結論:称呼が同一または近くても、外観の差が大きく、観念もずれ、しかも取引が称呼だけで行われていないなら、商標は非類似と判断され得ます。
知財高裁は令和7年9月25日判決で、本願商標「
」は引用商標「
」と称呼が近いとしても、外観と観念、取引の実情を総合すると出所の誤認混同はないとして、商標法4条1項11号該当性を否定し、審決を取り消しました。
https://www.courts.go.jp/hanrei/94612/detail8/index.html
目次
事案の概要
本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決の取消訴訟です。
本願商標(国際登録1499530号)は、赤色の「allstar」の欧文字に、左側の図形部分を組み合わせた構成からなり、指定商品にはフェンシング用武器などが含まれていました。引用商標(登録第431660号の1)は「All Star」で、第28類の運動用具を指定商品としていました。特許庁は、両商標は外観・称呼・観念を総合すると類似するとして4条1項11号該当性を認めました(不服2023-650052)が、知財高裁はこれを覆しました(令和7年(行ケ)第10033号)。
理由1 文字部分だけを抜き出して比較しなかった
裁判所がまず重視したのは、本願商標を「allstar」の文字部分だけに分けて見るのは不自然だという点です。
判決は、本願図形部分と本願文字部分は一体となって、全体として一定の観念を想起させるよう構成されており、文字部分だけが出所識別標識として特に強く支配的な印象を与えるとはいえないとしました。そのため、図形部分と文字部分を分離観察するのは取引上不自然であり、相当でないと判断しています。
これは実務上かなり重要です。
文字商標に図形を足しただけに見えても、その図形が商標全体の意味や見え方に組み込まれていれば、文字部分だけを要部として比較できないことがあります。
理由2 外観の差をかなり強く評価した
本件で最も効いているのは、やはり外観です。
裁判所は、本願商標には本願図形部分が存在し、そこにフェンシングの剣を模した図形が含まれていること、「allstar」が一語で全て小文字であるのに対し、引用商標は「All Star」とスペースがあり頭文字が大文字であること、さらに字体、線の太さの均一性、ふりがなの有無などの差を挙げ、両者は取引者・需要者に与える印象において顕著な差異があるとしました。
そのうえで、両者の外観が類似していないことは明らかとまで言い切っています。
この判決は、最近の傾向として感じられる、外観の違いを丁寧に拾う流れをかなりはっきり示しています。特に、本願商標がロゴ的要素を強く持つ場合には、称呼の近さだけで押し切られないことがあると分かります。
理由3 称呼は近くても、それだけでは足りなかった
裁判所は、本願商標からは「アルスター」又は「オールスター」の二つの称呼が生じるとしました。
このうち「オールスター」は引用商標の称呼と同一又は極めて類似すると認めています。つまり、称呼の近さ自体は否定していません。
それでも非類似とされたのは、称呼が商標類否の唯一の決め手ではないからです。
この事件では、称呼が似ることは前提にしつつ、それを上回る外観差と観念差、さらに取引の実情を重ねて総合判断しています。
理由4 観念も完全には一致していなかった
観念について、裁判所は本願商標からは全体として「フェンシングのオールスターの」という観念が生じるのに対し、引用商標からは「オールスターの」という観念が生じるにとどまるとしました。
したがって、両者は観念のすべてを共通にするものではないとされています。
ここも見逃せません。
単に「オールスター」という言葉が入っているから同じ観念だ、とは整理されませんでした。図形部分がフェンシングを想起させる以上、本願商標は競技分野が具体化された観念を帯びると評価されたわけです。
理由5 取引の実情では、称呼だけで商品が識別されていなかった
裁判所は取引の実情も見ています。
判決は、フェンシング関係者の間では本願商標について、引用商標と異なる称呼である「アルスター」が相当程度定着していると認定しました。他方で、運動用具を購入する需要者・取引者にとっては、服やグローブ等に付された商標の外観も重要であり、本願商標の指定商品が広く専ら称呼のみによって取引されているとまでは認められないとしています。
つまり、
称呼が似ている → だから混同する
という単純な話にはならなかったわけです。
見た目で識別される要素が強い市場では、外観の役割はやはり大きいといえます。
条件1 称呼が似ていても非類似になりやすい場合
この判決からすると、次のような条件があると、称呼が近くても非類似の方向に振れやすいです。
商標全体を分離できない場合
図形と文字が一体化していて、文字部分だけが支配的とはいえない場合です。要部抽出ができないと、外観差がそのまま効きやすくなります。
外観差が大きい場合
ロゴ要素、文字のつながり、スペースの有無、大文字小文字、字体、装飾などが重なって、全体の印象がかなり違う場合です。
観念がずれる場合
本願商標が図形や構成により特定分野を想起させるのに対し、引用商標はより一般的な意味にとどまるような場合です。
取引が称呼だけで行われていない場合
実際の市場で、パッケージ、ラベル、ロゴの見た目がかなり重視される商品では、外観差の重要性が増します。
条件2 逆に類似とされやすいのはどんな場合か
逆に、次のような事情があると、称呼の共通がより強く効きやすいです。
文字部分だけが強く支配的な場合
図形が単なる飾りにすぎず、需要者が実質的に文字だけで認識するような構成なら、称呼共通が重く見られやすいです。
外観差が小さい場合
単にスペースの有無や軽い装飾差しかなく、全体としてほぼ同じ単語に見えるなら、外観差は押し戻されやすくなります。
観念も同じ場合
図形や追加要素があっても、結局同じ意味しか想起させないなら、称呼と観念の共通が強く出ます。
口頭取引の比重が高い場合
見た目より呼び方で流通する商品・役務では、称呼がより重視されやすいです。
この事件から分かること
この「allstar」事件は、称呼が類似しても、それだけで類似商標になるわけではないことをかなり明確に示しています。
特に今回は、
- 分離観察が否定され
- 外観差が顕著とされ
- 観念も完全一致ではなく
- 取引実情でも外観の役割が重い
という事情が重なったため、称呼の共通を上回る形で非類似判断に至りました。
最近の審決・判決を見ていると、以前よりも外観の違いを丁寧に見る流れが強まっているように感じます。この事件は、その流れを裏付ける一例としてかなり参考になります。
まとめ
称呼が類似しても、外観と観念が大きく異なり、取引上も見た目が重要なら、商標は非類似になり得ます。
「allstar」事件では、本願商標は引用商標と「オールスター」の称呼を共通にし得るにもかかわらず、
- 本願商標は図形と文字が分離できない
- 外観差が顕著である
- 「フェンシングのオールスターの」という観念が生じる
- 取引では外観も重要で、「アルスター」という異なる呼び方も定着している
という事情から、商品の出所に誤認混同を生じるおそれはないとされました。
ロゴ商標やデザイン化された文字商標では、称呼だけでなく、全体の見え方と想起される内容まで含めて設計することが、これまで以上に重要になっているように思います。
サムライツ知財事務所では、こうしたロゴ商標と文字商標の使い分けや、称呼が近い先行商標との距離の取り方についてもご相談いただけます。問い合わせる前に比較したい、比較したうえで出願を検討したいという段階でも、整理しておくと次の判断に進みやすくなります。
