「THE NEST」は「NEST」と似ていない? 定冠詞「THE」があるだけでも非類似になった事例(「THE NEST」事件)

「THE NEST」は「NEST」と似ていない? 定冠詞「THE」があるだけでも非類似になった事例(「THE NEST」事件)

結論:定冠詞「THE」が付いただけでも、商標全体が一体不可分と認識されるなら、「NEST」と非類似と判断されることがあります。

今回の不服2025-7201では、本願商標「THE NEST」が、引用商標「NEST」とは類似しないと判断されました。
一見すると、「THE」が付いただけなので似ているようにも思えます。ですが、審決は「THE NEST」全体を一体不可分のものとして把握し、「NEST」部分だけを取り出して比較することはできないとしています。

この事例は、定冠詞「THE」が付いていても、常に無視されるわけではないことを示すものとして興味深いです。

事案の概要

本願商標は「THE NEST」(商願2024-23160号)です。
引用商標は「NEST」(登録第5875998号)他10件で、不服2025-7201において類否が争われました。

審決では、本願商標について、

  • 「THE」と「NEST」の間にスペースはある
  • しかし、同じ文字種、同じ書体、同じ大きさで
  • 外観上まとまりよく一体に表されている

と認定されています。

さらに、称呼についても、「ザネスト」はよどみなく一連に称呼できるとされました。

そのうえで、たとえ「THE」が英語の定冠詞であったとしても、取引者・需要者はあえて「THE」を捨象して「NEST」部分だけに着目するのではなく、「THE NEST」全体を一体不可分のものとして認識し、把握するのが相当と判断されています。

なぜ「NEST」だけを取り出せないとされたのか

この審決のポイントは、要部認定をしなかったことです。

つまり、審決は「THE NEST」のうち「NEST」だけを分離抽出して引用商標「NEST」と比較する、という考え方を採りませんでした。

その理由として重視されたのは、主に次の2点です。

1. 外観上、全体がまとまりよく表されている

「THE」と「NEST」はスペースで区切られているものの、文字種、書体、大きさが共通しており、全体として自然にまとまって見えるとされました。

つまり、単に「定冠詞+語」という構成だからといって、当然に前半が弱く見えるわけではなく、表示態様として全体が一つのまとまりとして見えるかが重視されています。

2. 「ザネスト」と一連に無理なく読める

称呼も、「ザ・ネスト」と不自然に切れるのではなく、「ザネスト」とよどみなく一連に称呼できるとされました。

この点も、商標全体が一体のものとして把握される方向に働いています。
見た目だけでなく、読み方の面でも、全体を一つの商標として受け止めやすいと評価されたわけです。

この審決は少し珍しいのか

この事例が興味深いのは、「THE」の有無に関する商標の類否判断は、実はかなり割れるからです。

一般に、「THE」は英語の定冠詞であり、それ自体は強い識別力を持たないと見られやすい語です。
実際、審決の中には、「THE」や「ザ」は特段の意味内容を持たず、自他商品・役務識別機能を有しないとして、後ろの語を中心に類否判断を行うものもあります。

たとえば、「ザドロップ/THEDROP」(商願2019-8145号)と「DROP」(登録第4435455号他1件)の比較が問題となった不服2021-7638では、

「THE」及び「ザ」の文字は、特段の意味内容をもたない定冠詞及びその読みであって自他商品の識別機能を有するものではなく、強いて訳さない場合も多い

と認定されています。

この考え方に立てば、「THE NEST」でも「THE」は比較的弱く、「NEST」が要部として見られても不思議ではありません。

だからこそ、今回の審決は、「THE」が付いている商標でも、表示態様や称呼の一体性次第では、全体を不可分とみることがあるという意味で、実務上かなり示唆的です。

少し気になるのは、外観・観念の比較が丁寧には書かれていないこと

もっとも、この審決には少し気になる点もあります。

それは、外観・称呼・観念を個別に比較する形では論じていないことです。

もちろん、審決としては、そもそも本願商標を「THE NEST」全体として一体不可分と把握する以上、「NEST」との分離比較を前提にした類否判断には進まない、というロジックなのでしょう。
その意味では筋は通っています。

ただ、実際には「THE」の有無に関する判断が分かれている以上、

  • 外観上、「THE」の有無がどこまで印象差になるのか
  • 観念上、「THE NEST」全体としてどう把握されるのか
  • 「NEST」との比較で、どの程度混同のおそれがあるのか

といった点も、もう少し丁寧に示されていてもよかったように思えます。

特に、今回のような事例では、「THE」が識別上どの程度軽いのかという点こそ、実務上の関心が高いからです。

この事例から分かること

この事例から実務的に言えるのは、「THE」が付いているから弱い、あるいは「THE」はどうせ無視される、と決めつけるのは危ないということです。

商標の類否判断では、単に語の意味だけでなく、

  • 表示態様がまとまっているか
  • 一連に称呼できるか
  • 需要者が全体を一つの商標として把握するか

といった事情がかなり効いてきます。

逆に言えば、「THE」が付いていても後半語だけが要部とされるケースもあれば、今回のように全体が一体不可分とされるケースもある。
このあたりは、かなり個別具体的です。

どんな場合に結論が変わりそうか

今回の審決を踏まえると、少なくとも次のような事情があると、結論は変わり得ます。

「THE」部分が弱く、後半語が強く印象に残る場合

たとえば、「THE」が極めて小さく表示されていたり、後半語だけが強調されていたりすると、後半語部分が要部として把握されやすくなります。

後半語が独立した既成語として強く認識される場合

後半語が需要者に強く記憶されやすい語である場合には、「THE」を捨象してその語を中心に比較される可能性があります。

称呼上も「THE」が軽く流されやすい場合

実際の取引で「THE」部分があまり意識されず、後半語のみで呼ばれやすいような事情があると、類似方向に傾くことがあります。

つまり、今回の結論はそのまま一般化できるものではなく、「THE+語」の商標が常に非類似になるわけではありません。

実務上どう考えるべきか

この種の商標を出願・検討するときは、単に「定冠詞が付いているから違う」と考えるのではなく、まず次の点を確認したほうがよいと思います。

  • 後半語だけで強い識別力を持つか
  • 表示上、全体が一体に見えるか
  • 実際の取引でどう呼ばれそうか
  • 先行商標と比較したとき、後半語が共通することの影響が大きいか

特に、保護の観点では、ロゴや結合形でしか通らない場合と、標準文字でも押さえるべき場合は分けて考える必要があります。

まとめ

「THE NEST」事件では、審決は本願商標「THE NEST」を、外観上まとまりよく一体に表され、称呼も「ザネスト」と一連に生じるものとして、一体不可分の商標と認定しました。
その結果、「NEST」部分だけを分離抽出して引用商標「NEST」と比較することはできず、非類似と判断されています。

この事例は、「THE」を含む商標について、常に定冠詞部分が捨象されるわけではないことを示しています。
一方で、「THE」を含む商標の類否判断はなお揺れがあり、別の事例では逆の評価も十分あり得ます。

だからこそ、「THE+語」のネーミングを考えるときは、語の意味だけでなく、表示態様、称呼の一体性、後半語の印象の強さまで含めて、慎重に見ていく必要があります。

サムライツ知財事務所では、こうした結合商標の類否判断や、定冠詞・修飾語を含むネーミングの出願可能性についてもご相談いただけます。
先行商標との距離感が気になる場合は、出願前に検討しておくと安心です。