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はじめに:種苗法改正が中小企業に与える影響とは
2026年7月17日、参院本会議において種苗法改正案が可決、成立されました。この法改正は、農業や食品関連産業に携わる中小企業にとって、ビジネス戦略の見直しを迫る重要な転換点となります。
種苗法は、植物の新品種を開発した育成者の権利を保護する法律です。今回の改正では、育成者権の保護がこれまで以上に強化され、国内で開発された優良品種の海外流出を防ぐための仕組みが大幅に拡充されました。
一方で、この改正により「従来は問題なかった行為が違法となるリスク」が生じています。中小企業経営者の皆さまには、法改正の内容をしっかり理解し、自社のビジネスへの影響を確認していただくことが不可欠です。
本記事では、弁理士の視点から種苗法改正の重要ポイントを分かりやすく解説し、中小企業が今すぐ取るべき対応策をお伝えします。
1. 育成者権の存続期間が10年延長|保護期間の拡大で何が変わる?
改正内容:25年から35年へ
今回の改正で、育成者権の存続期間が従来の25年(永年性植物は30年)から、35年(永年性植物は40年) に延長されました。
これにより、品種開発者はより長期間にわたって独占的に品種を利用する権利を保持できるようになります。
中小企業への影響
育成者側の企業にとっては、開発投資の回収期間が延び、ブランド価値を長期的に守れるメリットがあります。
一方、種苗を仕入れて事業を行う企業は、ライセンス契約の期間や条件を見直す必要が生じます。特に、長期契約を結んでいる場合、権利期間の延長がロイヤリティの支払期間にも影響する可能性があります。
実務上の対応ポイント
- 既存のライセンス契約書を確認し、存続期間延長の影響を精査する
- 新規契約では、35年または40年の権利期間を前提とした条件交渉を行う
- 育成者側は、長期的なブランド戦略を再構築する機会と捉える
2. 出願中の品種も輸出差止が可能に|早期保護の実現
改正内容:出願段階から権利行使が可能
従来、育成者権は品種登録が完了して初めて権利行使が可能でした。しかし今回の改正により、出願中の段階でも輸出に対する差止請求ができるようになりました。
中小企業への影響
この改正は、特に品種開発を行う中小企業にとって大きなメリットです。出願から登録までには通常数年かかりますが、その間に海外へ無断で持ち出される事例が後を絶ちませんでした。
出願段階から差止請求が可能になったことで、早期に権利侵害に対処できる体制が整いました。
一方、種苗を扱う流通業者や輸出業者は、取引先から仕入れた品種が「出願中」であるかどうかも確認する必要が生じます。
実務上の対応ポイント
- 育成者側は、出願後すぐに権利行使の準備を整える
- 輸出業者は、仕入先に対して品種の権利状況(出願中か否か)を確認する
- 農林水産省の品種登録データベースを活用し、出願情報をチェックする習慣をつける
3. 輸出目的での保管も育成者権侵害に|知らなかったでは済まされない
改正内容:保管行為も侵害対象
今回の改正では、輸出目的で種苗を保管する行為も育成者権侵害の対象となることが明確化されました。
これまでは、実際に輸出した段階で初めて侵害とみなされていましたが、改正後は「輸出しようと保管しているだけ」でも違法となります。
中小企業への影響
この改正は、種苗を扱う物流業者や倉庫業者、輸出代行業者にとって重大なリスクとなります。
取引先から預かった種苗が登録品種であり、かつ輸出目的であった場合、保管している事業者自身が育成者権侵害の責任を問われる可能性があるのです。
実務上の対応ポイント
- 倉庫業者や物流業者は、種苗を預かる際に「登録品種かどうか」「輸出目的かどうか」を確認する
- 契約書に、種苗の権利状況についての表明保証条項を盛り込む
- 社内で種苗法に関する研修を実施し、従業員の意識を高める
4. 損害賠償額の算定特例|侵害時の賠償額が高額化
改正内容:通常許諾料を超える賠償請求が可能
育成者権侵害があった場合、これまでは「通常の許諾料相当額」を基準に損害賠償額が算定されていました。
しかし今回の改正により、侵害があったことを前提として、通常の許諾料よりも高い額を請求できる特例が設けられました。
中小企業への影響
育成者側の企業にとっては、権利侵害に対する抑止力が高まり、不正利用への対応がしやすくなります。
一方、種苗を扱う中小企業が誤って登録品種を無断利用してしまった場合、従来よりも高額な賠償責任を負うリスクが生じます。
実務上の対応ポイント
- 育成者側は、侵害発見時に速やかに証拠を確保し、弁理士や弁護士に相談する
- 種苗利用者は、取引前に必ず権利関係を確認し、ライセンス契約を締結する
- 万が一侵害の指摘を受けた場合は、早期に専門家へ相談し、和解交渉を検討する
5. 海外からの逆輸入規制の明確化|グローバル展開における注意点
改正内容:逆輸入にも育成者権の効力が及ぶ
従来から、海外で無断増殖された種苗を日本国内に持ち込む「逆輸入」は問題視されていましたが、今回の改正で育成者権の効力が逆輸入にも及ぶことが明確化されました。
中小企業への影響
海外で生産拠点を持つ中小企業や、海外から種苗を輸入して国内販売する事業者は、仕入先が正当なライセンスを保有しているかを厳格に確認する必要があります。
特に、アジア圏での無断増殖事例が多発しているため、取引先の信頼性確認が不可欠です。
実務上の対応ポイント
- 海外取引先との契約書に、育成者権の遵守に関する条項を明記する
- 輸入前に、農林水産省の品種登録データベースで権利状況を確認する
- 問題が発生した場合に備え、取引記録を適切に保管する
中小企業が今すぐ取るべき5つの対応策
種苗法改正を受けて、中小企業が実務上取るべき具体的な対応策をまとめます。
① 取り扱い種苗の権利状況を確認する
まずは、自社が扱っている種苗が登録品種かどうかを確認しましょう。農林水産省の「品種登録データベース」で検索が可能です。
② 契約書の見直しを行う
仕入先やライセンサーとの契約書を見直し、種苗法改正に対応した条項が盛り込まれているか確認しましょう。特に、表明保証条項や損害賠償条項の追加が重要です。
③ 社内教育を実施する
従業員が種苗法の改正内容を理解していなければ、意図せず違法行為を行ってしまうリスクがあります。社内研修を実施し、法令遵守の意識を高めましょう。
④ 弁理士・弁護士への相談体制を整える
種苗法に関する専門知識を持つ弁理士や弁護士と顧問契約を結び、いつでも相談できる体制を整えておくことが重要です。
⑤ 育成者権を持つ企業は積極的に権利行使を検討する
自社で品種開発を行っている場合、改正により権利行使の選択肢が増えました。海外流出や模倣品に対し、積極的に権利を主張しましょう。
まとめ:種苗法改正は中小企業にとってリスクとチャンスの両面
今回の種苗法改正は、育成者権の保護を大幅に強化するものです。中小企業にとっては、「知らなかった」では済まされないリスクが増える一方で、自社の知的財産を守る手段も充実しました。
特に農業、食品加工、流通、輸出入に関わる事業者の皆さまは、今回の改正内容をしっかり理解し、自社のビジネスモデルに影響がないか早急に確認することをお勧めします。
法改正への対応に不安がある場合は、弁理士などの専門家に相談し、適切なリスクマネジメントを行いましょう。
