化粧品の商標の「区分」はどれを選べばいいですか?

化粧品の商標の「区分」はどれを選べばいいですか?

コスメブランドを立ち上げると、ほぼ必ずぶつかるのがこの疑問です。

  • 「化粧品なら第3類って聞くけど、本当にそれだけで大丈夫?」
  • 「ECメインだけど、小売の区分も取った方がいい?」
  • 「ブラシやスポンジも出してる場合はどうなるの?」

ざっくり結論から言うと──

化粧品ブランドの基本は「第3類+必要に応じて第35類、21類、44類」
ただし、守られるのは「区分そのもの」ではなく、指定した商品・役務の類似範囲です。

この記事では、

  • そもそも「区分」とは何か
  • 化粧品ブランドでほぼ必須となる区分
  • EC・サロン・雑貨展開まで見すえた区分の選び方
  • 小さなブランドが現実的にどう決めればいいか

を、できるだけ実務目線で整理していきます。


まず押さえたい大前提:「区分」ではなく「指定商品・役務」が守られる

商標の世界でよく出てくる「第3類」「第35類」といった数字は、
「ニース国際分類」という大きなカテゴリー(区分)を指します。

ただし、重要なのはここです。

商標で実際に保護されるのは、
区分そのものではなく、その中に書いた「指定商品・役務」とその類似範囲です。

たとえば第3類の中には、

  • 化粧水
  • 乳液
  • 美容液
  • シャンプー
  • 香水

など、たくさんの商品が含まれます。

同じ第3類でも、

  • 「化粧品,香水」と指定しているのか
  • 「せっけん類,シャンプー,ヘアトリートメント」と指定しているのか

によって、実際にどこまで権利が及ぶか(=類似範囲)は変わってきます。

なので、

  • 「とりあえず第3類を取っておけば安心」
     ではなく、
  • 第3類の中で、自分はどの商品を指定すべきか

を考えるのが大事なポイントになります。


化粧品ブランドで「ほぼ必須」なのは第3類

第3類:化粧品・香水など「中身」そのもの

一般的なスキンケア・メイク・フレグランスなどのブランドなら、
まず押さえるべきは 第3類(化粧品関係) です。

例としては、こんな指定の仕方がよく使われます。

  • 化粧品
  • 美容液
  • 乳液
  • クリーム
  • 化粧水
  • パック
  • メイクアップ化粧品
  • 日焼け止め
  • シャンプー,リンス
  • ボディローション
  • 香水,オーデコロン など

実務的には、

  • 今売っているもの
  • 今後確実に展開する予定があるもの

を中心にリストアップして、その中から指定商品を組み立てていきます。

「とりあえず第3類の代表的なものを全部書く」のではなく、
自社の事業に即した商品を選ぶことが大切です。
(使っていない商品ばかり指定すると、不使用取消リスクも高まります)


一緒に検討したい周辺区分

化粧品ブランドといっても、やっていることは「中身の販売」だけとは限りませんよね。
EC、小売、サロン、雑貨…を考えると、次の区分も検討対象になります。

第35類:化粧品の小売・通販サービス

D2C・ECブランドなら、かなり重要になるのが 第35類 です。

例:

  • 化粧品の小売又は卸売に関する業務
  • インターネットを利用した化粧品の小売又は卸売に関する業務
  • 香水の小売又は卸売に関する業務 など

イメージとしては、

  • 第3類 → 商品そのもの(ボトルに付いているブランド)
  • 第35類 → ショップ・ECサイト名としてのブランド

を守るイメージです。

オンライン中心のブランドなら、 「第3類+第35類」をセットで押さえておく
というのが、実務的にはかなりおすすめです。


第21類:化粧用具・容器・雑貨

化粧品ブランドでよく出てくるのが、

  • 化粧用ブラシ
  • 化粧用スポンジ・化粧用パフ

といった 「化粧用具・雑貨」 の展開です。

こういったアイテムは、第3類ではなく 第21類 に入ることが多いです。

例:

  • 化粧用具(メイクブラシ等)
  • 化粧用スポンジ など

将来的に、

「メイクブラシやツールもブランドの柱にしたい」

というイメージがある場合は、第21類も併願候補になります。


第44類:サロン・エステ・美容サービス

次のようなケースでは 第44類 も検討対象です。

  • エステサロンを自社ブランド名で運営している
  • フェイシャル・ボディケアの施術サービスを提供している
  • クリニック併設のコスメブランド など

例:

  • 美容に関する情報の提供
  • 美容,エステティックサロンにおける施術
  • フェイシャルエステ など

同じブランド名で、

  • 「サロン」と
  • 「コスメ」

を展開する場合は、

  • 第3類(化粧品)
  • 第44類(美容サービス)

の両方を押さえると、ブランドの一貫性を守りやすくなります。


番外編

第5類(医薬品・サプリ系)

純粋な「化粧品」というより、

  • 医療用化粧品をしっかり展開していく
  • サプリメントも同じブランドで出したい

といった場合には、第5類(医薬品・サプリ関係)も検討することがあります。

ただし、ここは化粧品とは別の規制(薬機法上の扱い)も絡んでくるため、

「第3類+第5類で押さえるべきかどうか」

は、実際の製品構成や表示内容を見ながら個別に判断していくことになります。

第18類(かばん類・袋物・携帯用化粧道具入れ)

