商標を使ってるつもりでも、登録商標の使用とは認められない?(「KIREI」事件)

商標を使ってるつもりでも、登録商標の使用とは認められない?(「KIREI」事件)

結論:登録商標の文字が商品パッケージに含まれていても、その文字が分離独立して自他商品識別標識として把握されなければ、不使用取消審判では「登録商標の使用」と認められないことがあります。

今回の「KIREI」事件では、登録商標「KIREI」に対して、不使用取消審判が請求されました。
商標権者は、商品パッケージ上の「舌キレイ」等の表示を根拠に、本件商標を使用していると主張しました。

しかし審決は、使用商標の要部は「舌キレイ」であり、「キレイ」だけが分離独立して自他商品識別標識として把握されるものではないと判断しました。
その結果、使用商標は登録商標「KIREI」と社会通念上同一とはいえず、本件商標の登録は取り消されています。

事案の概要

本件商標は「KIREI」(登録第5071734号)です。
不使用取消審判は、取消2021-300288です。

問題となった商品は、江崎グリコ株式会社が販売していた口中ケアタブレット「BREO EX」です。

商品パッケージには、白丸の中に、

  • なめて/味わう
  • した/舌
  • キレイ
  • さわやかな息

といった表示がありました。

商標権者の江崎グリコ株式会社は、この中の「キレイ」の表示をもって、登録商標「KIREI」の使用であると主張しました。

理由1 商品自体の販売は認められた

まず、審決は、使用商品が要証期間内に存在し、販売されていたこと自体は認めています。

チラシやパッケージ、納品受領書などから、使用商品「BREO EX」が要証期間内に販売されていたこと、また、その商品が請求に係る商品中の「糖類を主成分とするタブレット状の加工食品」の範ちゅうに属することは認定されました。

つまり、本件では、

商品が売られていなかったから取消しになった

という話ではありません。

問題は、商品に表示されていた標章が、登録商標「KIREI」の使用といえるかどうかでした。

理由2 使用商標の要部は「舌キレイ」と認定された

審決は、使用商標の構成を丁寧に見ています。

白丸の中には、「なめて/味わう」「した/舌」「キレイ」「さわやかな息」の文字がありました。
そのうち、「舌」と「キレイ」は他の文字よりも大きく表示されています。

一方、「なめて/味わう」や「さわやかな息」は小さく表示されており、商品の使用方法や効能を表す説明的な表示と見られました。

その結果、審決は、需要者に強く支配的な印象を与えるのは「キレイ」単独ではなく、「舌キレイ」の文字部分であると認定しました。

理由3 「キレイ」だけでは独立した商標とは見られなかった

商標権者は、「キレイ」の文字を大きく表示しており、購買者の目に付くような構成だから、「キレイ」は単独で商標として機能していると主張しました。

しかし、審決はこの主張を採用しませんでした。

理由は、「キレイ」の文字と「舌」の文字の大きさに大きな差があるわけではなく、チラシにも「舌キレイ・お口がうるおう」と記載されていたためです。

つまり、需要者は「キレイ」だけを見るのではなく、「舌キレイ」というまとまりで把握すると判断されたわけです。

そのため、「キレイ」の文字部分が、分離独立して自他商品識別標識として需要者に把握されるものとは認められませんでした。

理由4 「KIREI」と「舌キレイ」は社会通念上同一ではない

不使用取消審判では、登録商標そのものだけでなく、社会通念上同一と認められる商標の使用でも足ります。

しかし、本件では、登録商標「KIREI」と使用商標の要部「舌キレイ」は、社会通念上同一とは認められませんでした。

登録商標「KIREI」からは「キレイ」の称呼が生じます。
一方、使用商標の要部「舌キレイ」からは「シタキレイ」の称呼が生じ、「舌が清潔なさま」ほどの意味合いを生じるとされました。

そのため、両者は、

  • 外観が異なる
  • 称呼が異なる
  • 観念も異なる

として、社会通念上同一の商標とはいえないと判断されました。

条件1 登録商標の使用と認められにくい場合

この事件からすると、次のような場合には、登録商標の文字が表示中に含まれていても、不使用取消審判で使用と認められにくくなります。

登録商標部分が他の語と一体で把握される場合

本件では、「キレイ」だけでなく「舌キレイ」として把握されました。
このように、登録商標部分が他の語と結合し、全体で一つの意味を持つ場合には、登録商標単独の使用とは認められにくくなります。

