大勝軒創業者の名前は、なぜ商標登録できないのか?

大勝軒創業者の名前は、なぜ商標登録できないのか?

2017年9月5日

「サムライツ™」の弁理士、保屋野です。

つけ麺を考案した「東池袋大勝軒」の創業者といえば?

故・山岸一雄氏であることは有名ですよね。

「丸長グループに在職していた山岸氏が、茹でて余った麺を丼に入れておき、後で湯のみにスープと醤油を入れて浸して食べるという賄いのようなものをお客さんの希望で出した」のが、つけ麺のはじまりだそうです。(「日本ラーメン秘史」より)

「大勝軒」の商標については、
平成7年(1995年)12月26日に商標登録されています(登録第3105120号)が、
この権利者の「株式会社大勝軒」は日本橋にある会社で、
「東池袋大勝軒」の「株式会社大勝軒」とは別の会社です。

さらに、永福町にも違う「大勝軒」があり、
「大勝軒」の店名は、日本全国、さまざまなラーメン店で使用されるに至っているのですね。
この状態になってしまうと、せっかく「大勝軒」の商標登録を持っていても、

権利を行使して他のラーメン店に店名の使用をやめさせることはできません

「東池袋大勝軒」は、この状況をなんとかして、
創業者山岸氏のブランドを守りたいと思ったのでしょう。
山岸一雄」という商標と、「山岸一雄大勝軒」という商標について、
「東池袋大勝軒」を運営する株式会社大勝軒により、
平成25年(2013年)11月19日に商標出願されました。
まだ山岸氏の生前ですね。

しかしこの出願は、審査でも、その後不服を申し立てた審判でも拒絶されてしまいました
理由は、他にも「山岸一雄」さんという実名の人がいるから。
特許庁の審判官によれば、日本全国に少なくとも20名存在するそうです。

そのすべての「山岸一雄」さんから承諾を得られないと、登録を受けられないのです(商標法第4条1項8号)。

大勝軒側は、ラーメン・つけ麺店に「山岸一雄」といえば、
ラーメン会のカリスマとして、日本全国でよく知られている「山岸一雄」氏を思い浮かべるし、承諾がなくても、他の「山岸一雄」さんの人格権を毀損するものではない、容易に判別できるという主張をしました。

しかしこの規定は、20名ほど存在する「山岸一雄」さんの「人格的な利益」を保護するものであるから、東池袋大勝軒の「山岸一雄」氏が有名であるとか、事業が競合するとかは関係ない、として、
特許庁の審判側は大勝軒側の主張を受け入れませんでした。

この判断を取り消そうと訴えた知財高裁でも、大勝軒側の主張が通ることはありませんでした。

参考:
平成28年(行ケ)10065号
平成28年(行ケ)10066号

このように、人名を登録したいというときは、
その人名が著名であるかどうかを問わず、
実在する他の人物の承諾を得なければならないという点で、ハードルが高いのです。
芸名を登録したい、というご相談もいただきますが、

こういったリスクもご検討いただければと思います。

ちなみに、毎年秋の恒例行事!?
「東京ラーメンショー」が、今年も開催されるもようですので、
ラーメン好きのみなさん、ぜひ駒沢公園へ足を運ばれてみてください!
このイベントでしか食べられない、スペシャルコラボラーメンが目白押しです。

 

(写真は、一昨年(2015年)の「東京ラーメンショー」にて。

「大勝軒」と「支那そばや」のコラボということで、ラーメン会の2大カリスマであった、「大勝軒」創業者の故・山岸一雄氏と、「支那そばや」創業者の故・佐野実氏の写真が並んでいます。)