──怒る前にやるべき「6つのステップ」
オリジナルの施術メニューを育てていると、ある日こんな場面に出くわすことがあります。
- 「うちが商標登録した施術名と、ほぼ同じ名前が他院のメニューに…」
- 「LPも似ているし、どう見ても“便乗”されている気がする」
- 「これって、商標権侵害ですよね? 今すぐやめてほしい!」
気持ちとしては、すぐに電話して文句を言いたくなるところですが、
ここで感情だけで動くと、かえって不利になることもあります。
結論から言うと──
- 本当に「商標権侵害」と言えるのかを、まず冷静に確認する
- そのうえで、証拠を確保し
- やわらかいコンタクト → 専門家経由の正式警告 → それでもダメなら次の手段
という順番で進めるのが、安全かつ現実的です。
この記事では、
- 何を確認してから動くべきか
- どういう順番で対応していくのが良いか
- 絶対にやってはいけない対応
を、できるだけ実務寄りに整理していきます。
目次
1. まずは「本当に商標権侵害といえるか」を冷静にチェック
最初にやるべきは、腹を立てることではなく状況整理です。
① 自院の商標登録の内容を確認する
最低限、次のポイントを押さえます。
- 登録番号・商標の内容
- 文字商標か(例:「〇〇整体」「△△メソッド」)
- ロゴ付きの結合商標か
- 区分・指定商品・役務
- 多くの施術メニュー名は「第44類(整体、マッサージ、鍼灸、美容等)」で登録しているはず
- 出願日・登録日
- 権利が発生しているのは「登録日」以降
- 出願中の段階では、まだ商標権は発生していません
「出願したから安心」ではなく、「登録まで進んでいるか」が大事なポイントです。
② 相手の使い方が「商標的使用」になっているか
商標として問題になるのは、
その名前をサービスの名前として使っているかどうか
です。
- メニュー表のコース名として使っている
- ホームページの料金表・予約ボタンに、その名前がドンと出ている
- 広告バナーやLPの「メニュー名・プラン名」として表示している
こうした使い方であれば、商標的使用と評価されやすいです。
一方で、
- 説明文の中で「◯◯式に近いイメージで…」と比喩的に書いているだけ
- 一般的な説明用語として使っているにすぎない
という場合は、
商標権侵害として主張できるかどうか、慎重な検討が必要になってきます。
③ 本当に「同一・類似」といえる名前か?
こちらの感情としては「完全にパクリ」に見えても、
法的には「類似とまでは言えない」というケースもあります。
- 文字・読み・意味の近さ
- 全体の印象として、患者さんが混同しそうかどうか
- 指定役務(整体/美容医療/エステ等)が重なるか
といった観点から判断されます。
自分では「ほぼ同じ」であっても、
法律上の「類似」とはズレることもあるため、ここは専門家の目で確認してもらうのが安全です。
④ 相手の方が先に使っていなかったか(先使用)
意外と見落としがちなのが、「どちらが先に使っていたか」です。
- 自院がその施術名を使い始めた時期
- 相手院がその施術名を使い始めた時期
もし、
相手院の方がずっと前から使っていた
+
自院が後から商標登録している
というケースでは、
- 相手に「先使用権」(商標法32条)の余地が出てくる
- こちらの登録自体が無効・取消のリスクを抱えることもある
ので、軽々しく「やめろ」とは言いづらくなります。
2. やる気になっても、その前に「証拠」を押さえる
侵害かどうかの検討と並行して、証拠の確保も進めておきます。
残しておきたい証拠の例
- 相手院のホームページの該当ページ(URL付きのスクリーンショット)
- 予約サイト(ホットペッパー等)のメニュー画面
- メニュー表・チラシ・外看板の写真
- SNS投稿(Instagram・LINE公式・Xなど)のキャプチャ
ポイントは、
「いつ」「どこで」「どういう表示で」使われていたか
が分かる形で保存しておくこと
です。
後から相手がページを消してしまっても、
証拠として提示できるようにしておきましょう。
3. いきなり内容証明は危険。まずは“やわらかい一歩”から
権利を持っている側でも、
最初からケンカ腰でいくと話がこじれやすいです。
まずは、
- 電話やメールで事実確認を兼ねてコンタクト
- 「実はこの施術名は当院の登録商標でして…」と冷静に説明
- 「もし意図的ではなければ、表記のご変更をご検討いただけないでしょうか」と丁寧にお願い
といった ソフトなアプローチから始めるのが現実的です。
実際、「知らずに使っていた」だけで、話せばすぐに改名してくれるケースも少なくありません。
