「サムライツ®」代表の保屋野です。
順を追って、ざっくりではありますが、事件の解説をいたします。
事件番号は「異議2017-900271」ですので、詳細はこちらをご確認ください。
①まず、とあるJASDAQ上場会社が、
「会社分割により持株会社体制へ移行」し、
「商号(会社名)を変更」するとともに、
「事業目的を変更する」旨
の通知を、
すべての株主に通知しました。
②そして株主の中の一人が、
会社に対し、商標登録を促す旨の手紙を送ったのです。
「社名は商標登録がお済みですか?」
「何はともあれ、まずは出願しましょう」
といった内容で、催促を行いました。
③しかし、会社の担当者がなかなか対応しないということで、
その株主が社名の商標出願を無断で行っていたのです。
④そして、審査を経て無事に登録査定の判断が出た頃に、
その株主が会社宛てに
「なかなか出願対応をしてくれないので、実は自分で出願してしまいました」
「商標権を買い取りませんか?」と、
譲渡の条件を示しながら、商標の購入を催促しました。
⑤これに対して会社側は、商標登録はおかしいじゃないかということで、
登録の異議申し立てを行った、というわけです。
審査が無事に通った後でも、不当な登録に対しては、
取り消しや無効を請求できるのですね。
⑥結局、どのように判断されたかというと、
その株主には、商標を使用する意思がまったくないにもかかわらず、
会社側に買い取らせる目的で無断で出願したのが明らかだから、
商標法違反であるとして、登録は取り消されることになりました。
ちなみに、その株主は、
「会社側に出願の気配が見られないから危機感を感じた」
「会社の利益を守ろうとしたにすぎない」
「商標権が会社側に帰属することに異存はない」
という弁明を述べています。
私が思うに、商標の重要性をいち早く認識して、会社に提言する姿勢は、
とても立派だと思うんです。
しかし、やはり無断で出願して買い取らせようとする、というのは、
やり方としては正しくないですね。
この事例から学べることは、
もし他社に無断で先に出願されて、買い取りの要請があった場合には、
相手が既に使用しているような場合は除いて、
相手の権利を取り消したり、無効にしたりできる可能性があるということです。
なので、いち早く出願することが大前提ですが、
仮に無断で出願され、買い取りを求められても、
すぐには諦めないでください。