商標は非類似でも混同する?「2LCD」の登録が無効となった理由(「2LCD」vs「3LCD」事件)

商標は非類似でも混同する?「2LCD」の登録が無効となった理由(「2LCD」vs「3LCD」事件)

結論:商標法4条1項11号では非類似と判断されても、先行商標の周知性が高く、デザイン上の共通性や商品の関連性が強い場合には、同項15号の「混同のおそれ」が認められることがあります。

今回の「2LCD」vs「3LCD」事件では、本件商標「2LCD」と引用商標「3LCD」は、商標法4条1項11号との関係では非類似と判断されました。

一方で、無効審判請求人が使用する「3LCD」商標はプロジェクター分野で広く認識されており、本件商標のデザインも一定程度近似していました。

そのため、本件商標を使用すると、請求人又はその関係会社の商品であるかのような混同を生じるおそれがあるとして、商標法4条1項15号に該当し、登録が無効となりました。

事案の概要

本件商標は、登録第6642509号の「2LCD」の文字と図形を組み合わせた
商標「」です。

これに対し、引用商標は、登録第4907700号の「3LCD」の文字と図形を組み合わせた
商標「」です。

無効審判請求人は、2004年頃から下記の「3LCD」の表示をプロジェクターに使用していました。

請求人は、本件商標について、主に次の理由から登録を無効にすべきであると主張。

  • 引用商標と類似する
  • 周知な「3LCD」商標との混同を生じる
  • 周知商標への便乗や模倣に当たる

審決は、本件商標と引用商標については非類似と判断しました(無効2024-890053)。

しかし、周知な請求人使用商標との関係では混同のおそれがあるとして、商標法4条1項15号に該当すると判断しました。

理由1 「3LCD」はプロジェクター分野で広く知られていた

請求人は、2004年10月から「3LCD」方式のプロジェクターを販売していました。

「3LCD方式」とは、3枚の液晶ディスプレーパネルを使用するプロジェクターの方式です。

請求人は、プロジェクター本体だけでなく、

  • ウェブサイト
  • カタログ
  • チラシ
  • 広告用POP
  • 個装箱

などにも「3LCD」の商標を表示していました。

また、請求人の3LCD方式プロジェクターは、2020年10月時点で世界累積販売台数3000万台を達成していました。

日本のビジネスプロジェクター市場でも、2018年から2021年まで約62%から63%の市場占有率があったとされています。

さらに、複数のプロジェクターが国内のオーディオビジュアル関連アワードを受賞していました。

これらの事情から、審決は、請求人使用商標「3LCD」は、本件商標の出願時及び登録査定時において、請求人の商品を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたと判断しました。

理由2 「2LCD」と「3LCD」は11号では非類似とされた

本件商標と引用商標は、どちらも図形と文字を組み合わせた結合商標です。

本件商標引用商標

本件商標は、黒色の平行四辺形などを組み合わせた図形の下に、「2LCD」の文字を配置した構成です。

一方、引用商標は、紫がかった灰色の平行四辺形などを組み合わせた図形の右側に、「3LCD」の文字を配置した構成です。

審決は、両者には次のような違いがあると判断しました。

外観の違い

図形部分については、

  • 平行四辺形の数
  • 線が延びる方向
  • 線の形状
  • 色彩

が異なっていました。

文字部分も、「2LCD」と「3LCD」で数字が異なります。

さらに、本件商標は図形と文字が上下に配置されているのに対し、引用商標は左右に配置されていました。

そのため、外観上は明確に区別できると判断されました。

称呼の違い

本件商標からは、

  • ツーエルシーディ
  • ニエルシーディ

の称呼が生じます。

引用商標からは、

  • スリーエルシーディ
  • サンエルシーディ

の称呼が生じます。

語頭の「ツー」「ニ」と「スリー」「サン」は明確に異なるため、十分に聴き分けられると判断されました。

観念は比較できない

「2LCD」及び「3LCD」は、いずれも特定の観念を生じないとされました。

以上から、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において区別できるため、商標法4条1項11号との関係では非類似と判断されました。

理由3 15号ではデザイン上の共通性が重視された

もっとも、商標法4条1項15号の判断では、結論が異なりました。

本件商標請求人使用商標1請求人使用商標2

審決は、本件商標と請求人使用商標について、

  • 図形を上段に配置している
  • やや右に傾斜した文字を下段に配置している
  • 複数の平行四辺形を組み合わせている
  • 複数方向に延びる線を組み合わせている
  • 数字1文字と同じ欧文字3文字を組み合わせている

