「医薬品の名前を商標登録したいけど、とりあえず第5類で出しておけばいいのかな?」
「製造もするし、自社ECで販売もしている。小売は第何類…?」
「薬局チェーンの名前は第5類?第35類?第44類?」
…と、医薬品周りのビジネスは、区分選びがややこしくなりがちです。
結論から言うと:
- 医薬品 → 第5類
- 医薬品の受託製造・加工等のサービス → 第40類
- 調剤薬局・ドラッグストアの「小売サービス」 → 第35類
- 病院・クリニックなどの医療サービス → 第44類
- 医療機器 → 第10類(+必要に応じて第5類・第35類など)
という整理で考えると、かなりスッキリします。
この記事では、医薬品まわりの商標区分を、
- まず「ざっくり全体像」
- 次に「よくある業態別のおすすめ組み合わせ」
- 最後に「やりがちな勘違い」
の順番で整理していきます。
目次
1. まずは結論:医薬品ビジネスでよく使う4つの区分
医薬品関連で登場頻度が高いのは、この4つです。
| 区分 | 主な内容のイメージ | 医薬品まわりでの典型例 |
|---|---|---|
| 第5類 | 医薬品・医薬部外品・衛生用品 等 | 処方薬、OTC、医薬部外品、医療用化粧品、サプリの一部 |
| 第40類 | 医薬品の受託製造・加工等のサービス | 医薬品のOEM/ODM(CMO/CDMO) |
| 第10類 | 医療機械器具 | 注射器、医療用機器、血圧計など |
| 第35類 | 小売・卸売サービス | 医薬品の小売・卸売、ドラッグストア・オンライン薬局の販売サービス |
| 第44類 | 医療・調剤等のサービス | 医業、歯科医業、薬剤師による調剤、医療に関する助言 等 |
ざっくり言うと、
- 「モノ(製品)」に対しては第5類・第10類
- 「製造するサービス」には第40類
- 「売るサービス」には第35類
- 「診察・治療などの医療行為」には第44類
を選ぶイメージです。
2. 医薬品メーカーなら、まず押さえるべきは第5類、受託製造なら第40類
自社ブランドの医薬品名を守りたい → 第5類
第5類には、たとえば次のようなものが含まれます。
- 医療用医薬品(いわゆる処方薬)
- 一般用医薬品(OTC医薬品・市販薬)
- 医薬部外品
- 医療用化粧品(※医薬部外品扱い)
- 殺菌剤・消毒剤
- 一部の健康食品・サプリメント(効能・位置付けによる)
先発品の販売名・ブランド名
ジェネリックメーカーの自社ブランド名
医療用化粧品のシリーズ名
など、製品そのものに付ける名前は、基本的に第5類で商標登録を検討することになります。
受託製造サービスのブランド名を守りたい → 第40類
医薬品そのものの名前は第5類に該当しますが、
他社からの委託を受けて医薬品を製造するサービス(受託製造・CMO/CDMO 業務)は、第40類「医薬品の製造」に分類されます。
3. 医療機器メーカーなら第10類も重要
医薬品と一緒に語られやすいのが、医療機器です。
- 手術機器
- 注射器・シリンジ
- 医療用検査機器
- 医療用測定機器(血圧計など)
こうした 「医療機械器具」には第10類 が対応します。
例:医薬品+医療機器を扱う場合
- 注射剤(薬液) → 第5類
- その注射器・投与デバイス → 第10類
…という形で、ひとつのブランドでも複数区分にまたがることはよくあります。
4. ドラッグストア・薬局チェーンなら第35類+第44類
「◯◯ドラッグ」「△△薬局」といった屋号を守りたいときは、製品名の第5類とは別の発想が必要です。
「小売サービス」としてのブランド → 第35類
たとえばドラッグストアチェーンの名前は、
- 医薬品の小売又は卸売に関する業務
- 化粧品・日用品などの小売
といった意味で、第35類 で保護するのが基本です。
例:
- 「◯◯ドラッグ」の屋号 → 第35類「医薬品の小売又は卸売に関する業務」など
- ECサイト名「△△オンライン薬局」 → 同じく第35類
調剤や医療的なサービス → 第44類
調剤薬局やクリニックが、「医療サービスとしての名前」を守りたい場合は第44類が関係します。
第44類には、
- 医業
- 歯科医業
- 薬剤師による医薬品の調剤
- 医療に関する助言
- 医療用化粧品を用いた美容施術 等
が含まれます。
そのため、
- 薬局名・クリニック名・医療機関ブランド名
→ 第44類 「医療」「調剤」等の役務での出願
という形もよく用いられます。
5. よくある業態別「おすすめ区分」組み合わせ
① 先発医薬品メーカー
目的:
先発薬の販売名(ブランド名)、シリーズ名、企業ブランド名を守りたい
典型的な組み合わせ:
- 第5類
- 医薬品全般
- 医薬部外品(医療用化粧品など)
- 必要に応じて 第35類
- 医薬品の小売・卸売サービス(自社ECや直販ブランドが強い場合)
