商標審査では、結合商標の一部分だけを取り出して先行商標と比較されることがあります。
しかし、常に一部分だけが比較対象になるわけではありません。
今回紹介する拒絶査定不服審判の審決では、「焼鳥ざんまい黒船」という商標について、末尾の「黒船」のみを取り出して先行商標「黒船」と比較することはできないとして、拒絶査定が取り消されました(不服2025-19014)。
事案の概要
本願商標:「焼鳥ざんまい黒船」(商願2024-95695号)
引用商標:「
」(登録第6676601号)
審査では、本願商標の「黒船」の部分が要部であるとして引用商標「黒船」と類似すると判断され、拒絶査定が下されました。
これに対し、審判では異なる結論となりました。
商標全体は一体として認識される
審判がまず注目したのは、本願商標の構成です。
「焼鳥ざんまい黒船」は、
- 同じ書体
- 同じ大きさ
- 字間を空けず横一列
で表されていました。
そのため、需要者は全体を一つのまとまった名称として認識すると判断されています。
また、「ヤキトリザンマイクロフネ」という称呼も、決して長すぎるものではなく、一息で自然に呼ぶことができると認定されました。
これらの事情から、商標全体の一体性が強いと評価されています。
「焼鳥ざんまい」は識別力が弱いとはいえない
審判では、「焼鳥ざんまい」の意味についても検討しています。
「焼鳥」は料理名、「ざんまい」は「三昧」に由来し、「一心不乱に行うこと」といった意味を有します。
そのため、「焼鳥ざんまい」からは、「一心不乱に焼鳥を食べる」程度の意味合いは理解できるとしています。
しかし、このことだけで、
- 飲食店の役務の質を直接表示する言葉
- 識別力のない表示
とはいえないと判断しました。
さらに、審判では職権調査も行っていますが、「焼鳥ざんまい」が一般に識別力を欠く表示として使用されている実情も確認できなかったとしています。
つまり、「焼鳥ざんまい」は決して識別力の弱い部分ではないという判断です。
「黒船」だけを取り出すことはできない
商標の一部分だけを要部として比較するためには、
- 他の部分が識別力を欠く
- 他の部分が極めて弱い
- 一部分だけが需要者の強い印象に残る
といった事情が必要になります。
しかし本件では、「焼鳥ざんまい」が識別力を有しており、商標全体も一体的に認識されることから、「黒船」のみが独立して取引に資されるとはいえないと判断されました。
その結果、「黒船」の部分だけを抽出して引用商標と比較すること自体が適切ではないとされています。
審決の結論
審判は、
- 商標全体は一体不可分である
- 「焼鳥ざんまい」は識別力が弱いとはいえない
- 「黒船」だけが要部になるとはいえない
として、原査定が「黒船」の部分のみを取り出して類似と判断したことは誤りであると判断しました。
その結果、拒絶査定は取り消されています。
実務上のポイント
結合商標では、一部に先行商標と同じ文字が含まれているからといって、直ちに類似となるわけではありません。
特に、
- 商標全体がまとまりよく構成されていること
- 全体を自然に一連で称呼できること
- 前半部分にも十分な識別力があること
といった事情があれば、一部分だけを分離して比較することはできない場合があります。
本件は、「焼鳥ざんまい」が品質表示などではなく一定の識別力を有すると評価された結果、「黒船」のみを要部として抽出することが否定された事例です。
商標の要部認定は機械的に行われるものではなく、商標全体の構成や識別力を踏まえて総合的に判断されることを示した、実務上参考になる審決といえるでしょう。
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