「サムライツ®」の弁理士、保屋野です。
「キングファイル」や「テプラ」で有名な文具メーカーのキングジムが、
カラークリエーションとエレコム(以下、エレコム側)に対して、
ラベルライターのブランド「テプラPRO」に類似した商標を無断使用して、商品を製造販売したことを理由に、
商標権侵害で提訴したようです(ITmediaニュースより)。
「テプラPRO」は、キングジムの登録商標で、何件か登録されています。
一方、エレコム側で使用しているのがこちら
確かに、表面的に見たら、そっくりですよね!
きっと多くの人が、
「これはアウトだろ…」
「似すぎw」
「エレコム側が悪い!」
のように思うかと思います。
ところが、商標はそんなに単純ではないのです。
商標が似てる似てないの話ではなく、
そもそも商標の使用に該当するのかどうか?
という話に発展する可能性があるのです。
どういうことかといいますと、
エレコム側は「TEPRA PRO」の横に「互換」と表示しています。
つまりこれって、
「純正じゃないですよ」
「サードパーティー品ですよ」
ということを示しているのです。
ということは、エレコム側は、
「我々の(エレコム側)の商品ブランドですよ」
という意味で「TEPRA PRO」を使っているのではなく、
「我々の商品の適合機種は「TEPRA PRO」ですよ」
という説明的な意味で使っているのです。
これは、商標の使用には当たりませんから、
商標権侵害に該当しないと判断される可能性があるのです。
これに近い判断が下された事例で、
「ブラザー事件」があります(平成16年(ネ)第3751号)。
Faxを製造販売し、「ブラザー」「brother」等の商標権を有していた原告ブラザー社が、Fax用のインクリボンの外箱に「ブラザー用」「For brother」と表示していた被告を、商標権侵害で訴えた事件です。
結論として、「ブラザー用」「For brother」といった表示は、
“ブラザー社製造のFaxに使用できるインクリボン”であることを示すための表記にすぎず、商標権侵害が認められなかったのです。
今回の場合は、文字よりも目を引く「ロゴ」を使用した件ですし、
“互換”という言葉も多少曖昧さを含むので、同じ判断となるかわかりません。
(”キングジム用”の表記もありますが、ここを突っ込んでしまうとブラザー事件と同じですね)
ただし考え方としては同じで、エレコム側の使い方が、
「商標としての使用」なのか、はたまた「商品の説明としての使用」なのか、
で判断が分かれることでしょう。
プリンターは、本体で儲けるよりもインクで儲ける、
いわゆる「消耗品モデル」と言われるビジネスモデルが主流です。
プリンター本体を使う上で必ず必要となる、純正インクを繰り返し買ってもらうことで、
長期的な利益を得るわけです。
本件のラベルプリンターも同様ですし、最近はカプセル式コーヒーの「ネスプレッソ」なんかもそうですね。
もしその消耗品の部分に特許を持っていれば、
他者が同じ技術を使うことができず、同じ効果を出すことが難しくなるために、
参入障壁ができて、より高くより多く儲けられる可能性があります。
しかし特許がないとしたら、どうしても、
似たような互換品を安い値段で売るサードパーティーが出てきてしまいます。
「安けりゃいい」と思ってる消費者はそちらを選びますから、
大変な機会損失です。
今回のキングジムによる提訴も、
なんとかそのような自体を食い止めたい!
という強い思いの現れかもしれませんね。
今後の裁判の行方に注目です。