お菓子の「形」そのものを商標として登録できることをご存じでしょうか。
実際に、グリコの「ポッキー」(登録第6951539号)や、明治の「きのこの山」(登録第6031305号)、「たけのこの里」(登録第6419263号)については、立体的な形状が商標登録されています。
一方で、あの「キットカット」の特徴的な形状については、立体商標としての登録が認められませんでした。
「これだけ有名な商品なのだから、形を見ればキットカットだと分かるのでは?」
そう思うところですが、今回の審決では、そこがポイントになりました。
目次
「キットカット」の立体商標を出願
今回取り上げるのは、チョコレート菓子「キットカット」の立体的形状についての商標出願です。
本願商標は、いわゆる「2フィンガー」と呼ばれる、2本のチョコレートバーが連結した形状です
(商願2020-121513号)。
指定商品は「チョコレート菓子」。
この立体形状について商標登録を求めたところ、特許庁は登録を認めませんでした(不服2024-75)。
争点となったのは、商標法3条1項3号と3条2項です。
簡単にいうと、
- そもそも、その形状は商品の「普通の形」として理解されるのではないか
- 長年使った結果、「この形を見ればキットカットだ」と需要者が認識するようになったといえるか
という2つの問題です。
まず、「チョコレート菓子の形」にすぎない?
特許庁は、商品の形状について、かなり慎重に考えます。
商品の形は、商品の機能を発揮させたり、見た目をよくしたりするために採用されることが多いからです。
たとえば、チョコレートを食べやすくするために分割しやすい形にすることや、見た目を特徴的にすることは、商品の機能や美観に関係します。
そのため、
「特徴的な形だから商標になる」
とは、必ずしもいえません。
今回の審決でも、チョコレート菓子については様々な形状の商品が販売されていることが指摘されました。
さらに、2本の棒状のチョコレートを連結したものや、複数の棒状のチョコレートを連結したものも存在していました。
そのため、キットカットの形状は、
「チョコレート菓子に採用できる形の一つ」
として理解できる範囲にあると判断されました。
つまり、形状そのものに一定の特徴があったとしても、それだけでは足りないということです。
では、「キットカットといえばこの形」ではないのか?
ここでキットカット側から反論が出てきます。
キットカットは日本では1973年から販売されています。
今回問題となった2本連結型のミニサイズについても、2011年から使用されていました。
さらに、2015年から2019年までのキットカット商品の年間販売額は約250億円から約270億円。
チョコレート菓子市場で第1位のシェアだったことも証拠として提出されています。
テレビCM、ウェブサイト、SNSなどでの広告宣伝も行われていました。
そして、かなり興味深いアンケート調査も提出されています。
2024年に全国の男女1,080人を対象に調査したところ、立体形状を見て「キットカット」「KitKat」などを想起した人が、対象者全体の約72.9%。
さらに、キットカットの「2つ折り画像」と立体形状を比較して、「同じ商品だと思う」と回答した人は約74.4%でした。
数字だけを見ると、かなり強い認知度です。
それでも、登録には至りませんでした。
「有名な商品」と「形状が商標として有名」は別問題
今回の審決で特に重要なのは、ここだと思います。
特許庁は、キットカットという商品そのものが広く知られていることは認めています。
つまり、
「キットカットが有名ではない」
という話ではありません。
むしろ、キットカット商品が日本の需要者に広く知られていること自体は認められています。
問題は、「キットカットが有名であること」と、「この立体形状そのものが出所を示す商標として認識されていること」は同じではないという点です。
ここが立体商標の難しいところです。
実際の売り場では「形」だけを見て買っているのか?
