結論:最新の傾向では、上段と下段の文字に意味的な関連性があれば、一体不可分と認識されやすくなります。もっとも、それだけで常に一体不可分になるわけではなく、文字の強弱、配置、頭文字対応の分かりやすさ次第で結論は変わり得ます。
今回の「MOE/MOMENT OF EVERGReeN」事件では、本願商標全体が一体不可分のものとして把握されると判断され、上段の「MOE」だけを取り出して引用商標「MOE」等と比較することは許されないとされました。
ただ、この結論はそのまま一般化するよりも、関連性が一体性を補強した事例として読むほうが自然だと思います。
目次
事案の概要
本願商標は「
」(商願2024-029356号)です。
引用商標は「MOE」(登録第5645039号)ほか6件で、拒絶査定不服審判は不服2025-2507です。
争点は、商標法4条1項11号、つまり先登録商標との類似に当たるかどうかでした。
審決は、本願商標から「MOE」の文字部分だけを分離、抽出して引用商標と比較することはできないとし、本願商標全体を一体不可分のものとして認識・把握するのが相当であるとして、引用商標とは非類似と判断しています。
なぜ一体不可分とされたのか
この審決で重視されたのは、単に二段構成であることではありません。
上段と下段の視覚的・意味的なつながりが強いと見られた点が大きいです。
中央揃えでまとまりよく配置されている
審決は、上段と下段の文字が中心をそろえて、バランスよく配置されていることを指摘しています。
確かに、二段に分かれていても、レイアウトとして整っていれば、看者には一つのロゴ、一つの標章として映りやすくなります。
その意味で、この配置は一体性を支える事情として理解できます。
「MOE」が下段の頭文字を示していると見られた
より重要なのは、上段の「MOE」が、下段の「MOMENT OF EVERGReeN」の各単語の頭文字を表しているように見える、と認定された点です。
つまり、審決は「MOE」を単独の独立語として見るのではなく、下段全体を要約した頭字語のように理解しました。
この見方に立つと、上段と下段は単なる並列ではなく、互いに対応関係を持つまとまりとして把握されることになります。
「MOE」だけが特に強く支配的ともいえない
審決はさらに、「MOE」の文字部分だけが取引者・需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える事情も見いだせないとしています。
つまり、上段だけが際立っていて、下段は説明文のような位置づけになっているとは見なされませんでした。
この点も、一体不可分という結論を支える要素になっています。
ただし、常に一体不可分になるわけではない
ここが一番大事なところです。
今回の審決は、「上段と下段に関連性がある場合は常に一体不可分である」という一般論を示したものではありません。
あくまで、この事案では、
- 配置が整っている
- 頭文字対応が認められる
- 上段だけが支配的ともいえない
という事情が重なったため、一体不可分と判断されたと見るべきです。
したがって、同じように上下二段の構成であっても、少し事情が変われば、上段だけが分離抽出される余地は十分あります。
結論が変わり得る条件
この種の商標では、次のような事情があると、上段部分が独立して把握されやすくなります。
上段の文字が強く目立つ場合
上段だけが極端に大きい、太い、色が違う、装飾が強いという場合です。
このような場合、需要者はまず上段に注目しやすく、上段だけが出所識別標識として記憶される可能性があります。
下段が説明文のように見える場合
下段が小さく、補足説明やキャッチコピーのように見える場合には、上段がブランド名、下段が説明という理解になりやすいです。
その場合は、一体不可分ではなく、上段が要部とされる可能性が高まります。
頭文字対応が分かりにくい場合
今回の審決では、「MOE」が「MOMENT OF EVERGReeN」の頭文字であると比較的素直に認定されています。
ただ、需要者が本当にそこまで自然に頭文字対応を理解するかは、ケースによってかなり違うはずです。
対応関係が分かりにくい場合には、上段と下段の関連性は弱まり、一体不可分との評価も揺らぎます。
上段が独立したブランドとして強く認識される場合
上段の略称や短い文字列が、既にブランドらしい印象を強く持つ場合には、需要者は下段を見なくても上段だけで識別標識として把握することがあります。
その場合、上段のみが要部とされる方向に傾くことがあります。
少し気になる点
今回の審決には納得できる部分もありますが、少し引っかかる点もあります。
それは、「MOE」が本当に、需要者にとって自然に下段の頭文字だと理解されるのかという点です。
審決はそこを比較的素直に認定していますが、実際には、
- まず「MOE」という短い独立した文字列として受け取るのか
- それともすぐに「MOMENT OF EVERGReeN」の頭字語だと理解するのか
は、それほど自明ではないようにも思えます。
特に短い欧文字は、それ自体でブランド名のように見えやすいので、上段のほうが先に目に入り、強く記憶されるという見方も十分あり得ます。
その意味では、今回の結論は理解できるとしても、常に同様に処理されるとは考えないほうがよさそうです。
実務上の示唆
この事例から実務的に言えるのは、上下段に関連性があることは、一体不可分と認定される方向に働くが、それだけで決まるわけではないということです。
最終的には、
- レイアウト
- 文字サイズ
- 強調の程度
- 頭文字対応の分かりやすさ
- 上段部分の独立した印象の強さ
といった事情が総合的に見られます。
つまり、上下二段のデザインを採る場合でも、「略称+フルスペルだから大丈夫」と考えるのは危険ですし、逆に「略称部分が共通するから必ず類似になる」とも言い切れません。
見せ方次第で、結論はかなり動きます。
まとめ
「MOE/MOMENT OF EVERGReeN」事件では、審決は、中央揃えの配置と、上段の「MOE」が下段各語の頭文字を連想させることなどから、上段と下段が関連性を有するまとまりのよい一体的なものとして把握されるとし、本願商標全体を一体不可分と認定しました。
その結果、「MOE」部分だけを分離抽出して引用商標と比較することはできず、非類似と判断されています。
ただし、この結論はあくまで個別事情に基づくものです。
上段がより強く目立つ場合や、下段が説明的に見える場合、頭文字対応が分かりにくい場合などには、上段だけが要部とされる可能性も十分あります。
結局のところ、上段と下段に関連性があることは、一体不可分と認識される方向に働く重要な事情ではあるものの、それだけで常に結論が決まるわけではありません。
ロゴや二段構成の商標を考えるときは、「全体で一つに見えるか」だけでなく、「どの部分が先に記憶に残るか」まで含めて見ておく必要があると思います。
サムライツ知財事務所では、こうした二段構成商標の類否や、略称とフルスペルを組み合わせたネーミングの出願可能性についてもご相談いただけます。
略称部分だけで先行商標に近くならないか気になる場合は、出願前に検討しておくと安心です。
