商標が説明的かどうかを判断する場面では、「実際にどれだけ使われているか」が重視されることがあります。
そのため、使用例が少なければ、まだ一般的な表示とはいえず、登録できそうだと考えたくなることもあります。
しかし、今回の「ヘルスジム」事件は、必ずしもそう単純ではないことを示しています。
たとえ使用例が多いとはいえなくても、需要者がその商標からサービス内容を容易に想起できるのであれば、商標法3条1項3号に該当し、登録が認められないことがあるという事例です。
事案の概要
本件商標は、「ヘルスジム」(商願2023-096494号)です。
拒絶査定不服審判は不服2024-008713号、審決取消訴訟は令和7年(行ケ)10085号です。
本件は、商標登録拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟で、争点は、
- 商標法3条1項3号該当性
- 商標法4条1項16号該当性
の2点でした。
審決では、本件商標は商標法3条1項3号および4条1項16号に該当すると判断されていました。
裁判所が重視したポイント
裁判所はまず、「ヘルス」と「ジム」という各語の意味に着目しました。
「ヘルス」は健康を意味し、「ジム」は室内トレーニング施設を意味する平易な外来語です。
その上で、本願商標の指定役務の取引者・需要者である一般消費者は、「ヘルスジム」という文字から、「健康のための屋内トレーニング施設」あるいは「健康のためのジム」といった意味合いを容易に想起すると判断しました。
つまり、裁判所は、「ヘルスジム」を一種の造語として強く把握するというよりも、構成語の意味から自然に役務内容が伝わる表示として理解したわけです。
使用例が少ないという反論はどう見られたか
原告側は、審決が根拠にした「ヘルスジム」の使用例は40年ほどの間に19件程度しかなく、その中には既に存在しない施設や個人発信のものも含まれているので、一般的・恒常的な取引の実情を示すには不十分だと主張しました。
たしかに、この反論には一理あります。
一般的な表示だという以上、相当程度広く使われていることが必要ではないか、という感覚は自然です。
しかし裁判所は、使用例の多寡だけで結論を決めませんでした。
本願商標の構成自体が平易で意味を理解しやすく、指定役務との関係でも「健康のための屋内トレーニング施設」という内容を一般消費者が容易に想起できること、そしてそのことが取引の実情からも裏付けられることを重視しました。
つまり、この事件では、「実際にどれだけ多数使われているか」よりも、「その語から需要者が何を自然に読み取るか」が前面に出ています。
なぜ3条1項3号に当たるとされたのか
商標法3条1項3号は、商品や役務の品質、内容、用途などを普通に用いられる方法で表示するにすぎない商標については、登録を認めないというルールです。
裁判所は、「ヘルスジム」が指定役務との関係で、「健康のための屋内トレーニング施設」といった役務内容を容易に想起させる以上、需要者はこれを自他役務識別標識としてではなく、単に役務の質や内容を表すものとして理解するとみました。
そのため、本件商標は商標法3条1項3号に該当すると判断されています。
4条1項16号については判断されなかった
本件では、4条1項16号、つまり役務の質の誤認を生じるおそれの有無も争点になっていました。
ただし、裁判所は、3条1項3号該当性を認めた時点で、本願商標は登録できないと判断できるため、4条1項16号については判断するまでもないとして、請求を棄却しました。
実務上も、まず3条1項3号で落ちると、その先の論点まで深く踏み込まれないことは珍しくありません。
この事例から分かること
この事件から分かるのは、説明的商標かどうかの判断では、単に使用例の数だけが決め手になるわけではないということです。
もちろん、取引の実情は重要です。
ただ、それ以上に、
- 構成語が平易か
- 需要者が意味を自然に理解できるか
- 指定役務との関係で内容を直接想起させるか
といった点が重視されることがあります。
特に、「ヘルス」「ジム」のように、それぞれの意味が広く浸透している語を組み合わせた場合、辞書的な意味の足し算でサービス内容がかなり素直に伝わってしまうと、使用例がそこまで多くなくても説明的と判断されやすいことが分かります。
実務的な示唆
ネーミングを考えるとき、「まだ世の中であまり使われていないから大丈夫だろう」と考えたくなることがあります。
しかし、この事件を見る限り、それだけでは安心できません。
たとえ流通上の実例が少なくても、その言葉の組み合わせから、需要者がサービス内容を容易に理解できるのであれば、識別力が弱い、あるいは説明的だとして登録が難しくなる可能性があります。
つまり、出願前には「どれだけ使われているか」だけでなく、「見た人がその言葉から何をすぐ連想するか」という視点でも検討しておく必要があります。
まとめ
「ヘルスジム」事件では、原告が使用例の少なさを強く主張したものの、裁判所は、一般消費者が「ヘルスジム」から「健康のための屋内トレーニング施設」という意味合いを容易に想起するとして、商標法3条1項3号該当性を認めました。
この事例は、説明的商標の判断において、実際の使用例の数だけでなく、商標の構成自体から役務内容が自然に伝わるかどうかが大きくものをいうことを示しています。
ネーミングの段階では、まだ珍しい言葉かどうかだけでなく、「その名前がサービス内容をそのまま説明していないか」という視点を持つことが、やはり大切だと思います。
サムライツ知財事務所では、こうした説明的商標の登録可能性や、サービス名・ブランド名の事前チェックについてもご相談いただけます。
出願してから拒絶理由に直面する前に、気になる名称があれば早めに相談しておくと安心です。
