「漢方薬」ならNGでも「サプリメント」なら通る?――「清肺散」事件が示す指定商品の重要性

「漢方薬」ならNGでも「サプリメント」なら通る?――「清肺散」事件が示す指定商品の重要性

結論:「清肺散」のように漢方薬分野では品質を示すと理解されやすい語でも、指定商品を「サプリメント」に絞ると、直ちに品質表示や品質誤認とはいえず、識別力が認められることがあります。

今回の「清肺散」事件では、もともと第5類「薬剤,漢方薬,サプリメント」を指定商品として出願されていた商標が、手続補正で「サプリメント」に限定された結果、最終的に品質誤認は生じないと判断されました。
この事例は、商標の意味そのものだけでなく、どの商品に使うのかで結論が変わることをよく示しています。

事案の概要

本願商標は「清肺散」(商願2023-140117号)です。
当初は第5類「薬剤,漢方薬,サプリメント」を指定商品として出願されていましたが、途中の手続補正によって、指定商品は第5類「サプリメント」に絞られました。

拒絶査定不服審判は、不服2025-7169です。

原審では、「漢方薬」の分野における「清肺」や「散」の使用実情を踏まえ、本願商標全体から「肺熱を冷ます散剤」という意味合いが理解されると認定されていました。
これに対して審決は、補正後の指定商品である「サプリメント」との関係では、そのような理解が一般に生じるとはいえないとして、品質誤認は生じないと判断しています。

なぜ「漢方薬」では厳しく、「サプリメント」では結論が変わったのか

ポイントは、同じ文字でも、どの商品に使われるかで需要者の受け取り方が変わるという点です。

審決は、「漢方薬」と「サプリメント」では、

  • 商品の用途
  • 需要者の範囲
  • 分野における文字の使用実情

が異なると見ました。

つまり、漢方薬の世界で「清肺散」がある種の薬効や剤型を想起させるとしても、その理解がそのままサプリメント分野にまで当然に及ぶわけではない、という整理です。

理由1――漢方薬分野では「清肺」「散」に意味が乗りやすい

原審が厳しく見たのは、漢方薬分野では「清肺」や「散」が比較的意味を持ちやすいからです。

「清肺」は肺に関する効能や作用を連想させ、「散」は漢方薬の剤型や処方名の末尾として見られることがあります。
そのため、「清肺散」といえば、漢方薬の需要者には「肺熱を冷ます散剤」のような意味合いが伝わりやすい、という理解です。

このような理解が成立するなら、商標というよりも、商品の性質・効能・内容を示す語として把握されやすくなります。

理由2――サプリメント分野では同じ使用実情が確認できなかった

これに対して審決は、補正後の指定商品である「サプリメント」については、漢方薬分野と同じような文字の使われ方は見当たらないとしました。

つまり、

  • 「清肺散」の文字が
  • サプリメントの分野で
  • 「肺熱を冷ます散剤」を意味する語として
  • 一般に使われ、理解されている

という事実は確認できなかった、ということです。

ここが大きいです。
審決は、漢方薬分野での意味や用法をそのまま横滑りさせるのではなく、補正後の指定商品との関係で、需要者が実際にどう理解するかを見ています。

理由3――需要者が直ちに「肺熱を冷ます散剤」と認識するとはいえない

審決が最終的に重視したのは、本願商標を「サプリメント」に使った場合、需要者がその商品を「肺熱を冷ます散剤」だと認識するとはいえないという点です。

つまり、サプリメント分野では、

  • 「清肺散」という語が一般語化していない
  • 特定の品質や効能を直ちに表示する語ともいえない
  • したがって、品質誤認を生じる前提も弱い

という理解です。

ここでは、商標の意味を辞書的・専門的に掘るというより、普通の需要者がその指定商品との関係でどう受け取るかが重視されています。

ただし、この結論には少し議論の余地もある

もっとも、この審決には疑問の余地があるという見方も十分あります。

ご指摘のとおり、サプリメントは漢方薬と同じく健康関連商品であり、実際にはドラッグストアなどで隣接して販売されることも少なくありません。
そうすると、需要者層は完全に分かれているとは言いにくく、少なくとも一部はかなり重なっていると見ることもできます。