登録商標部分だけが特に目立つとはいえない場合

「キレイ」だけが圧倒的に大きく、強く表示されていれば別の評価もあり得ます。
しかし、本件では「舌」と「キレイ」の大きさに大きな差がなく、「キレイ」だけが独立して目立つとはされませんでした。

使用態様から別の意味が生じる場合

「KIREI」は特定の観念を生じないとされましたが、「舌キレイ」になると「舌が清潔なさま」という意味合いが生じます。
このように、結合によって意味が変わる場合、社会通念上同一とは認められにくくなります。

パッケージ上で別の商標が強く表示されている場合

本件商品では、「BREO EX」が商品名として大きく表示されていました。
そのため、「キレイ」表示は、ブランド名というより、商品の特徴を示す表現として受け取られやすかったとも考えられます。

条件2 逆に使用と認められる可能性がある場合

一方で、次のような事情があれば、登録商標の使用と認められる余地があります。

登録商標部分が独立して目立つ場合

登録商標部分だけが大きく、明確に区切られ、他の説明文とは別に表示されている場合です。
需要者がその部分をブランド名として認識するなら、使用と認められやすくなります。

他の語が単なる説明にとどまる場合

登録商標に付随する語が、商品の説明やキャッチコピーにすぎず、登録商標部分が識別標識として中心的に機能している場合です。

登録商標と使用商標の称呼・観念が大きく変わらない場合

多少の字体変更や表記違いであっても、称呼や観念が同じであれば、社会通念上同一と認められる可能性があります。

継続的に同じ態様でブランドとして使われている場合

広告、ウェブサイト、商品パッケージ、取引書類などで、同じ表示がブランド名として一貫して使われていれば、使用の立証はしやすくなります。

この事件から分かること

この事件が示しているのは、商標登録を維持するためには、登録商標そのもの又は社会通念上同一の商標として認識される形で使う必要があるということです。

商品パッケージのどこかに登録商標と同じ文字が入っていれば足りるわけではありません。

重要なのは、需要者がその表示を、

商品の出所を示す商標として見るか

です。

本件では、「キレイ」という文字は表示中に含まれていました。
しかし、需要者はそれを単独の商標としてではなく、「舌キレイ」というまとまりで理解するとされました。

その結果、「KIREI」の使用とは認められなかったわけです。

次の判断に進むために見るべきポイント

登録商標を実際に使用しているか確認するときは、次の順番で見ると判断しやすくなります。

まず、登録商標と実際の表示が一致しているかを見る

文字種、語順、追加語の有無、表記の違いを確認します。

次に、登録商標部分が独立して見えるかを確認する

他の語と一体化していないか、意味が変わっていないか、需要者がその部分だけを商標として把握するかを見ます。

さらに、商品パッケージ全体の中での位置づけを見る

商品名、キャッチコピー、説明文、効能表示のどれとして使われているのかを確認します。

最後に、使用証拠を複数残す

パッケージ、チラシ、納品書、ウェブサイト、広告、販売実績などを組み合わせて、要証期間内の使用を立証できるようにしておく必要があります。

まとめ

登録商標と同じ文字が商品パッケージに含まれていても、その文字が分離独立して自他商品識別標識として把握されなければ、不使用取消審判では登録商標の使用とは認められません。

「KIREI」事件では、

  • 商品「BREO EX」の販売自体は認められた
  • パッケージ上に「キレイ」の文字は含まれていた
  • しかし需要者は「キレイ」単独ではなく「舌キレイ」と把握するとされた
  • 「舌キレイ」は登録商標「KIREI」と外観・称呼・観念が異なるとされた
  • そのため、社会通念上同一の商標の使用とは認められなかった

という理由から、登録商標「KIREI」は不使用により取り消されました。

この事例は、商標を登録した後も、実際の使用態様をきちんと管理する必要があることを示しています。
ブランド名として残したい商標は、商品パッケージや広告の中で、需要者に独立した商標として認識される形で使うことが大切です。

サムライツ知財事務所では、不使用取消審判への対応や、登録商標を維持するための使用態様・証拠管理についてもご相談いただけます。
問い合わせる前に現在の使用状況を確認したい、取消リスクを比較したうえで対応を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。