という共通点があると指摘しました。

そのため、11号の判断では非類似であっても、両商標の類似性の程度は「決して低くない」と評価されました。

ここが本件の重要なポイントです。

11号の類否判断では、外観、称呼及び観念を総合して、商標同士が類似するかが判断されます。

一方、15号では、形式的な類否だけでなく、

  • 周知性の程度
  • 商標の独創性
  • 商品・役務の関連性
  • 需要者の共通性
  • 実際に連想される可能性

などを含めて、出所混同のおそれが判断されます。

理由4 請求人使用商標の独創性も高いとされた

「3LCD」の文字部分は、「3」の数字と、液晶表示ディスプレーを意味する「LCD」を組み合わせたものです。

そのため、文字部分だけを見れば、独創性が高いとはいえないとされました。

しかし、請求人使用商標の図形部分は、複数の平行四辺形と延伸する線を組み合わせた特徴的な構成でした。

そのため、商標全体としては独創性が高いと判断されました。

数字や説明的な欧文字を含む商標であっても、特徴的な図形を組み合わせ、全体として長期間使用されている場合には、商標全体に強い識別力や周知性が認められることがあります。

理由5 商品と需要者がほぼ共通していた

本件商標の指定商品は、プロジェクターや映写装置に関連する商品でした。

請求人使用商標が使用されていた商品もプロジェクターです。

したがって、商品の関連性は非常に高く、取引者及び需要者も共通すると判断されました。

このような状況で、一定程度似た印象を与える「2LCD」商標が使用されれば、需要者が、

  • 「3LCD」の新しいシリーズ
  • 請求人の関連会社の商品
  • 請求人から許諾を受けた商品

などと考える可能性があります。

そのため、請求人又は請求人と経済的・組織的な関係を有する者の商品であるかのような混同を生じるおそれがあると判断されました。

11号で非類似でも15号に該当する理由

商標法4条1項11号は、先行登録商標と同一又は類似する商標について、同一又は類似の商品・役務に使用する場合の登録を認めない規定です。

これに対し、同項15号は、他人の業務に係る商品・役務と混同を生じるおそれがある商標の登録を認めない規定です。

15号では、商標同士が11号上の類似商標であることは必須ではありません。

非類似の商標であっても、

  • 先行商標が非常に有名である
  • 特徴的なデザインを共通にしている
  • 商品・役務が近い
  • 需要者が共通する

といった事情が重なれば、混同のおそれが認められることがあります。

本件は、まさにその典型例といえます。

この事件から分かること

この事件から分かるのは、先行商標との距離を測る際、文字や称呼が違うというだけでは十分ではないということです。

特に、周知商標に近いデザインを採用する場合には注意が必要です。

例えば、

  • 図形の構成
  • 図形と文字の配置
  • 文字の傾き
  • 数字と欧文字の組み合わせ
  • 全体の視覚的な印象

が似ていれば、商標法4条1項11号では非類似でも、同項15号が問題になる可能性があります。

また、周知商標との混同判断では、商標そのものだけでなく、実際に使用される商品や市場も重要です。

同じプロジェクター関連商品で、同じ需要者を対象とする場合には、わずかなデザイン上の共通性でも混同につながりやすくなります。

商標を決める際に確認したいポイント

新しいロゴやブランドを採用する際には、次の順番で確認すると判断しやすくなります。

まず、登録商標との類否を確認する

文字、称呼、観念だけでなく、図形や配置も含めて比較します。

次に、業界内の周知ブランドを確認する

登録商標検索だけでは、実際に広く使用されているデザインやロゴの存在を十分に把握できない場合があります。

さらに、商品の関連性を見る

周知商標と同じ商品や近い商品に使用する場合には、混同のおそれが高まります。

最後に、シリーズ商品と誤認されないかを検討する

完全に同じ商標でなくても、「同じ企業の別シリーズ」と思われる可能性があれば、15号のリスクがあります。

まとめ

「2LCD」事件では、本件商標と引用商標は、外観及び称呼に違いがあるため、商標法4条1項11号との関係では非類似と判断されました。

しかし、

  • 「3LCD」商標がプロジェクター分野で広く知られていた
  • 請求人使用商標の図形に高い独創性があった
  • 「2LCD」と「3LCD」のデザインが一定程度近似していた
  • 商品の関連性が非常に高かった
  • 取引者及び需要者が共通していた

ことから、商標法4条1項15号の混同のおそれが認められました。

その結果、本件商標の登録は無効となっています。

本件は、11号の類否判断と15号の混同判断は同じではなく、商標が非類似であっても、周知性や商品の関連性によっては登録できない場合があることを示しています。

サムライツ知財事務所では、先行登録商標との類否調査だけでなく、周知ブランドとの混同リスク、ロゴデザインの共通性、商標法4条1項15号を踏まえた出願戦略についてもご相談を承っています。

新しいロゴやブランドが既存の有名ブランドを連想させないか不安な場合や、登録商標とは非類似に見えるものの混同リスクまで確認したい場合は、早めにご相談ください。