結論:商品の品質を表す文字は、枠で囲んだり背景色を変えたりしても、そのデザインがありふれた範囲にとどまる限り、識別力は認められにくいです。
今回の「DEEP CLEANSING OIL」事件では、本願商標について、商標法3条1項3号に該当すると判断されました。
本願商標は、「DEEP CLEANSING OIL」の文字を、黒色の太枠や白色の背景と組み合わせたロゴ風の態様でした。
しかし裁判所は、文字部分が「クレンジングオイル」の品質を表示するものであり、枠や背景色によるデザイン化もありふれた手法にとどまるとして、出所識別標識としての機能を認めませんでした。
さらに、長年の販売実績や広告宣伝があったにもかかわらず、商標法3条2項による使用による識別力の獲得も否定されています。
目次
事案の概要
本願商標は「
」(商願2017-96949)です。
指定商品は「クレンジングオイル」です。
本件は、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟で、事件番号は令和7年(行ケ)10092号です。
争点は主に次の2つでした。
- 商標法3条1項3号に該当するか
- 商標法3条2項により使用による識別力を獲得しているか
裁判所は、いずれについても原告の主張を認めず、審決を維持しました。
理由1 「DEEP CLEANSING OIL」は品質表示とされた
裁判所は、まず文字部分の意味を確認しています。
「deep」は「深いさま」を意味します。
「cleansing oil」は、化粧や顔の汚れを落とすために使う液剤を意味します。
そして、クレンジングオイルの商品分野では、「DEEP CLEANSING OIL」や「ディープクレンジングオイル」を含む商品名が複数存在し、毛穴の中まで浸透して汚れを落とすことや、古い角質を浮き上がらせて除去することをうたう商品も相当数あると認定されました。
そのため、「DEEP CLEANSING OIL」の文字部分は、指定商品「クレンジングオイル」に使用された場合、需要者に対して、
毛穴の汚れや古い角質など、皮膚の深部の汚れを落とすオイル状の洗浄剤
を認識させるものとされました。
つまり、ブランド名というよりも、商品の品質を表示するものと判断されたわけです。
理由2 枠や背景色はありふれたデザインとされた
原告は、本願商標について、黒色の太枠、白色の背景、黒色の太文字が一体となったロゴ商標であり、出所識別標識として機能すると主張しました。
しかし、裁判所はこの主張を採用しませんでした。
裁判所は、文字部分を枠で囲み、枠内の背景色を文字部分とコントラストのある色にすることは、文字部分を目立たせるためのありふれた手法であるとしました。
また、指定商品と類似する化粧品についても、そのような表示を採用する商品が複数存在すると認定されています。
したがって、仮に本願商標が多少デザイン化されていたとしても、その字体や配置、枠、背景色に外観上顕著な特徴があるとはいえず、「普通に用いられる方法」の域を出ないと判断されました。
理由3 ロゴ化しても品質表示の弱さは補えなかった
本件で重要なのは、文字が品質表示である場合、少しロゴ化しただけでは識別力が生まれないという点です。
たとえば、
- 文字を太字にする
- 枠で囲む
- 背景を白くする
- 文字と背景にコントラストをつける
といった処理は、商品パッケージや広告ではよく使われる表現です。
そのため、これらのデザインが加えられていても、需要者が「これは特定の会社の商品を示す商標だ」と認識するほどの特徴がなければ、3条1項3号の拒絶は回避できません。
本件では、文字部分の説明性が強く、デザインもありふれていたため、全体として品質表示の域を出ないとされたわけです。
理由4 長年の販売実績があっても3条2項は認められなかった
原告は、本願商標を付した商品を平成7年12月から販売しており、審決時点でも販売を継続していました。
販売実績も大きく、平成29年には販売実績52億円、平成30年には51億円など、相当な販売規模がありました。
また、新聞広告、折込チラシ、会報誌、女性雑誌での紹介など、長年にわたる宣伝広告も行われていました。
裁判所も、平成22年ないし平成23年頃の時点では、本願商標が原告の商品を示す標章として、全国の需要者に相当程度浸透していたことは認めています。
それでも、商標法3条2項による登録は認められませんでした。
理由5 他社使用により共通名称化したと見られた
3条2項が否定された大きな理由は、他社による使用です。
遅くとも平成21年以降、複数の化粧品メーカーが、
- DEEP CLEANSING OIL
- Deep Cleansing Oil
- ディープクレンジングオイル
を商品名に含むクレンジングオイルを販売するようになっていました。
そして、それらの商品も、毛穴の中まで浸透して汚れを落とすことや、古い角質を除去することをうたっていました。
裁判所は、このような事情から、本願商標中の文字部分は、商品の種類又は品質を示す共通名称のように認識されるようになったと推認しています。
つまり、かつては原告の商品を示すものとして浸透していたとしても、その後、同様の表示が他社商品にも使われるようになり、需要者が本願商標だけで原告の商品だと認識することは困難になったと判断されたわけです。
理由6 「DHC」と一緒に使われていたことも影響した
