『鬼滅の刃』盗撮問題から考える、中小企業の知財リスク管理

『鬼滅の刃』盗撮問題から考える、中小企業の知財リスク管理

はじめに

今回取り上げるのは、こちらのニュース。

・「『鬼滅の刃』公式が「厳正な対処を…」 盗撮映像への警告と対応方針に「徹底的に」「許さないで」」(マグミクス)
https://magmix.jp/post/309532

2025年夏、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開され、大きな話題となっています。しかし、その人気の裏で、SNS上に上映中の盗撮映像が拡散されるという、重大な著作権侵害行為が発生しています。これを受けて、公式Xアカウントが「刑事告訴を含む厳正な対処」を行うと表明。ファンからも強い支持の声が上がっています。


映画の盗撮は「私的使用」でも違法になる特別なケース

著作権侵害というと「営利目的での複製・配布」が問題視されがちですが、映画館での盗撮行為に関しては例外的な法制度が存在します。

それが「映画の盗撮の防止に関する法律(通称:映画盗撮防止法)」です。この法律により、たとえ録画・録音した映像や音声を私的に楽しむだけの目的であっても、上映中の映画を録画・録音する行為自体が違法とされています。

つまり、「誰にも見せていない」「SNSに投稿していない」などの言い訳は通用しません。実際に録画や録音をした時点で、著作権法に加えて「盗撮防止法」にも抵触する重大な法令違反となるのです。


録音も対象─音だけでもアウト

また、見落とされがちですが「録画」だけでなく「録音」も法律の対象です。たとえば、映画の音声だけをスマートフォンで録音していた場合でも、この法律に基づき違法行為として扱われます

録音は「目立たない」分、軽く見られがちですが、著作権者が長い年月をかけて作り上げた作品世界を勝手に複製する行為であることに変わりありません。法律的にも倫理的にも厳しい姿勢が求められる部分です。


公式対応にファンも共鳴

今回の事案では、「ファンだから広めたい」「悪気はなかった」といった動機であっても、行為の違法性は変わりません。公式Xアカウントは、「劇場での映画の盗撮行為は犯罪」と明確に表明し、刑事告訴も視野に入れた厳正な対応を進めるとしています。

この声明に対して、SNS上では「徹底的にやってください」「ネタバレ喰らって最悪」「時間をかけた作品を台無しにする行為は許せない」といった声が多数寄せられました。

知的財産の保護という観点では、企業側のこうした毅然とした対応は非常に重要です。厳しい対応を示すことで、コンテンツとファンの信頼を守る姿勢が明確に打ち出された形です。逆に、違法行為を放置すれば、「許容されるのではないか」との誤解を招き、被害が拡大する恐れがあります。


中小企業にとっての示唆:権利行使の「覚悟」と「準備」

今回のように大規模なIP(知的財産)を持つ企業だけでなく、中小企業や個人事業主にとっても、知的財産の「侵害対応」は無関係ではありません。

特に注意したいのは次の3点です:

  1. 商標・著作物の「無断使用」への備え
    自社のロゴやキャラクターが無断で使われるケースも増えています。模倣や引用の境界線を把握し、法的な主張ができる準備をしておきましょう。
  2. 「拡散されてから」では遅い
    被害が拡大してからでは、対応コストも高くなります。SNSモニタリングや、タイムスタンプによる「存在事実証明書」の発行、文化庁への著作権登録も有効です。
  3. 毅然とした態度がブランドを守る
    問題を「見て見ぬふり」することがブランド毀損につながることも。法的手段の有無にかかわらず、姿勢を明確に示すことが信頼の土台になります。

まとめ

『鬼滅の刃』盗撮問題は、知財保護の観点から多くの教訓を与えてくれます。盗撮行為は「私的使用」であっても違法であり、企業が自社の知財を守るには、毅然とした対応が必要です。中小企業こそ、自社のブランドやコンテンツを守るための「リスク管理と行動指針」を明確にしておくことが求められます。

目の前の一件を「たかが1枚の画像」と侮らず、「それがブランドの未来を左右する一歩」と捉え、日頃からの備えを意識していきましょう。