その意味では、

  • 漢方薬の知識をある程度持つ需要者
  • 健康食品や機能性表示食品、サプリメントを日常的に選ぶ需要者

が「清肺散」に接したとき、一定の漢方的ニュアンスや効能を連想する可能性はあるのではないか、という問題意識は自然です。

条件1――「サプリメント」でも識別力が認められやすい場合

今回の事例からすると、次のような場合には、漢方薬由来のような名称でもサプリメントについては識別力が認められやすくなります。

サプリメント分野で同様の語の使用実情が確認できない場合

その名称がサプリメントの品質・効能を表す語として一般に使われていないなら、需要者は直ちに説明語とは理解しにくくなります。

漢方分野での専門的意味が、そのまま一般需要者に浸透していない場合

専門家や一部の需要者には意味があっても、一般のサプリメント需要者にまで広く共有されていないなら、品質表示性は弱くなります。

指定商品がサプリメントに限定されている場合

「薬剤」「漢方薬」まで含めていると、どうしても漢方的意味合いとの結び付きが強くなります。
指定商品を絞ることが、判断を変える大きな要素になります。

条件2――逆に、結論が変わる可能性がある場合

一方で、次のような事情があれば、サプリメントであっても識別力が否定される方向に動く可能性があります。

サプリメント分野でも同様の漢方的表示が一般に使われている場合

たとえば、健康食品・サプリメント市場で「清〇」「補〇」「散」などの表現が一般化していれば、需要者の理解も変わってきます。

需要者が漢方薬とサプリメントを近接した商品群として捉えている場合

販売場所、広告表現、機能訴求のしかたが近いと、漢方薬分野での意味がサプリメントにも持ち込まれやすくなります。

商標から特定の効能・性質を直ちに連想できる場合

たとえサプリメントであっても、その語に触れた需要者が「肺に良さそう」「呼吸器向けだ」と強く理解するなら、品質表示性や品質誤認が問題になり得ます。

この事件から分かること

この事例が示しているのは、商標の識別力は、言葉そのものではなく、指定商品との組み合わせで判断されるという、商標実務の基本です。

同じ「清肺散」でも、

  • 漢方薬に使えば意味が強く立ちやすい
  • サプリメントに使えば、直ちに品質表示とはいえない

というように、商品との関係で評価が変わり得ます。

この点は実務上かなり重要です。
ネーミングだけ見て「これは説明的だ」と決めるのではなく、何に使うのか、どの需要者がどう理解するのかまで含めて見なければならないということです。

次の判断に進むために見るべきポイント

この種の名称を検討するときは、次の順番で考えると判断しやすいです。

まず、その語がどの分野で意味を持つかを確認する

漢方薬、医薬品、化粧品、健康食品など、どの分野でその語が説明的に使われているかを見る必要があります。

次に、指定商品をどこまで広く取るかを検討する

商品範囲を広く取りすぎると、説明的な分野まで含んでしまい、識別力が否定されやすくなります。
今回のように補正で商品を絞ることが有効な場合もあります。

さらに、需要者が本当にその意味を理解するかを考える

専門分野で意味があるだけでは足りず、指定商品との関係で一般需要者がどう受け取るかが重要です。

まとめ

「清肺散」のように、漢方薬分野では品質や効能を示すと理解されやすい語でも、指定商品を「サプリメント」に限定すると、直ちに品質表示や品質誤認を生じるとはいえず、識別力が認められることがあります。

今回の「清肺散」事件では、

  • 漢方薬分野での使用実情はあった
  • しかしサプリメント分野では同様の使用実情が確認できなかった
  • そのため、需要者が「肺熱を冷ます散剤」と認識するとはいえない

という理由から、補正後の指定商品「サプリメント」については品質誤認は生じないと判断されました。

この事例は、商標の意味だけではなく、指定商品をどう設定するかが結論を左右することを非常によく示しています。
出願時には、名称そのものの強さだけでなく、「どの商品に使うのか」を丁寧に設計することが大切です。

サムライツ知財事務所では、こうした漢方的・効能的な語を含む商標について、指定商品の絞り方も含めた出願戦略をご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで商品範囲を検討したいという段階でも、整理しておくと判断しやすくなります。