特許庁が重視したのが、実際の商品がどのように販売・広告されていたかです。
キットカットは、主に個包装されています。
そして、包装箱や包装袋に入れて販売されています。
そのため、店頭で商品を購入するときに、需要者がチョコレートそのものの立体形状を見て、
「これはキットカットだから買おう」
と判断する状況にはなりにくいとされました。
また、キットカット商品の形状は、必ずしも今回の2フィンガー形状だけではありません。
球状の商品や、1本の細長い棒状の商品なども存在していました。
さらに、商品の包装に今回の立体形状と同じ形が表示されていたものも、2022年・2023年に販売された60種類のうち、わずか2種類でした。
広告についても、チョコレートの上面に「KitKat」の文字が入っていたり、包装や文字によって形状の一部が隠れていたりしました。
つまり、長年にわたってキットカットを販売していたことは間違いありません。
しかし、
「この形そのものを商標として認識させるための使用」
が十分だったとは評価されなかったわけです。
アンケートの数字だけでは足りなかった
今回、個人的に興味深いと感じるのは、かなり高い数字のアンケート結果が出ているにもかかわらず、それだけでは登録できなかった点です。
立体形状を見せて、約72.9%の人がキットカットを想起した。
これは一見すると、「十分に有名なのでは?」と思います。
しかし、特許庁は、「想起できる」ことと「その形状を出所識別標識として使っている」ことは別と考えました。
たとえば、私たちが商品の形を見て「あ、あの商品だ」と思い出すことはあります。
でも、それが必ずしも、
「この形状が商標だから、この会社の商品だ」
という認識を意味するわけではありません。
今回の審決は、この違いをかなり明確に示しています。
ポッキーや「きのこの山」は登録されているのに?
ここで気になるのが、冒頭の話です。
同じチョコレート菓子でも、グリコの「ポッキー」の立体形状は登録されています。
また、明治の「きのこの山」や「たけのこの里」の立体形状も商標登録されています。
では、なぜキットカットだけ難しかったのでしょうか。
これは、単純に「ポッキーは登録できる形で、キットカットは登録できない形だった」という話ではありません。
立体商標では、商品の形そのものが一般的な形状の範囲にとどまるのか、使用によってその形状自体に識別力が生じたのか、そして実際にどのような態様で使用されているのかなどを、個別具体的に判断します。
したがって、同じ「お菓子の立体形状」でも、結論が同じになるとは限りません。
立体商標では「長く売っている」だけでは足りない
今回の審決から、企業側にとって参考になるポイントがあります。
それは、「商品が有名になること」と「商品の形状が商標として有名になること」は別々に考える必要があるということです。
商品名については、テレビCMやパッケージ、広告などで繰り返し表示すれば、商品名そのものが出所表示として機能していきます。
一方、立体形状の場合は、その形状を「ブランドの目印」として認識してもらう必要があります。
そのためには、
- 商品の形状そのものを継続的に見せる
- 商品名やロゴとは切り離しても形状が認識されるようにする
- パッケージや広告でも形状を識別標識として扱う
- 形状そのものが出所を示していることを裏付ける資料を残す
- 競合商品との違いを明確にしておく
といった点が重要になってきます。
特に最後の「資料を残す」という点は、後から非常に重要になります。
販売数量、広告実績、販売地域、使用期間だけでなく、実際にどのような態様で形状を使用していたのか。
さらに、需要者がその形状をどのように認識しているのか。
こうした資料を日頃から整理しておくことが、将来の商標登録や権利化の場面で役立つ可能性があります。
「形が有名」でも、商標になるとは限らない
今回のキットカットのケースは、「こんなに有名なのに、なぜ登録できないの?」という疑問を持ちやすい事例です。
しかし、審決を読むと、特許庁が問題にしているのはキットカットの知名度そのものではありません。
問題は、その知名度が「立体形状そのものの出所識別力」につながっているかでした。
立体商標は、商品の形をそのまま独占できる可能性がある一方、競争相手が自由に使えるべき商品の形まで独占させてしまう危険もあります。
だからこそ、文字商標などと比べても、登録のハードルは慎重に判断されます。
「長年販売している」「売上が大きい」「誰もが知っている」。
それだけでは十分ではありません。
「この形だから、この会社の商品だ」と需要者が認識しているか。
そして、そのことを証拠によって説明できるか。
立体商標を考えるうえでは、ここが大きなポイントになりそうです。
商標登録についてのご相談
商品名やロゴだけでなく、「商品の形」「パッケージ」「店舗の外観」など、ブランドを構成するさまざまな要素について商標登録を検討することができます。
一方で、立体商標のように登録のハードルが高いものでは、「どのように使ってきたか」を含めて権利化の可能性を考えることが重要です。
商標登録について検討されている方は、必要に応じてサムライツ®︎知財事務所までご相談ください。
※サムネ画像は商願2020-121513号公報より引用