化粧用ポーチ、化粧用具入れ、化粧品ケースなどを販売する場合は、第18類(医薬品・サプリ関係)も検討します。


どう選ぶ? 区分選定の考え方フロー

ざっくり、こんなステップで考えると整理しやすくなります。

ステップ1:自社の事業内容を書き出す

  • いま販売している商品
  • ほぼ確実に出す予定の商品
  • 他人に商標を使われると、自社商品と混同されそうな商品
  • ブランド名を冠して提供しているサービス(サロン等)
  • EC/店舗での販売の仕方

これを一度ノートに全部書き出します。

ステップ2:それぞれがどの「商品・役務」に当たるかをざっくり分類

  • スキンケア・メイク・香水 → 第3類
  • ブラシ・パフなどのツール → 第21類
  • EC・小売・セレクトショップ運営 → 第35類
  • サロン施術・カウンセリング → 第44類
  • サプリ・医薬品寄りの商品 → 場合によって第5類

というイメージで、マッピングしていきます。

ステップ3:予算に応じて「核」から優先順位をつける

たとえば、

  • ミニマムで守るなら
  • 第3類(化粧品)
  • EC主体のD2Cブランドなら
  • 第3類(化粧品)+第35類(化粧品の小売・通販)
  • サロン併設なら
  • 第3類+第44類(美容サービス)+余裕があれば第35類
  • 道具・雑貨までブランドの柱にしたいなら
  • 第3類+第21類+第35類

…といった形で、フェーズに合わせて優先順位をつけていきます。


よくある勘違いと、その整理

誤解①:「区分を広く取れば、とりあえず安心」

→ 単に区分を増やすだけでは意味がありません。

  • 実際に使う予定のない商品・役務を大量に指定しても、
  • 使っていなければ「不使用取消審判」で消されるリスクが上がる
  • 出願・登録・更新費用だけが膨らむ
  • 何より、事業実態とかけ離れた権利は、トラブルのもとになりがちです。

大事なのは「広さ」より「自社ビジネスとの合致」です。

誤解②:「第3類さえ押さえておけば、化粧品関係は全部守れる」

→ 守られるのはあくまで「指定した商品・役務」とその類似範囲です。

  • 第3類の中でも、指定商品によって効力の及ぶ範囲は変わります。
  • 将来的に「ヘアケア」「ボディ」「香水」まで広げたいなら、
  • 最初からそれを見越した指定の仕方をする
  • あるいは後から追加出願する
    といった戦略が必要です。

誤解③:「ネットだけで売るから、第3類だけでいい」

→ EC主体でも、第35類(小売サービス)が効いてくる場面は多いです。

  • ブランド名でオンラインショップを運営している
  • 将来的に「公式ストア」としてのポジションを強くしたい

こんなケースでは、

「商品としてのブランド」+「ショップとしてのブランド」

の両方を守る意味で、第35類も検討する価値があります。


小さなコスメブランド向け「現実的なおすすめパターン」

規模が小さいうちは、全部を一気に取るのは難しいことも多いですよね。
そんなときの「現実解」の一例です。

パターンA:オンライン中心のスキンケアブランド

  • 第3類:化粧品(スキンケア一式)
  • + 余裕があれば第35類:化粧品の小売又は卸売に関する業務

パターンB:メイク+雑貨も出していくブランド

  • 第3類:メイクアップ化粧品,スキンケア
  • 第21類:化粧用具,化粧用スポンジ,ブラシ等
  • 第35類:化粧品・化粧用具の小売又は卸売に関する業務

パターンC:サロン発コスメブランド

  • 第3類:サロンで使う・販売する化粧品
  • 第44類:美容,エステティックサロンにおける施術
  • (+オンライン販売が重要なら第35類)

あくまで一例なので、実際には

「今」と「3年後」の事業イメージ

をもとに組み立てていくのがベストです。


専門家に相談すると何が変わる?

弁理士などの専門家に相談すると、例えばこんなところを一緒に整理できます。

  • 自社の事業内容をもとにした
    最適な区分、指定商品・役務の設計
  • 将来のライン拡張も見すえた
    「取り過ぎず・足りなすぎず」のバランス
  • 不使用取消リスクを踏まえた
    現実的な守り方の提案
  • 他人の商標との衝突リスク(先登録)の確認

「第3類でいいのか、第35類も要るのか…」と悩んで手が止まってしまうくらいなら、
一度棚卸しがてら相談してみると、その後の判断がだいぶラクになります。


まとめ:区分選びは「事業の棚卸し」から始める

化粧品ブランドの区分選びで押さえたいのは、このあたりです。

  • 化粧品の基本は第3類。守られるのは区分全体ではなく「指定商品・役務」とその類似範囲
  • ECやショップ名としてのブランドも重視するなら、第35類も検討
  • ツール・雑貨・サロン展開があるなら、第21類・第44類も視野に
  • 「とりあえず広く」ではなく、自社の事業実態と今後の計画に合わせて選ぶ
  • 迷ったら、
    企業ブランド名(ハウスマーク)+主力ラインの第3類
    から順番に押さえていけばOK

区分選びは、単なる「書類の書き方」の話ではなく、
「このブランドをどう育てていくか」を言語化するプロセスでもあります。

一度きちんと棚卸ししておくと、
その後のネーミングやブランド展開の判断も、ぐっとブレにくくなりますよ。