利用を希望する側が、権利者の意思確認のための一定の措置を行っても回答が得られないなど、利用可否に関する権利者の意思が明らかでない場合に、裁定と補償金の支払いによって時限的な利用が認められる仕組みです。
従来の「著作権者不明等の場合の裁定制度」と何が違うのか
文化庁は、今も運用されている制度として「著作権者不明等の場合の裁定制度」を案内しています。こちらは、権利者が誰か分からない、所在が分からない、相続人が不明といった場合に使う制度です。これに対して未管理著作物裁定制度は、権利者が全く不明というより、管理されておらず、利用可否に関する意思が確認できない著作物等を使いたい場面を想定しています。つまり、新制度は、デジタル環境で増えた「権利者の存在は想定できるが、利用の入口が見つからない」ケースへの対応色が強い制度です。
使える場合と使えない場合
この制度は、何でも使えるようにするものではありません。文化庁のFAQでは、たとえば権利者のウェブサイトに「利用に関する問合せ先」が表示されている場合、未管理著作物裁定制度は利用できないと明示されています。連絡先が示されている以上、まずは通常の許諾ルートで進むべきという考え方です。
また、利用者は申請前に、著作物等の周辺表示、インターネット検索で見つかる権利者と想定されるサイト、権利者団体や媒体提供者のサイト、さらに分野横断権利情報検索システムで確認対象として表示された団体等のサイトなどを確認し、利用ルールや利用申込先の記載がないかを合理的範囲で探索する必要があります。つまり、利用申込先を「探さなくていい」制度ではなく、「探しても意思確認ができない」場合に活用する制度です。
手続の流れはどうなっているのか
文化庁の概要資料によると、利用者はまず、対象著作物等が公表されていること、管理事業者により管理されていないこと、利用可否に関する意思表示がないことなどを確認します。その上で、権利者の意思や連絡先等を探索し、連絡可能な場合は連絡を試みます。連絡できなかった場合や、連絡できても14日間応答がなかった場合などに、登録確認機関を通じた申請へ進みます。最終的に裁定がされ、指定補償金管理機関に補償金を支払うことで利用開始となります。
この流れを見ると、制度の核心は「無断利用を合法化すること」ではなく、通常の許諾取得が機能しない場面で、行政的な仕組みによって利用と対価還元の両立を図ることにあると分かります。
登録確認機関と補償金管理機関が入るのが特徴
未管理著作物裁定制度では、文化庁長官による登録を受けた民間機関である登録確認機関が、申請受付、要件確認、使用料相当額の算出などを担うとされています。さらに、裁定後の補償金は指定補償金管理機関に支払う仕組みです。従来の制度よりも、実務の入口と運用部分を民間機関が支える設計になっている点が特徴です。
費用はどれくらいかかるのか
文化庁のFAQでは、未管理著作物裁定で著作物を利用するには、少なくとも登録確認機関への手数料13,800円(税抜、申請1件あたり)と、著作物・利用方法に応じた補償金が必要とされています。補償金は通常の使用料に相当する額で、文化庁は補償金額の目安を算出できるシミュレーションシステムも案内しています。
なぜこの制度ができたのか
文化庁の概要資料では、背景として、DXの進展により誰もがコンテンツを創作・発信しやすくなり、一般の人が作ったコンテンツも含めて利用機会が増えている一方、権利者情報や連絡先が明らかでなく、許諾を得ることが難しいものが増えていると説明しています。従来の「著作権者不明の場合の裁定制度」だけでは、権利探索コストが重く、円滑な利用につながりにくいという課題があったため、新制度が設けられました。
実務上、どう見るべきか
この制度は、著作権者の権利を弱めるためのものではなく、権利者の意思が見えない著作物について、利用機会を開きつつ対価還元の道も確保するための制度と見るのが自然です。権利者側から見れば、権利情報や利用方針をきちんと表示しておくことの重要性が高まりますし、利用者側から見れば、まず通常の探索と確認を尽くすことが前提になります。
特に、ウェブサイトやSNS等で作品を公表している個人クリエイターにとっては、利用方針や連絡先を明示しておくこと自体が、勝手に制度利用されにくくする実務上の備えにもなります。文化庁も、制度運用に資するものとして、分野横断権利情報検索システムと個人クリエイター等権利情報登録システムの運用を案内しています。
まとめ
未管理著作物裁定制度は、権利者の利用可否に関する意思が確認できない著作物等について、文化庁長官の裁定と補償金の支払いを通じて、一定の適法利用を可能にする新制度です。運用開始は令和8年4月で、連絡先や利用ルールの表示がないことを合理的範囲で確認した上で、それでも通常の許諾取得が難しい場合に使う制度として位置付けられています。
制度のポイントは、「権利者不明」と「未管理で意思確認不能」をきちんと分けていること、そして、探索・確認・補償という手順を踏むことで、無断利用と放置の間に第三の道を作っていることです。著作物を使いたい側にも、著作物を公開している側にも、実務上かなり関係のある制度だと言えます。
