イタリアで商標「Steve Jobs」の登録が認められている件

イタリアで商標「Steve Jobs」の登録が認められている件

2018年1月5日

「サムライツ®」の弁理士、保屋野です。

イタリアのデザイナーBarbato兄弟が、
2012年7月14日に、下記の図形+文字商標「Steve Jobs」を、
欧州共同体商標(CTM)(現:欧州連合商標(EUTM))出願しました。

これに対して、Apple社が登録の異議を申し立てましたが、
認められず…この商標は2014年5月31日に登録されてしまったのです。
(参考:https://gizmodo.com/apple-keeps-losing-legal-battles-to-an-italian-company-1821624028

上記の図形から、多くの人が連想するのは、
・かじられた葉っぱ付きのリンゴからなる、Apple社のロゴ図形


・Apple社の創業者の名前「Steven Paul “Steve” Jobs」
だと思います。

一方、こちらはかじられた葉っぱ付きの”J”からなるロゴ図形ですが、
商標権者のBarbato兄弟によれば、
この文字は果物ではないから、欠けた部分はかじられた跡ではない(the letter is not a fruit, so the missing chunk on the side can’t be a bite)」
との判断を裁判所が下した、とのこと。

ジョブズの名声にフリーライドしているのは明らかなのに、
この判断はちょっと、理解しがたいですよね。
完全に開き直ってSteve Jobsを社名にして、
元々展開していたアクセサリーや衣類だけでなく、
中国のブランドと組んで、電子製品の分野にも進出する意向があるそうです。

もしこの商標が日本で出願されていたら、
どのような結果になっていたでしょう?

図形自体は、Appleのリンゴの図形と類似とするのは難しいと思います。

一方、「Steve Jobs」の文字については、
Appleの創業者として著名な故Steve Jobs氏の名前であることが明らかですので、
これを理由に出願が拒絶になる可能性は高いです。

存命中の人物名であれば、
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標」は登録できない、とする商標法の規定(4条1項8号)がありますので、
これを理由に登録することはできません。

今回のような故人の場合には、この規定は適用されませんが、
おそらく「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(4条1項7号)であることを理由に、
登録されないと考えられます。
すなわち、周知・著名な歴史上の人物名については、その人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合に、登録を認めないこととしているのです。

同理由で、登録が認められなかった、あるいは無効になった例として、

・「カーネギー・スペシャル/CARNEGIE SPECIAL」
⇒「人を動かす」で有名なデール・カーネギーの評価を、不正に利用
・「菅原道真」
・「葛飾北斎/KATSUSHIKA HOKUSAI」
・「坂本龍馬(+図形)」

などがあります。

あるいは、ジョブズ氏は、Apple社の象徴的な存在であることを考えると、
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は登録できないとする、
4条1項15号の規定によっても、出願が拒絶される可能性はあります。

もし日本で出願されるようであれば、
上記のような判断が下されることを期待します。

※平成30年1月7日追記
日本でも、過去に「Steve Jobs」の文字商標が
国際商標登録出願(日本を指定したマドプロ出願)
されていましたが、
やはり上述の「公序良俗違反(4条1項7号)」等を理由に、
拒絶されていました。
(ご参照:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TR/JPTP1190586/5F47F004B362C311B70272BD11A380DA

また、まったく無関係な第三者が、著名な故人の名前で商売をしている場合は、
「不正競争防止法」によって、差し止めや損害賠償請求することも可能ですので、
ご遺族や関係者の方はご検討ください。