本件商品には、本願商標だけでなく、原告の企業名を示す「DHC」の文字も表示されていました。
広告でも、「DHC薬用ディープクレンジングオイル」や「DHCディープクレンジングオイル」と表記され、原告の企業名ロゴも表示されていました。
この点も、3条2項の判断では不利に働いています。
需要者が商品を原告の商品だと認識していたとしても、それが本願商標「DEEP CLEANSING OIL」によるものなのか、それとも「DHC」によるものなのかが問題になります。
裁判所は、他社使用の状況や「DHC」と併記されていた事情を踏まえ、需要者が本願商標により原告の商品であることを認識できるとは認めにくいと判断しました。
条件1 多少のデザイン化では登録が難しい場合
この事件からすると、次のような場合には、デザイン化しても識別力は認められにくいです。
文字部分が商品の品質を直接示す場合
「DEEP CLEANSING OIL」のように、指定商品との関係で、商品の種類・用途・品質を自然に説明する文字は、識別力が弱いです。
デザインがありふれた範囲にとどまる場合
枠で囲む、太字にする、背景色を変えるといった程度では、普通に用いられる方法と見られやすくなります。
同業他社も同様の表現を使用している場合
同じ又は類似する文字が他社商品にも使用されている場合、需要者はそれを特定人の商標ではなく、商品内容を示す表示として理解しやすくなります。
企業名や別ブランドと一緒に使われている場合
商品が有名でも、需要者が出所を認識する根拠が別の企業名やブランド名である場合、当該表示単独での識別力は認められにくくなります。
条件2 逆に登録可能性が残る場合
一方で、説明的な文字を含む商標でも、次のような事情があれば登録可能性が残ることがあります。
デザインに顕著な特徴がある場合
単なる枠や太字ではなく、文字の形状、配置、図形との組合せなどが強く印象に残り、全体として独自のロゴと認識される場合です。
他社が同様の表示を使っていない場合
同じ表現が業界で一般化していなければ、特定人の商標として認識される余地があります。
その表示単独で出所識別されている場合
広告や販売実績において、企業名ではなく当該商標自体が需要者に強く認識されていることを示せる場合です。
継続使用による識別力の証拠が強い場合
販売実績、広告宣伝、シェア、アンケート調査、メディア掲載、取引者の証言などにより、その商標単独で識別力を獲得したことを立証できる場合です。
この事件から分かること
この事件が示しているのは、説明的な文字商標は、少しデザイン化しただけでは登録が難しいということです。
商標法3条1項3号の判断では、文字部分が商品の品質等を表示する場合、その表示態様が「普通に用いられる方法」の範囲を超えているかが問題になります。
本件では、枠や背景色、太文字といった要素は、文字を目立たせるためのありふれた手法とされました。
また、使用による識別力についても、過去に大きな販売実績があるだけでは足りません。
現在の需要者が、その商標単独で特定人の商品だと認識できるかが重要です。
特に、同業他社による使用が広がると、かつて強かった表示でも、共通名称や品質表示として認識される方向に変わってしまうことがあります。
次の判断に進むために見るべきポイント
説明的な文字を含む商標を検討するときは、次の順番で確認すると判断しやすくなります。
まず、文字部分が何を意味するかを確認する
指定商品との関係で、品質、用途、効能、成分、種類を直接示していないかを見ます。
次に、デザインが普通の範囲を超えているかを見る
単なる太字、枠、背景色、色の反転だけでは足りない可能性があります。
需要者がロゴとして記憶するほどの特徴があるかが重要です。
さらに、他社使用の有無を確認する
同じ文字や似た表現が他社商品にも使われている場合、独占は難しくなります。
最後に、使用による識別力を商標単独で立証できるかを見る
販売実績が大きくても、企業名や別ブランドの力で売れていると見られると、3条2項は認められにくくなります。
まとめ
商品の品質を示す文字は、枠で囲む、背景色を変える、太字にする程度のデザイン化では、識別力が認められにくいです。
「DEEP CLEANSING OIL」事件では、
- 「DEEP CLEANSING OIL」はクレンジングオイルの品質を表示する文字とされた
- 枠や白色背景、太文字はありふれた手法とされた
- そのため3条1項3号に該当すると判断された
- 長年の販売実績や広告宣伝はあった
- しかし他社も同様の表示を使用しており、共通名称化していると見られた
- 「DHC」と併記されていたため、本願商標単独で出所識別されているとは認められなかった
- その結果、3条2項による登録も認められなかった
この事例は、説明的なネーミングをロゴ化して使う場合でも、デザインがありふれた範囲にとどまると登録は難しいことを示しています。
また、長年使っていたとしても、他社使用が広がれば、識別力の獲得や維持は簡単ではありません。
サムライツ知財事務所では、説明的な文字を含むロゴ商標の登録可能性や、3条2項の立証方針についてもご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願・審判・訴訟対応を検討したいという段階でも、早めに整理しておくと次の判断に進みやすくなります。