4. 応じない場合は、専門家を通じて「正式な警告」を検討
話し合いレベルで対応してもらえない場合は、
- 弁理士/弁護士に相談
- 警告書(内容証明郵便)による正式な通知
というステップに進みます。
警告書に盛り込まれる内容のイメージ
- 自院の登録商標の内容
- 商標の表示、登録番号
- 区分・指定役務(例:第44類 整体・マッサージ 等)
- 相手がどのように同一/類似商標を使っているか(証拠の要約)
- それが商標権侵害に当たると考える理由
- 求める対応
- メニュー名・サイト・広告等での使用中止
- 必要に応じて、表記変更の期限
- 一定期間内の回答の依頼
トーンとしては、
感情的な表現を避け、
事実と条文に基づいて、淡々と侵害の可能性と対応要請を示す
というのがポイントです。
※この段階から、必ず専門家を通した方が安全です。
5. 予約サイト・SNSなど「プラットフォーム側」の対応も選択肢に
最近は、施術メニュー名が
- 予約サイト(ホットペッパー、EPARK など)
- Googleビジネスプロフィール
- Instagram・TikTok・YouTube など
を通じて広く露出しているケースが多いですよね。
多くのプラットフォームには、
知的財産権(商標権など)侵害の通報・申立窓口
が用意されています。
- 登録商標(登録番号・名称・区分)
- 侵害と考える表示のURL・スクリーンショット
- どの点が侵害に当たるのかの説明
などをあらかじめ整理しておくと、
- プラットフォーム側が表示停止・修正を促してくれる場合
- 少なくとも、相手側との交渉材料になる場合
があります。
これも、自己判断で突撃するより、弁理士と一緒に整理してから申立てた方が安心です。
6. どうしても収まらない場合:訴訟・仮処分という選択肢
ここまでのステップを踏んでも、
- 相手が一切応じない
- 被害規模が大きく、看過できない
といった場合は、
- 使用差止請求訴訟
- 仮処分(差止の仮の措置)
- 場合によっては 損害賠償請求
といった、裁判手続を視野に入れることになります。
ただし、
- 費用(時間・コスト)
- 公開されることによるイメージへの影響
- 現場のストレス
も大きいため、
どこまで戦うのか
どのラインで和解・解決とするのか
は、専門家とシミュレーションしたうえで慎重に判断した方がよい領域です。
7. 絶対に避けたいNG対応
最後に、「やりがちだけれど危ない」対応も挙げておきます。
SNSで名指し批判・“晒し”をする
- 「◯◯院に施術名をパクられました」
- 「これは完全な盗用です。皆さん気をつけてください」 など
やりたくなる気持ちは分かりますが、
- 名誉毀損・信用毀損
- 場合によっては、逆に損害賠償請求されるリスク
になり得ます。
SNSでの“公開処刑”は、最後の最後まで封印しておくのが賢明です。
法的根拠があいまいなまま、強い言葉で脅す
- 「100万円払わないと訴えます」
- 「これは完全に犯罪行為です」 など
実際には権利範囲が微妙なケースでこうした表現を使うと、
- こちらの方が「不当な請求」「権利の濫用」と見られる可能性
も出てきます。
強い表現・お金の話が出てくるラインは、必ず専門家を挟むことをおすすめします。
まとめ:「技術」ではなく、「技術の名前」をどう守るか
Q. 商標登録した施術名を他院が無断でメニューに入れたら、どうすべき?
ざっくり整理すると、次の流れになります。
- 本当に商標権侵害といえる状況か、冷静に整理する
- 自院の商標登録の内容(区分・指定役務・登録態様)
- 相手の使用態様(メニュー名・広告等)
- 類似性・先使用の有無
- 相手の使用実態の証拠をきちんと保存する
- まずはやわらかいコンタクト(事実確認+説明)から試す
- 応じない場合は、
弁理士・弁護士と相談のうえ、警告書・内容証明で正式に対応を求める - 予約サイト・SNSなどには、
プラットフォーム経由での申立・表示停止の相談も選択肢になる - それでも解決しない & 被害が大きい場合は、
訴訟・仮処分・損害賠償請求なども視野に入れつつ、コストと効果を検討する
そして大前提として──
商標が守るのは、「施術の中身」ではなく「施術の名前」です。
だからこそ、技術 × 名前 = ブランドをどう設計して、どう守っていくかが重要になります。
「この施術名は、これから10年育てていきたいブランドだ」と思えるなら、
登録だけでなく、“守り方”まで含めて一度整理しておくと、いざというときに慌てずにすみます。
感情より先に、事実と権利の整理から。
それが、ブランドと現場の両方を守る、一番の近道だと思います。
