屋号をつけるときに気をつけること

屋号をつけるときに気をつけること

2021年8月23日

こちらのブログ内容は、音声で聞くこともできます。
https://stand.fm/episodes/608d1136abb2ac30befb27f7

ここ数年は、本業・副業問わず
SNSなどを有効に使って、
情報発信をするケースがとても増えてきましたよね。

そして、他の人や同業者との違いを出してブランディングするために、
自分のビジネスネームやお店の名前、事務所名などについて、
「屋号」をつけるケースも多く見受けられます。

ただ、その「屋号」について、
名前をつける際に気をつけないといけない点があることは、
ご理解されているでしょうか?

★屋号をつけるときに気をつけること

結論から言いますと、
自分の屋号が、他人によって商標登録されてないか
という点にお気をつけください。

これ、結構何も気にせずに自分の屋号を決めている人がいるので、
いつも「危なっかしいなぁ」と思って見ています。

ある程度規模の大きい会社であれば、
商標のリスクを考えることは当たり前なのですが、
規模の小さい会社や、個人事業主の方、副業でビジネスされてる方を見ると、
ほとんどの人が、自分の屋号について、商標登録の存在を気にしている様子がないんですよね。

だけど、自分のビジネスの分野で、
自分の屋号と同じか類似の商標について、
すでに他人が商標権を持っていたとしたら、
自分のやっている活動が商標権侵害になってしまう可能性もあります。

★実際の事件

実際にあった事件で、我々弁理士と同じ士業である、
司法書士事務所の屋号が、
商標権侵害だと認定されたことがありました。

京都にある「ひかり司法書士法人」という司法書士事務所が、
ひらがなの「ひかり」という商標権を持っていて、
東京の「司法書士法人ひかり法務事務所」を訴えたんですね。
どちらの事務所もひらがなの「ひかり」です。
(東京地裁平成23年10月28日判決 平成22年(ワ)1232号商標権侵害差止等請求事件)

クリックして081741_hanrei.pdfにアクセス

当時、被告の司法書士事務所は、
過払い金返還請求で、かなり大々的に宣伝広告を打っていました。
そうすると、やはり「ひかり」という屋号が知られてくるので、
お客さんはひらがなの「ひかり」でネット検索をします。

それでヒットした事務所に、
依頼や相談が来ると考えると、
「ひかり」という商標がいかに重要な役割を果たしているか、
わかるのではないかと思います。

商標権の効力は日本全国に及ぶため、
こちらの件のように、
東京の事務所と京都の事務所で
商圏が異なっていても、
お構いなしなんですね。

結局、「ひかり」の商標権侵害が認定され、
被告の事務所は屋号を変更することになりました。

このように、法律を扱っている事務所ですらも、
なかなかこの辺りの意識は薄かったりするものです。

★屋号の使用が他人の商標権侵害だとどうなる?

では、屋号の使用が他人の商標権侵害だとして、
訴えられたとしたら、いったいどうなるのでしょうか?

まずは、屋号の使用をストップさせられることが考えられます。
当然、新しい屋号に変えなければいけませんので、
自分の使っているアカウントや、HPの記載
書類や名刺や看板なども、全部変更する必要が出てきます。
これだけで、かなりの手間とコストがかかりますね。

それ以外に、損害賠償を支払ったり、
謝罪広告を求められたりする場合もあります。
ここではさらに大きなコストが発生し、
場合によっては経営を続けられなくなるかもしれません。

知らなかったとか、権利侵害するつもりはなかった、
といった言い訳が通用しない点が怖いところです。

また、登録商標の存在を知っていて、
それでも侵害行為をするなど、
より悪質な場合は、
刑事罰の対象にもなり得ます。

特に商標権侵害は、
特許権や意匠権に比べて、
刑事事件として立件されるケースが多いので、
注意が必要です。

商標権の侵害罪が成立した場合は、
10年以下の懲役、又は1,000万円以下の罰金に処される可能性があります。
そして、懲役と罰金の両方が科されることもあります。

また、法人の場合はさらに罪が重く
実行犯への懲役又は罰金に合わせて、
法人への3億円以下の罰金が科されます。

かなり厳しいですよね。

★まとめ

最後にまとめますと、
他人が商標登録している屋号と
同じものや類似のものを使ってしまうと、
思わぬ痛い目に遭ってしまう可能性があるので、
気をつけましょう、というお話でした。

つまり、屋号をつける時は、
せめて事前にGoogleなどで検索するか、
できれば特許庁のデータベースで検索されることをおすすめいたします。

また、特許庁のデータベースでの検索の仕方や、
類似かどうかの判断は、難しいケースもあるので、
できれば、有料にはなってしまいますが、
我々弁理士にご相談いただくのがいいのかなと思います。

以上、ご参考ください。

※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。