【ご質問】既存で販売されている物を、加工して販売してもいい?

【ご質問】既存で販売されている物を、加工して販売してもいい?

2021年7月20日

こちらのブログ内容は、音声で聞くこともできます。
https://stand.fm/episodes/606bff9e2769546ed7a955cd

★ご質問

・ことはさん

質問です 既存で販売されている物 たとえばピンセットを加工して 販売して大丈夫ですか? 加工しても自分の名前をつけて販売すると何かの違反とかなりますか? なにか違法になる事 気をつける事があれば 教えていただければと思いレターしました✨ よろしくお願い致します🙇‍♀️

ご質問ありがとうございます。
最近は、いろんなプラットフォームが登場したおかげで、
個人がハンドメイドで物を作って販売する機会も増えてきましたよね。
なので、こういう疑問って、多いのではないかなと思います。

★結論

そのピンセットに、特許権や実用新案権、意匠権、商標権がある場合は、
加工して販売する行為が、
権利侵害になる可能性があります。

これは法律上に明確に規定されているわけではないのですが、
過去の判例を見てみると、
侵害が認定されていることがあるので、
ご注意いただきたいところです。

以下に、詳しく説明していきます。

★商標権の侵害

まず、そのピンセットにブランド名やロゴなどがついていて、
商標登録されている場合に、
の商標を勝手に消した自分の商標をつけたりして販売する行為は、
商標権侵害になる可能性があります。

色々学説が分かれているので、絶対侵害になるとは言えません。
ただ、商標権者が登録商標をつけて適法に販売した商品から、
その流通の途中で、何の許諾もなく商標を抹消すると、
「商品の出所を示し、品質を保証する」という「商標の機能」
を侵害してしまうと考える説があるんですね。

つまり、商標権者としては、
商品の品質の維持と向上に努めて、
その信用が蓄積した結果として商標をつけて販売しているのに、
それを削除したり、自分の商標をつけたりしたら、
たまったものじゃない、といった感じですね。

なので、この場合は許諾をもらわずに加工販売するのは、
控えた方がいいでしょう。

★登録商標をつけたままでもダメ

ちなみに、ピンセットの商標が登録されていて、
その登録商標をつけたままの場合もNGと考えられます。

なぜかというと、商標は「商品の出所を示し、品質を保証する」ものなのに、
途中で何の許諾もなしに加工されたものに、
同じ商標がついていたとしても、
「商品の出所を示」すことができないし、
「品質を保証する」ことができないからです。

実際の事件で、
登録商標のついたゴルフクラブのシャフトを、
スチールからグラファイトに変更したり、
ヘッドとシャフトの結合部分にネックセルと呼ばれる部品を装着したりして、
商標をつけたままで販売したところ、
商標権侵害が認められたことがありました。
http://www.translan.com/jucc/precedent-1998-12-25.html
(東京地裁平成10年12月25日判決 平成6(ワ)5563号事件)

★特許権・実用新案権・意匠権の侵害

次に、そのピンセットの技術やデザインに
特許権や実用新案権、意匠権がある場合、
加工して販売する行為がNGになる可能性があります。

どういうケースかと言うと、
実質的には製品の再生産と変わらない場合です。
これ、元々は特許製品のインクカートリッジに、インクを充填して販売する行為が侵害になったケースなので、
ピンセットの場合がどうなるかは、ちょっと想像しづらいですが、
一応、覚えておいてください。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=35371
(最高裁平成19年11月8日判決 平成18(受)826号事件)

★権利侵害にならないと思われるケース3つ

最後に、権利侵害にならないと思うケースについてもお話いたします。

①知的財産権のない製品を加工する場合

まず、そのピンセットがいわゆるノーブランド品で、
他にも知的財産権が存在しない場合です。
ハンドメイド用の部品とか、ほとんど特徴のないものは、
おそらく知的財産権も存在しないと思います。
この場合でも、不正競争防止法などの法律が関わってくる場合があるかもしれませんが、
基本的には権利侵害にならないので、
問題になることは少ないと考えています。

ただ、本当に特許や商標などの知的財産権が存在しないかは、
きちんと確認する必要がありますね。
それから、そのピンセットの加工販売の行為により、
メーカーが販売する機会を失って、
損害を受けたような場合は、
民法上の不法行為が成立して、
損害賠償請求される可能性もあります。

②顧客から持ち込まれた製品の加工サービスを行う場合

次に、顧客からピンセットの製品を持ち込んでもらって、
依頼により加工する場合です。
これは、加工サービスをしているだけで、
加工した商品を販売するわけではないので、
知的財産権の問題にはならないと考えられます。

ただし、製造物責任法(PL法)など、
他の法律に引っかからないように気をつけてください。

③単なる転売に当たる場合

最後に、ただ単に転売する場合です。

これはもはや加工ではないので、
ご質問の趣旨とはズレるかもしれませんが、
特許や商標などの知的財産権のある物品が、
そのまま流通する限りにおいては、
何らの権利侵害にもなりません

いちいち権利者の許諾が必要となると、
かえって流通が阻害されてしまうので、
そのままの転売行為は権利侵害にはならないのです。

あとは、販売目的ではなく、
個人的に誰かにプレゼントする目的であれば、
問題はありません

以上、既存で販売されている物を加工して販売する場合、
そして自分の名前や商標をつける場合は、
知的財産権があると、権利侵害になる可能性があるので、
十分にご注意ください。

※配信時点の判例通説等に基づき、個人的な見解を述べています。唯一の正解ではなく、判断する人や時期により解釈や法令自体が変わる場合がありますので、ご注意ください。