ODMによる「企画ブランド」と商標管理

ODMによる「企画ブランド」と商標管理

2017年9月6日

「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

商標を登録した後、3年以上、指定商品・指定役務について使用していないと、
第三者からの請求により、登録が取り消されてしまう可能性があります。

「ある商標を使いたい、でも他者の商標登録が存在している。
でも待てよ?この登録商標は指定商品・役務のこの部分について使用していないじゃないか」

こんな調子で、「不使用取消審判」を請求して、登録を取消しできれば、
取り消した範囲については誰の権利でもないので、
自社も他社も使用できる、あるいは商標出願・登録できることになります。

ただ、「指定商品(役務)について登録商標を使用しているかどうか」は、
権利者側が主張・立証しなければならず、
しかもなかなか判断が難しい場合があります。

繊維事業を中心に、”素材メーカー”として著名な東レ株式会社。
特に炭素繊維の分野では世界トップシェアを誇る大企業ですね。

そんな東レが登録している商標
「グラム」「グラム/GRAM」をめぐって、
前述の「不使用取消審判」が請求されました。

登録第646237号
登録第4799883号

 

 

 

 

 

両商標とも、第25類の「被服」を指定して登録を受けており、
提出された証拠には、被服の下げ札に「Gram」という商標が示されている。
これだけ聞くと、商標は指定商品について使用されているように思います。

しかし、この商品は、「マックハウス」という衣類販売会社の「navy natural」というブランドの商品だったのです。
商品の流れは以下の通り。
[東レ] ⇒[東麗商事(東レの100%子会社の中国メーカーで、商標の使用権利者)]⇒[サンメンズウエア(国内商社)]⇒[マックハウス(最終製品の販売者)]

つまり、「被服」のブランドを示すのはあくまでも「navy natural」の方で、
下げ札にある「Gram」の商標は、東レが提供する「繊維素材」のブランドを示すものではないか?
「被服」について使用するものではないのではないか?
という疑問が出てくるのですね。

現に、「Gram」が示された下げ札には、
●非常に軽い特殊な素材が新たな快適性と機能性を提供します。
●東レの特殊軽量素材を使用して、軽量感を実現。
●やわらかでソフトな風合いです。
●快適性に優れています。
●Extra Light Weight/Gram®
●この商品は東レのせんいを使用しています。
との記載がなされています。

知財高裁まで争いましたが、
結論としては、東レの「Gram」は「被服」についての使用と認められました。

本件の商品は、子会社の東麗商事により「ODM型生産」されたもので、
東レの素材を使用した「Gram」ブランドの「衣類」であると認定したのです。

「ODM」は「Original Design Manufacturing」の略で、委託者のブランドで製品を設計・生産することをいいます。
「OEM」とは、受託者側が商品の企画・提案をした点で異なります。

この「受託者側(ここでは、東レ)が商品の企画・提案をした」というのがミソです。

東レが最終消費者のニーズをとらえて、被服の商品コンセプトを提案したものだから、
「Gram」は、「被服」の出所や品質等を示すものとして用いられているとも理解できますよ、
だから「被服」について使用しているものと認めます=権利は取り消されない、
ということになったのです。

「素材ブランド」とは異なる意味を込めて、
東レ側はこれを「企画ブランド」と呼んでいます。

専門家の間では賛否両論のある判決ですが、
今後の商標の出願の仕方、商標の管理の仕方にもかかわってくる重要な判断がなされたと、評価されています。

商標を出願する時、商標を使用する時、
これは何のブランドを表す商標なのか?
を対内的にも、対外的にも、意識を共有することが大切です。
そして、権利が適切に保持されているか、チェックし続けることが必要ですね。

参考:
平成25年(行ケ)第10031号事件
平成25年(行ケ)第10032号事件