- 専用デバイスがあるなら 第10類 も検討
- 投与デバイス・検査機器 など
② ジェネリックメーカー・OTCメーカー
基本的には①と同じく第5類が中心ですが、
- 自社ブランドで通販サイトを展開している
- 「◯◯ヘルスケアオンライン」のような販売サービスブランドを育てたい
という場合には、
- 第35類(小売・卸売サービス) も合わせて検討
するのが現実的です。
③ ドラッグストア・オンライン薬局
目的:
チェーン店名・ECサイト名としての「店のブランド」を守りたい
おすすめ:
- 第35類
- 医薬品の小売又は卸売に関する業務
- 化粧品・日用品の小売 等
- 医療的サービス(在宅医療・薬剤師による服薬指導など)を前面に出すなら
→ 第44類 も検討
店の名前だけ第5類に出願しても、「医薬品そのもの」に使っていなければ不使用取消のリスクもあるので、実態に即した区分選択が重要です。
④ 病院・クリニック・医療機関ブランド
目的:
病院名・クリニック名・医療法人ブランドを守りたい
基本は:
- 第44類
- 医業
- 歯科医業
- 医療に関する助言 等
美容医療系で、医療用化粧品・ドクターズコスメを自ブランドで販売する場合は、
- 商品名 → 第5類
- クリニックブランド名 → 第44類
- ECサイト・物販サービス → 第35類
という 3区分構成 になることも珍しくありません。
⑤ 医薬品の受託製造・CMO/CDMO
目的:
医薬品の受託製造メーカーとしてのブランドを守りたい
おすすめ:
- 第40類
- 受託による医薬品の製造
- 医薬用材料の加工
6. よくある勘違いと注意ポイント
勘違い①:医薬品なら全部「とりあえず第5類で出しておけばOK」
→ NGではないですが、「何を守りたいのか」で必要区分は変わります。
- 「薬そのものの名前」なのか
- 「薬局チェーンの屋号」なのか
- 「ECサイトのサービス名」なのか
- 「病院・クリニック名」なのか
- 「受託製造メーカー名」なのか
によって、第5類/第35類/第44類/第10類/第40類 の使い方が変わります。
勘違い②:区分さえ取っておけば、その分野全部が守られる
→ 商標の効力は「区分」ではなく「指定商品・役務」の範囲に及びます。
第5類を取ったからといって、「第5類に属するあらゆる商品」が自動的に守られるわけではありません。
- どんな商品を指定したか(指定商品)
- どんなサービスを指定したか(指定役務)
で保護範囲が決まるため、
- あまりに広く取りすぎて不使用取消リスクを上げない
- 狭すぎて、実際の事業がカバーできない…ということも避ける
という「ちょうどよい指定」が重要になります。
勘違い③:とにかく区分を増やせば安心
区分を増やすと、
- 出願・登録費用が上がる
- 更新費用も増える
- 区分ごとに「使っていないと取消」のリスクも増える
というデメリットもあります。
医薬品まわりは、
第5類+(必要なら)第10類/第35類/第44類/第40類を“戦略的に”組み合わせる
という視点が大事です。
7. 「うちのケースだとどれ?」と思ったら…
ここまで読んで、
- 「第5類なのは分かったけど、指定商品をどこまで広げるべきか?」
- 「ECもやっているから、第35類も出した方がいい?」
- 「複数ブランドをどう整理して区分を取ればいい?」
といった具体的な悩みが出てくるかもしれません。
その場合は、
- 自社のビジネスモデルを書き出す
- 製造だけなのか
- 自社ブランドで販売もしているのか
- 店舗・EC・卸のどこまでをやっているか
- 「守りたい名前」がどこに付いているのかを整理する
- 製品名?
- 会社・ブランド全体の名前?
- 店舗・サービス名?
という2ステップで棚卸しすると、必要な区分がかなり見えてきます。
まとめ:「医薬品だから第5類」だけで終わらせない
医薬品まわりの商標区分は、ざっくりまとめると次のようになります。
- 医薬品そのものの名前 → 第5類
- 医療機器 → 第10類
- ドラッグストア・オンライン薬局などの販売サービス → 第35類
- 病院・クリニック・調剤薬局などの医療サービス → 第44類
- 医薬品の受託製造サービス → 第40類
そして、
- 区分だけでなく「指定商品・指定役務」の中身で保護範囲が決まる
- 取りすぎても、使っていなければ不使用取消のリスクがある
- 「何を守りたいのか?」を先に整理するのがいちばんの近道
という点も、あわせて押さえておきたいところです。
医薬品は、人の健康や命に関わる分野だからこそ、
ブランドと表示の信頼性も一緒に設計することがとても大切です。
区分選びに迷ったときは、
「この名前を、どの“モノ”や“サービス”に使っているのか?」
という視点から整理してみてください。
そこから、必要な区分が自然と浮かび上がってきます。
