「サムライツ®」の弁理士、保屋野です。
およそ3割の醤油のシェアを持っている国内最大手キッコーマンの、卓上醤油瓶の形状が、立体商標登録されたということで話題となっています。
商標は、文字や図形や記号の他、立体的形状も登録することができます。
その一例として、ペコちゃんの人形や、カーネルサンダースの人形、などがあります。
で、今回なぜキッコーマンの醤油瓶の立体商標登録がそんなに話題になったのかといいますと、
実は商品やその包装容器自体の形状を商標登録することは、非常に難しいからなんですね。
商標というのは、自分と他人の商品やサービスを見分けるための識別マークです。
したがって、使用する商品や商品の包装の形状そのものの範囲を出ない場合は、
そもそも他の人だって使用できる形状なんだから、
識別マークとはいえませんよね、だから独占できませんということで商標登録できないわけなんですね。
その形状が、多少美的な装飾を施されていたとしても、あるいは機能的に工夫した点があったとしても、登録に値するようなものではないと、考えられているわけです。
特に商標は、一度登録すると更新によって何十年も権利を持つことができるので、
事実上、他者がその形状を使えなくなってしまうという、強力な権利です。
むやみに登録は認められないし、そもそも形状に真新しさがあるような場合は、
商標じゃなくて、デザインの特許である意匠登録をすべきだ、ということになるのです。
ですから、これまでもいろんな、商品や商品の包装容器の形状として商標出願されてきましたが、
それらの多くは審査で拒絶されてしまっていました。
ただ、キッコーマンの場合は、発売開始した1961年から半世紀以上、一度も変わらない形状で食卓に置かれてきたし、
累計出荷本数は5億本を超え、約100カ国の市場に流通していると。
こういった実績があって、この形状の醤油瓶はキッコーマンのだよね、と他とは識別できる力が備わったと判断されたので、登録になったということです。
実は、「醤油」以外の、「文房具」だとか「洋服」「帽子」「人形」といった分野では、
すでに立体商標の登録がされていたのですが、
これらは商品や商品の包装の形状そのものとはかけ離れているので、何も問題なく審査を通りました。
指定する商品・役務によって、審査の通りやすさは変わりますが、
一番取りたい商品や商品の包装の形状ほど、通りにくいということです。
ちなみに、同じく商品の包装容器の立体形状が商標登録された例としては、
コカ・コーラのビンの形状や、ヤクルトの容器の形状などがあります。
どちらもおなじみの形状ですよね。
キッコーマンの醤油瓶の形状のデザインをされた、故・栄久庵憲司(えくあんけんじ)さんは、
日本の工業デザインの草分け的な存在で、
秋田新幹線こまちや成田エクスプレス、ヤマハのオートバイのデザインや、
コスモ石油、ミニストップといったロゴマークのデザインも手がけてこられた方です。
素晴らしい工業デザインの結晶の1つである醤油瓶が、
この先何十年も、安心して同じデザインを使い続けられるようになったと考えると、
この商標登録はすごく意味のあることだと思いました。