うどん業界1位の丸亀製麺が、本場・香川県で苦戦している——そんな記事が話題になっています。
・「「丸亀をパクるな騒動」だけじゃない…今でも“うどん県”香川でだけ【丸亀製麺が苦戦する】根深いワケ」(文春オンライン)
https://bunshun.jp/articles/-/90974
理由は複数指摘されていますが、商標を扱う立場として特に気になったのが「丸亀もんぞう事件」です。ここには、中小企業の経営者にとって参考になる、商標権との付き合い方のヒントがあると感じました。
目次
讃岐うどんの本場で、なぜ王者が伸び悩むのか
丸亀製麺は全国に約900店舗、うどんチェーン1位を走る絶対王者です。ところが「うどん県」香川県内では、店舗数がわずか1店舗にとどまっています。佐賀県や鳥取県よりも少なく、地元での苦戦ぶりが際立ちます。
味の違い(いりこ出汁を使わない点)、価格帯の違いなど、複数の要因が記事では指摘されています。ただ、商標に携わる者として特に印象に残ったのが、次の一件でした。
「丸亀もんぞう事件」——商標権を行使したことで起きた反発
丸亀市の製麺所で修業された方が海外で開いた個人店に対し、丸亀製麺側が「丸亀」の名称使用を差し止める方向で動いた——という出来事です。
最終的には「今後アクションを起こさない」との声明で収束しましたが、この件は香川県内のうどん関係者、そしてタウン情報誌の関係者までを巻き込んで大きな反発を招きました。SNSでも拡散し、地域における丸亀製麺への感情に長く影を落としているといわれます。
法的に「動く権利があった」かどうかと、「動くべきだったか」は、別の話です。ここが、商標実務の難しさであり、面白いところでもあります。
商標権は「使える権利」であって、「必ず使わなければならない」ものではない
商標権は、登録した者が独占的に商標を使える権利です。他社の類似使用に対して差止め請求や損害賠償請求をすることもできます。
ただ、実務ではよくお伝えするのですが、「権利がある」ことと「その権利を今この場面で行使するか」は、分けて考えたほうがよい場面があります。
特に、「丸亀」のように地名を含む商標や、地域の文化・産業と結びついた商標では、権利行使の相手・タイミング・伝え方を誤ると、「法的には勝ったのにブランドは傷ついた」という結果になりかねません。
香川県内で丸亀製麺の店舗閉店が続く現状は、経営に実害が出ている状態ともいえるでしょう。
中小企業が押さえておきたい3つの視点
このケースから、中小企業の経営者の方に持ち帰っていただけそうな視点を、3つに整理してみます。
1. 商標権は「使える権利」であって、「必ず使う権利」ではない
権利行使は義務ではありません。「今回は行使しない」という判断も、立派な経営判断です。むしろ、そのつど「行使するか、しないか」を意識的に選べる状態にしておくことが大切です。
2. 権利行使の場面では、相手・地域・業界との関係性を含めて判断する
特に相手が個人事業者や小規模事業者、または地域の関係者である場合、法的な正しさだけでは片付かない領域があります。相手にとってどう見えるか、周囲の同業者や顧客にどう受け止められるか、まで想像しておきたいところです。
3. 地名や産地を想起させる商標ほど、「地域から支持されて」初めて価値になる
地名を含むブランドは、その地域の空気を味方につけられるかどうかで、育ち方が大きく変わります。地域と対立する形で権利を行使してしまうと、ブランドが本来持っているはずの「産地の物語」まで弱くなってしまいます。
まとめ——「登録して終わり」ではなく、「どう使うか」まで含めて考える
商標を登録して守ることは、事業の基盤としてとても大切です。だからこそ、その先の「どう運用するか」「どういう場面で行使し、どういう場面では行使しないか」まで含めて設計しておくと、ブランドは長く安定して育っていきます。
法的な正しさと、顧客や地域から受け入れられることは、必ずしも一致しません。両方をバランスさせながら判断していくのが、経営者に伴走する専門家の役割だと、私自身も日々感じているところです。
商標登録のご相談をお受けする際にも、「取得後にどう使いますか」「もし他社が似た名称を使ってきたら、どうしますか」まで一緒に整理していけると、より安心してブランドを育てていけるのではないかと思います。
「登録できるか」だけでなく、「登録した後、どう付き合っていくか」。丸亀製麺の香川苦戦は、その難しさと大切さを、私たちに改めて教えてくれる事例のように感じています。
商標・ブランドのご相談を承っています
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サムライツ®知財事務所では、商標・意匠の登録から、その後の運用・活用の設計まで、経営者の方に伴走する形でサポートしています。
