識別力のない商標は、ひらがな表記にしても通らない?(「はっこうじお」事件)

識別力のない商標は、ひらがな表記にしても通らない?(「はっこうじお」事件)

結論:「発酵塩」のように内容をそのまま説明する言葉は、ひらがなで「はっこうじお」と表記しても、識別力は生まれにくく、登録が認められないことがあります。

今回の「はっこうじお」事件では、商標がひらがなで一体的に表記されていても、需要者は「発酵」と「塩」を平仮名で表したものと容易に理解するとされ、商標法3条1項6号に該当すると判断されました。
この事例は、表記を変えただけでは、説明的な商標の弱さは解消しにくいことをよく示しています。

事案の概要

本願商標は「はっこうじお」(商願2024-082714)です。
拒絶査定不服審判は、不服2025-011506です。

審決では、本願商標について、

  • 「はっこう」は「発酵」
  • 「じお」は「塩」

をそれぞれ平仮名で表したものとして、需要者に容易に認識・理解されると判断されました。

そのうえで、本願商標は、食品分野で一般に使用される「発酵」と、普通名称である「塩」とを組み合わせた「発酵塩」を、単にひらがなで表示したものにすぎないとされ、商標法3条1項6号に該当するとされています。

理由1 ひらがなでも「発酵」と「塩」だと理解されるとされた

この事件でまず重要なのは、審決が「はっこうじお」を一種の新しい造語とは見なさなかったことです。

審決は、

  • 「はっこう」から「発酵」
  • 「じお」から「塩」

を自然に連想できるとしました。

特に「じお」についても、「甘塩」「薄塩」「化粧塩」「天日塩」などのように、「塩」が「じお」と発音される例があることから、需要者は「塩」の語を平仮名表記したものと理解できると認定しています。

つまり、ひらがなでつなげて書かれていても、見た人は普通に意味のある二つの語に分けて理解する、という判断です。

理由2 食品分野では「発酵○○」という使い方が一般的だった

審決がさらに重視したのは、食品分野における取引の実情です。

食品分野では、納豆、塩辛、チーズなど、発酵させて作る食品が多数流通しており、「発酵」の語自体が一般に広く使われています。
さらに、「発酵○○」という形で、食品の普通名称と組み合わせて使用される実情もあるとされました。

この実情を前提にすると、「はっこうじお」は、需要者から見て、

識別標識としての個性的な名称
ではなく、
「発酵塩」という商品の内容や特徴を表した表示

として理解されやすいということになります。

理由3 一体的な造語だという主張は通らなかった

請求人は、「はっこうじお」は一般的な表現ではなく、構成上一体不可分の造語として捉えるのが自然だと主張しました。

たしかに、ひらがなでつながっている以上、ぱっと見では一まとまりの名称にも見えます。
ただ、審決はそこを認めませんでした。

審決は、たとえ一体的に表示されている商標であっても、識別力の有無を判断する場面では、指定商品分野の取引実情を踏まえて、構成する各文字部分の意味を検討することは当然に許されるとしています。

その結果、「はっこうじお」は、

  • 「発酵」
  • 「塩」

を平仮名で表したものと容易に理解でき、
しかも食品分野では「発酵+普通名称」という組み合わせが一般に行われている以上、識別標識として機能しないと判断されました。

条件1 ひらがな表記でも登録が難しくなる場合

この事件からすると、次のような場合には、ひらがな表記であっても識別力が否定されやすいです。

元の漢字・語句がすぐに分かる場合

「はっこう」から「発酵」、「じお」から「塩」のように、需要者が無理なく元の意味を読み取れる場合です。
表記を平仮名にしても、意味がそのまま伝わるなら、識別力は強くなりません。

その分野で一般的な組み合わせである場合

「発酵○○」のように、一定の語と普通名称を組み合わせる表現が取引上よく使われているなら、需要者はそれを説明表示として受け取りやすくなります。

商品の内容や特徴をそのまま想起させる場合

商品の品質、原材料、製法、用途などを自然に連想させるなら、商標というより説明文に近づきます。

条件2 逆に、ひらがな表記でも識別力が認められる余地がある場合

一方で、すべてのひらがな商標が説明的になるわけではありません。
次のような場合には、結論が変わる余地があります。

ひらがな化によって直ちに元の語が想起されない場合

表記をひらがなにしたことで、元の漢字語や意味がすぐには浮かばず、一種の新しい名称として受け取られる場合です。

語の組み合わせが一般的ではない場合

業界で普通に使われている組み合わせではなく、需要者にとってやや意外性のある結合なら、単なる説明表示ではないと見られることがあります。

全体として独特の語感や印象がある場合

たとえ個々の要素に意味があっても、全体として新しいネーミングとして記憶に残る場合には、識別力が認められる余地があります。

この事件から分かること

この事例が示しているのは、商標の識別力は、見た目の表記形式だけでは決まらないということです。

漢字をひらがなにしたり、カタカナにしたりすると、少し柔らかくなったり、見た目に独自性が出たりすることはあります。
ただ、それによって需要者が元の意味を普通に理解してしまうなら、説明的な性質は残ったままです。

つまり、

  • 漢字だからダメ
  • ひらがななら通る

という単純な話ではありません。
重要なのは、その表記を見た需要者が、商品の出所を示す名前だと受け取るのか、それとも商品の内容説明だと受け取るのかです。

次の判断に進むために見るべきポイント

こうした名称を考えるときは、次の順番で確認すると判断しやすいです。

まず、元の語の意味がそのまま伝わるかを見る

ひらがなにしても、需要者が元の漢字語や意味をすぐに理解するなら、識別力は弱いままです。

次に、その分野で同じような組み合わせが一般的かを見る

「発酵○○」「生○○」「熟成○○」のように、普通名称と結び付きやすい語は要注意です。

さらに、全体として新しいブランド名に見えるかを考える

一体的に書かれていても、意味の足し算としてしか理解されないなら、識別力は認められにくいです。

まとめ

識別力のない商標は、ひらがな表記にしただけでは登録しにくいです。

「はっこうじお」事件では、

  • 「はっこう」は「発酵」
  • 「じお」は「塩」

をそれぞれ平仮名で表したものと容易に理解され、
さらに食品分野では「発酵+普通名称」という組み合わせが一般的であることから、需要者はこれを商品の出所表示ではなく、内容や特徴を表す表示として理解すると判断されました。

この事例は、表記を変える工夫よりも、そもそもその名称が説明的すぎないかを先に見ることの大切さを示しています。
ネーミングの段階では、「読みやすいか」だけでなく、「それがブランド名として機能するか」まで考えておく必要があると思います。

サムライツ知財事務所では、こうした説明的商標の登録可能性や、ひらがな・カタカナ表記を含むネーミングの事前チェックについてもご相談いただけます。
問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願を検討したいという段階でも、整理しておくと次の判断に進みやすくなります。