結論:「〇〇商店」は、全体が店名として一体的に把握されると、「〇〇」だけを取り出して比較できないとして非類似と判断されることがあります。もっとも、小売役務との関係では「商店」の識別力は低いことが多く、この結論にはなお検討の余地があります。
今回の「牡丹商店」事件では、本願商標「牡丹商店」から「牡丹」の文字部分だけを分離抽出することはできないとされ、引用商標「ぼたん/牡丹」とは非類似と判断されました。
ただ、この結論はそのまま一般化するには少し慎重であるべきだと思います。特に、本願の指定役務が小売役務である以上、「商店」部分の弱さをどこまで見るべきかという疑問が残るからです。
目次
事案の概要
本願商標は「
」(商願2024-70628号)です。
引用商標は「
」(登録第5402373号)で、拒絶査定不服審判は不服2025-7263です。
審決では、本願商標について、
- 同じ書体
- 同じ大きさ
- 同じ間隔
でまとまりよく一体に表されていること、さらに「ボタンショウテン」の称呼も無理なく一連に称呼し得ることから、全体を一体不可分のものとして認識・理解するとみるのが自然であるとされました。
また、「牡丹」は植物名、「商店」は商品を販売する店を意味する語であるものの、本願商標全体としては、「牡丹商店」という固有の商店名を表してなるとの印象を与えると評価されています。
そのため、「商店」の部分を捨象して「牡丹」だけを取り出すことは認められず、引用商標とは非類似と判断されました。
なぜ一体不可分とされたのか
この審決のロジックは比較的明快です。
要するに、「牡丹商店」は単なる『牡丹』+『商店』の説明的な足し算ではなく、一つの店名として見えるという理解です。
外観上、全体がまとまっている
審決はまず、文字の見た目の一体性を重視しています。
「牡丹」と「商店」が同じ書体・大きさ・間隔で並んでいる以上、表示として自然に一まとまりに見える、という整理です。
これは確かに一理あります。
極端に前半だけ大きい、後半だけ小さい、あるいは装飾差がある場合とは違い、この構成では全体が一つの名称として見えやすいです。
称呼も「ボタンショウテン」と一連に読める
称呼についても、「ボタンショウテン」は不自然に途切れず、全体を一つの店名として無理なく呼べるとされました。
この点も、要部を分けて観察しない方向に働いています。
つまり、見た目だけでなく、読み方の面でも「牡丹商店」全体を一体に把握しやすいとされたわけです。
「牡丹商店」という固有名称の印象を与える
さらに審決は、観念面というより印象面として、「牡丹商店」という固有の商店名を表しているとの印象を与えるとしています。
ここがこの事件の核心です。
「商店」は一般語ですが、それが前半語と結合することで、全体が一つの屋号・店名のように受け取られる以上、単純に後半を捨てて前半だけで比較するのは相当でない、という考え方です。
ただし、この結論には少し疑問も残る
もっとも、ご指摘のとおり、この審決にはやや引っかかるところがあります。
それは、本願の指定役務が小売役務である以上、「商店」部分の識別力は相当に弱いのではないかという点です。
「商店」はまさに商品を販売する店を意味する一般的な語です。
特に小売役務との関係では、「商店」は役務の提供主体や営業形態を示すにすぎず、出所識別力はかなり低いと見る余地があります。
そうすると、需要者が実際にどこに注目するかという点では、後半の「商店」よりも、むしろ前半の「牡丹」のほうが印象の中心になるとも考えられます。
「牡丹」部分が本当に軽視されるのか
この事例で一番考えたいのは、需要者が本当に「牡丹商店」全体だけを一体のものとして見て、「牡丹」部分をあまり意識しないのかという点です。
実際には、店名に「〇〇商店」と付いている場合、多くの人は「〇〇」の部分で記憶したり、呼んだりすることが少なくありません。
たとえば、
- どこの店か
- 何という屋号か
- どのブランドか
を把握する場面では、「商店」部分より前半部分のほうが、識別の核として機能しやすいことがあります。
その意味では、本件でも「牡丹」が取引者・需要者の記憶や連想の中心になる可能性は、十分あったように思われます。
結論が変わり得る条件
この種の商標では、少し事情が変わると結論も変わり得ます。
「商店」部分の識別力が極めて弱いと見られる場合
特に指定役務が小売役務である場合には、「商店」は役務内容や営業形態を示す一般語として理解されやすく、識別力はかなり弱く評価される可能性があります。
その場合、前半の「〇〇」部分が要部として見られやすくなります。
前半部分が独立して強く印象に残る場合
前半語が植物名であっても、店名の中で屋号として印象に残ることは十分あります。
「牡丹」が需要者の記憶の中心になるなら、その部分だけを抽出して比較することも考えられます。
実際の取引で前半部分だけで呼ばれやすい場合
需要者や取引者が実際には「牡丹商店」ではなく「牡丹」と略して呼ぶような実情があるなら、要部認定は変わる可能性があります。
表示態様で前半部分が強調されている場合
本件では同じ書体・大きさ・間隔が重視されましたが、仮に「牡丹」部分だけが大きい、太い、目立つといった表示であれば、前半部分の支配性はより強くなります。
この事例から分かること
この事件が示しているのは、近年の審決には、構成文字全体の一体性を比較的広く認める傾向があるように見えるということです。
つまり、
- 同じ書体
- 同じ大きさ
- 同じ間隔
- 一連に称呼可能
- 全体として屋号・店名らしい
といった事情があれば、後半語が一般語であっても、全体を一体不可分として把握する方向に傾くことがあります。
ただ、その一方で、要部認定は本来、需要者がどこを出所識別の中心として見るかという観点から行うべきものです。
そう考えると、「商店」のような一般語が付いている場合に、常に全体一体で処理してよいのかは、なお慎重に見たいところです。
次の判断に進むために見るべきポイント
「〇〇商店」のような名称を検討するときは、少なくとも次の点を確認したほうがよいと思います。
後半語が役務との関係でどれだけ弱いか
「商店」「ストア」「ショップ」「屋」「堂」などは、分野によってはかなり弱く見られます。
まずはそこを確認する必要があります。
前半語だけで先行商標がないか
全体だけでなく、前半語単独でも似た登録があるなら、後半語が弱い分だけ類似リスクは上がります。
全体が本当に固有名称として自然に把握されるか
見た目や称呼が整っていても、需要者が実際にどこで識別するのかは別問題です。
「全体一体に見える」と「識別の中心が前半にない」は同じではありません。
まとめ
「〇〇商店」は、全体が固有の商店名として把握されるなら、「〇〇」だけを分離抽出せず、先行商標「〇〇」と非類似と判断されることがあります。
「牡丹商店」事件では、
- 外観上まとまりよく一体に表されていること
- 「ボタンショウテン」と一連に称呼できること
- 「牡丹商店」という固有の店名の印象を与えること
から、一体不可分と認定され、引用商標「ぼたん/牡丹」とは非類似とされました。
もっとも、本願の指定役務が小売役務であり、「商店」部分の識別力が低いと考えられることからすると、需要者が本当に「牡丹」部分を切り離さずに把握するのかには、なお疑問が残ります。
この事例は、「一体性」が重視される最近の傾向を示す一方で、後半の一般語が弱い場合に、どこまで全体一体で見てよいのかを改めて考えさせるものだと思います。
サムライツ知財事務所では、こうした「〇〇商店」「〇〇ショップ」型の商標の類否や、屋号を含むネーミングの出願可能性についてもご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願を検討したいという段階でも、整理しておくと判断しやすくなります。
